第3章 第6話 銀級探索者
五階層ボスの討伐を終え、四人はギルドに戻ってきた。依頼カウンターに並んで本日の成果を報告する。その際、黒鉄級の二人だけで討伐してみせたことを証言し、解体場での傷跡の検分から報告が認められて、晴れて銀級に昇格が決まった。
長い間二人は黒鉄級で足踏みをしていたらしく、ここでも涙目になって喜んでいた。
成果物は全てギルドの買い取りでお願いし、支払いは迅速に行われた。
今日は二人が銀級に昇格した記念なので、マツリとエイルの奢りだ。
ギルドで担当してくれた耳長族の女性職員に聞いた、美味しいお勧めのステーキハウスにやってきた。
「ワイバーン肉のステーキだ、思う存分食ってくれ!何グル食べる?一キラくらいいっちゃう?」
案内された個室でエイルがそう宣言し、サイズを訊く。一般では二百グルくらいが一人前とされるが、探索者は食が太い者が多い。五人前相当の一キラくらい、一人で行けちゃう女性探索者は結構いるのだ。
カナリエもレーヴィアもワイバーン肉など食べた事がない。そして一キラの肉塊にも挑んだ事などない。
「私一キラいく!肉塊ってなんかこう、高まるよね?」
マツリは早速一キラを選んだ。マツリが一キラに挑戦するならと、結局全員が一キラのワイバーンステーキを頼んだ。
よく食べる赤味肉とは違い、格別に美味い肉だった。「口の中で蕩ける」というのはこれかと実感し、謎の食レポ勝負が始まったりと賑やかな一時を楽しんだ。
ちなみに全員が完食した。重たくなった腹を抱えて宿に帰る。食べた量に後悔はないが、明日は休養日にしよう、と皆の意見が一致した。
◆◆◆◆
翌日、エイルは一人で街を歩いていた。
ギルドお勧めの魔道具屋に行き、装飾品の魔道具を眺める。その中で防毒効果のある銀細工のネックレスを見付け、それを二つ購入する。
魔道具屋を出ると、同じ意匠のローブを羽織った少年少女が歩いているのを見かけた。
「(あれが士官学校の生徒かな?)」
その背を眺めながら探索者ギルドに向かうと、道中ずっと彼らが前にいた。目的地が同じだったらしい。ギルド内に着くとエイルは依頼ボードの方へ行き、「銀級以上」の条件指定がある依頼をチェックする。
銀級は上級探索者の中で中堅にあたる。上級探索者とはいえ黒鉄は「上級に上がりたてで経験が浅い」と思われがちで、そのためか「上級探索者は貴金属級からが本物」という風潮がある。「銀級以上の条件指定があるような依頼を受けたい」と思うのは、上りたて特有の病気のようなものだ。カナリエ達も休養日にした今日が終われば、明日にでも銀級の依頼を受けてみたいと言い出すだろう。何か割の良い案件があったら紹介してやろうかと思い下調べしていた。
「きゃっ!や、やめてください!」
女子の悲鳴が聞こえたので振り向くと、さっきの学生集団がベテランぽく見える年頃の探索者達と対峙していた。
「(揉め事か?ギルド内でいざこざとは、職員にすぐバレて「問題行動あり」とされても仕方がないというのに)」
「お前ッ!学生だからと思って優しくしてやれば頭に乗りやがって!」
ガタイの良い凶悪面の男が腰をかがめ、学生達のリーダーっぽい男子に下から舐め挙げるようにメンチを切る。
「はんッ!何が黒鉄級だ!どうせ長く続けたからと温情で黒鉄級を貰っただけだろう!」
前後の脈絡が判らないが、この場面だけみればどっちもどっちだ。むしろ学生が失礼な事をしているのかな?という見方になる。
「なんだとッ!依頼の横取りに獲物の横取り、そんなマナーの欠片もない事をやれと士官学校は教えてるのか?階級がどうこういう問題じゃないだろうがッ!」
職員が止めに入らないのかと思い、受付カウンターを眺める。どの職員もチラチラと気にはしているが、目の前の客の対応に追われているようだ。
「そんなものはどんくさいお前らが悪いッ!文句があるなら掛かって来いよッ!」
男子生徒が大人側を挑発し続けている。これ止めないと暴力沙汰になりそうなんだけど?カウンターを見ると、接客対応中の見覚えのある耳長族ちゃんが、こちらに助けを求める目を向けていた。
「(はぁ~、めんどくせ~な)」
探索者ギルドはただでさえ荒くれ者が多いのだ。ギルド内の治安を乱す行為は誰のためにもならない。エイルは頭を掻きながら揉め事の最中に首を突っ込むことになった。
「はいはい、落ち着いて~。駄目だよ殴っちゃ」
まず大人側を宥め、生徒側にも注意する。
「君たちも、もう少しマナーを気にしよう?士官学校の看板背負ってその態度じゃ、学校からも怒られちゃうよ?」
それに噛み付くのが学生側の代表者。
「何上から目線で物言ってんだ、女は引っ込んでろ!」
とエイルを突き飛ばそうとする。エイルはそれを重心の移動と片足を半歩下げる動作だけで往なしてみせる。
突き飛ばそうとして巧く避けられた男子生徒は、ますますヒートアップする。
「落ち着きな?お友達の方は皆困ってるよ?」
頭を冷やしてもらおうと仲間の視線を気にさせてみるが、お友達は皆、視線をサッと外す。
「お前ぇ!お前もそいつらと同じで馬鹿にすんのかぁ!」
おかしい。同じ言語のはずなのにビタイチ話が通じない。エイルは大人側に振り向いて言う。
「言葉が通じそうにないんで、行っちゃって下さい」
大人側に撤収をお願いすると、大人側は渋々であるが下がってくれた。エイルは耳長族の受付嬢に視線を送ると、すまなそうに「ごめんね」のハンドサインを返された。
「同じ言語なのにここまで話が通じないとは。困っちゃうね。新種の魔物かな?」
男子生徒を見やって肩を竦めると、激昂して殴り掛かって来た。
その拳を全て避け続けてやると、身体全体でタックルをしてきた。それも避けてやると、バランスを崩して勝手に転ぶ。
「こんなところで格闘訓練は駄目ですよ。身体を動かすなら訓練場にどうぞ?」
憤死するんじゃないかという程に顔を真っ赤にした男子生徒が、もはや何を言っているのかわからない奇声をあげて殴り掛かって来る。そのお友達は皆、死んだ目でいつ終わるのか分からない地獄に耐えている。
「はぁ……」
エイルは思わず溜息を吐いた。男子生徒の拳を避けながらゆっくり場所を変えて移動していく。裏口に続く通路を越えて訓練場まで釣り出しに成功すると、ようやくギルド内に平和が訪れた。
場所がいつの間にか訓練場に変わっている事に気付いたようで、 「不敬罪だ!殺してやる!」と殺意を宣言して真剣を抜き、襲い掛かって来た。
エイルはそれを眺めつつ、彼に聞こえるように殺気を放って言う。
「不敬罪?殺す?殺される覚悟もないやつが吠えるな」
後についてきたお友達たちにも分かるように、強く殺意を込めた撒き散らす。
真剣を振り回していた男子学生はおろか、そのお友達たちもその殺気に耐えきれず、腰を抜かしてしまう。このまま殺意を強めて行けば失禁間違いなし。派手に恥ずかしい思いをしてお帰り願おう。
「お前、貴族の子か?貴族がなんだ?それが自慢なのか?殺意を向けられただけで腰を抜かすゴミ屑は薄っぺらいな、おい」
目線を合わせるように腰を屈め、男子生徒の目を覗き込む。
「ひぅ!」
男子生徒が情けない声をあげて失禁した。それを確かめると次はお友達たちの方に行って目線を合わせ、殺意を込めて一言いっておく。
「貴族の事情だか何だか知らんが、お前たちはあの屑と一緒に破滅したいのか?よく考えろよ」
男子も女子も問わず撒き散らした殺気で失禁者が相次ぐが、己の不始末なのだ。恥ずかしい思いをしてお帰りいただこう。
場が静かになったところで、裏口から表に向かった。受付カウンターに行って例の耳長族の受付嬢のところに並び、自分の番が来たところで報告する。
「裏に連れて行ったら真剣を抜いてきました。殺すとまで言われたんで、殺気を浴びせて大人しくさせてきましたが……。あれ、何なんです?貴族のボンボン?」
エイルは大変不快でした。という顔をしてみせると、受付嬢は困った顔で返事をしてきた。
「対応、助かりました。ありがとうございます。最近よく来るんですよ。迷惑行為の常習犯で、なんでも親が伯爵なのだとかどうとか……」
「探索者ギルドに登録してあるんでしょ?身元わかるよね?学校に報告しないの?」
「そろそろ学校に苦情を出そうかと話し合いしていたんですけどね。それでも改めなければ、映像結晶で撮影して提出かな、と」
エイルは対応予定をきいて「ふーん」と頷く。
「まぁ、その貴族とか学校が何か仕掛けてきたら顔出すからさ。その時は教えてね」
「ありがとうございます。エイル様」
「」
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