第3章 第2話 グランフェニアの散策と王都ローエンベルクへの旅
翌朝、朝のルーティーンを済ませると起きてきた面々と朝食に向かう。ギルド職員が農産物と肉を自慢していただけあり、鮮度も味も中々だった。食後は女子三人は一緒に買い物に出かけていった。エイルは一人で探索者ギルドに行くと、依頼ボードを眺める。街を移動するとギルドの依頼ボードをチェックするのは昔からの習慣だった。依頼の内容から何となしに世情や問題が見えて来る事もあり、情報収集として馬鹿にできないものだと思っている。食肉の調達依頼の常設依頼があって、農場の収穫のお手伝いや薬草などの採取依頼も、目立つところに貼りだされている。
一方で、大物の討伐依頼は見当たらない。辺境伯の領内は落ち着いているようで大変素晴らしい。だが大物狩りが趣味のエイルにとっては物足りない。近場にダンジョンも無さそうとくれば、エイルにはこの街に長居をする理由がなかった。後で女子達にも訊いてみようかとおもう。
念のため空いている男性職員の列に行き、依頼ボードにはないが討伐して欲しい魔物がいないかと訊いてみるが、特になさそうなのだったので、厩舎に行ってストレイガル達を構っていると、訓練所で木剣を振っている少女が見えた。育ちの良さそうな少女は丁寧に敢えてゆっくりとした動作で型を繰り返している。身体の隅々にまで正しい動作を染み込ませて行く。
エイルは他人の努力をみるのが好きだった。真剣であればある程に良い。身近に努力を続ける少女達がいるので、脳裏にその姿が重なって自然と頬が緩む。気分が良くなったエイルはアクスとランスにブラッシングをしてやり、差し出された頭を抱いて撫でてやる。ストレイガル達も気分が良くなったのか、尻尾が踊るように跳ねていた。
一頻りストレイガルと戯れると、食材や食料の調達に屋台を巡って大人買いして歩く。質実剛健な街並みを眺つつ歩いていると魔道具屋らしき錬金工房が目についたので入ってみる。販売価格が相場通りだったので、キュア・ポーションとマナ・ポーションを買い込んだ。ついでにマナ・スモークも購入しておく。午前中いっぱい買い出しに使うと、丁度昼時に宿に戻り、昼食を採った。なお、仲間達はまだ帰ってきていないようだ。
部屋に戻るとリビングのソファに横になって目を瞑り、周囲の非活性霊素と非活性魔素を呼吸と共に体内に取り込んでいき、霊力と魔力に変換させる。変換された力を熾しては身体の隅々に行き渡らせていく。最近、混合錬気で魔力に溶け込ませられる霊力がまた増えた気がする。励起させた混合錬気を体内に押し止め、圧縮を繰り返しては身体中に行き渡らせ維持する。魂魄の破損箇所を錬気で塞いでいくイメージを作っていく。身体の奥に温かさを感じてくる。その温かさを意識しつつ、寝落ちするまで錬気を続けるのであった。
夕刻、部屋に戻って来た仲間達の声で目を覚ました。
「おかえり」
「ただいまぁ」
戦利品をローテーブルに広げて、カナリエとレーヴィアが自分の荷物を回収する。マツリは有り余る無限の如き異空間収納で、二人の荷物持ちをしてきたようだ。
「片付け終わったら夕食にいこう」
◆◆◆◆
夕食は宿屋の一階でパスタを食べた。さすが小麦の特産地。パンやシチュー一辺倒じゃない小麦料理が発達しているようだ。
「この街は堪能できた?」
「気になるところは大体回れたかな?ラムザはギルド行ったんだよね?」
マツリが首肯しつつ、ギルドはどうだったか聞いてくる。
「平和そうだったよ。迷宮も近くになさそうだし、大物討伐の依頼も特に出てなかった」
「暇そうですね?」
レーヴィアがエイルの様子をみて心境を言い当てる。
「うん、長居はしなくていいかな」
一般人が住むには良い街なのだろうが、探索者稼業、それも大物討伐を好むエイル達にとっては暇な街に違いない。
「明日にでも出ますか?」
レーヴィアがそう訊いてくる。
「そうだね。王都方面に行ってみようか」
カナリエも頷き、明日の朝に出発する事が決まった。
翌朝、滞在期間を切り上げて南門から出発した。ローエンディアの王都は此処より南東の方角にあるらしい。王都と隣接するような距離にダンジョンがあるらしく、ローエンディア国内では最も探索者稼業が盛んな都市だという。
「どんなダンジョンだろうね?」
マツリがエイルに訊く。
「ダンジョンに潜るのが盛んなんだったら、それなりに攻略し易いスタンダードなところかもな」
「リエルダの鉱山迷宮とは違って?」
「そう、あれと違って」
まだ見ぬ王都とダンジョンに思いを馳せた。
◆◆◆◆
グランフェニア出発から四日目。
西の辺境伯領を東に抜け、規模の小さな街は素通りしつつ街道沿いに王都へ向かっている。
エイルは今日も御者台に座っている。下手に馬車内に戻ると後輩達の訓練に使われてしまうことから、率先しての御者台だった。
この日は午後から雨が降り出したため、エイルは【撥水】処理されているローブを目深に被っている。ストレイガル達は雨を気にしていないようなので、そのまま走らせている。
ストレイガル達の馬力を考えれば、泥濘程度は何とでもなるのだろうと思えた。そのため、雨で事故が起こりそうな危険な地形だけ注意すれば良い。平地が続いているので、そのような場所もそうなさそうだったが。
グランフェニア出発から五日目。
東向きだった街道が南東に分岐し、通りかかる馬車も増えてきた。王都が近付いて来た。
グランフェニア出発から六日目。
ようやく王都が見えてきた。この街道は王都の北門に続いているらしい。訪れている馬車が多く、順番待ちの時間が今回も長そうだと溜息をつく。こういう時だけ、貴族など順番待ちしなくて良い特別待遇が羨ましくなる。
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