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【完結】方舟の子 ~神代の遺産は今世を謳歌する~  作者: 篠見 雨
第3章 ローエンディア王国と士官学校
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第3章 第1話 城塞都市グランフェニア

 リエルダから逃げるように出奔して移動する間、カナリエ達の特訓は続いていた。エイルは御者台に居座ることで、スキンシップの激しい体感訓練に混ざらずに済んでいる。

 食料は過去一ヵ月でたっぷりと買い込んでいたので、街を経由せず南周りで東部に向かって行く。箱馬車生活も三週間が過ぎた頃、ようやく東部の城塞都市【カーマイン】に続く街道が見えてきた。

 本来ならこのまま街に寄りたいところだが、寄るのは諦めて更に東を目指す。リエルダを出てから野盗にも遭っていない。ストレイガルの雄姿のおかげだろうか。

 魔物にも襲われていない。逆に、ストレイガルが食事を自己調達しに行っているくらいだ。【カーマイン】行きの街道を素通りして東に向かうこと三日程。漸く、ローエンディアとの国境線の関所が見えてきた。


 関所は山と山の間の狭い平原を遮るように城壁が伸びていて、関所の施設の周辺が小さな宿場町のようになっている。

 カナデ・カナン王国からザハト帝国に入った時より規模が小さい。関所に並ぶ列もあの時より少ない様だ。国家間の確執とか、そういう話だろうか。


 やがて出国手続きの番が来て、皆で探索者プレートを提示する。エイルとマツリのプレートが黄金級であることで若干怪しまれたが、魔力認証をしてみせると納得してくれた。

 出国理由は、ローエンディアでの探索者稼業のため。馬車内も改められたが、特に怪しい物は積んでいないため通行の許可が降りた。


 ローエンディア王国は古くから続く王室が潔癖で、汚職や不正に厳しい国だ。ザハト帝国から逃れてきた難民を多く受け入れた経緯があるため、周辺国の中では最も多種族を抱えており、エルフやドワーフに獣人など、国家の中枢たる大貴族にも幅広い種族がいる。

 そのためか、国家のイメージが「自由・平等・公正」といったプラスイメージが挙げられる半面、

ザハト帝国のような汎人種ヒューマン主義の国家からは、蛇蝎のごとく嫌われている。


 ローエンディア王国に入ると、今度は街道沿いに東へ進んでいく。途中山を迂回するように森の中を進む道にも出たが、ストレイガルを襲いに来る魔物や盗賊は現れなかった。


 街道沿いに進んで行くが、村など小規模な集落は素通りして行く。最初に見えてきた大きな城塞都市【グランフェニア】には寄る事にした。入市には探索者プレートの提示で問題なく済み、門番にチップを渡して探索者ギルドの場所を教えて貰う。グランフェニアの探索者ギルドは、北門の広場に面しているらしい。西門から入門してしまったので、中央広場を経由して北門方面へと進んでいく。


 グランフェニアの探索者ギルドは、リエルダより立派な建屋が大きく、石造りの頑丈そうな造りをしていた。

 この街には何日か滞在する予定のため、探索者ギルドの裏手に馬車を回して厩舎ストレイガルを預けると、箱馬車を異空間収納に収容してギルドに入りエントランスホールをざっと観察してみる。

 早速酔っ払い達が目に付いた。この街のギルドの食堂では酒を出しているらしい。それと、思っていた通り人種が雑多である。ザハト帝国では汎人種ヒューマンかドワーフくらいしか見当たらなかったが、ここでは耳長族エルフや獣人も普通に混ざっているし、名状し難い種族ですら服を着て普通に歩いているのをみると、この国の懐の深さを感じる。


 エイルは総合カウンターの一番短い列に並ぶ。短い列は何時ものように男性職員のカウンターだった。順番が回って来るとギルドプレートを提示して魔力認証を見せつつ話を訊く。

「こんにちは。ザハト帝国から来て今日この街に着いたのですが、ギルドに近いお勧めの宿屋とか教えてもらえますか?ローエンディア王国の時勢とか何も知らないので、教えて頂けると嬉しいのですが」

 男性職員は愛想の良い笑顔で対応をしてくれた。

「こんにちは。ラムザ・クロガネ様ですね。グランフェニアへようこそ。探索者ギルドの近くでお勧めの宿屋と言いますと……」

 男性職員が教えてくれた宿屋の情報から美味しい料理、最近の時勢や事件など色々と話を聞かせて貰えた。


 宿屋は北門広場から少し南側に歩いたところにある老舗の宿屋が高ランク冒険者に評判が良いとの事。グランフェニアは西が森に近く、南側は穀倉地帯になっているため肉も小麦も質が良いらしい。グランフェニアは西部辺境伯のお膝元でもあり、フェリオール領の領都を兼ねているそうだ。フェリオール辺境伯は汎人種ヒューマンだが奥方に耳長族エルフが居て、跡取りの長男は【ハーフエルフ】との事だ。人族より長命のハーフエルフが跡取りともなると、長く安定した治世が期待できると民は好意的に捉えている。そんなフェリオール辺境伯の目下の感心事は、もうすぐ士官学校に入学するハーフエルフの長女にあるらしく教育係や護衛の公募が行われているのだが、辺境伯が溺愛し過ぎていて難癖を付けては追い返してしい、奥方とご息女は大変お困りらしい。男性職員が余りにも饒舌に話をしてくれるため、なかなか会話を切り上げられない程だった。


 男性職員のお勧めの宿屋に着くと二人部屋は全て埋まっているらしく、一人部屋を四つと四人で使える部屋を一つで検討し、四人部屋の方がコスパが良いからと四人部屋に決まってしまった。女子部屋に混ざるのはガリガリと削られる物があるのだが、当の女子達が良いというなら、まぁ良いのかなかな?とエイルが折れた。

 案内された四人部屋は魔導具の水回りが充実していて自炊も可能な、シェアハウスのようになっていた。シャワーも部屋に付いているため公衆浴場に行かずに済ませられるのはありがたかった。こうして設備をみてみると、四人部屋にして良かったとエイルも感じていた。


 今夜は一階の食堂で済ませる予定だが、明日からは屋台巡りや魔道具屋、武具屋など、新しい街に着いた時に特有のテンションでのお買い物タイムが予想出来る。

 特にカナリエはリエルダで装備の更新が出来なかった反動もあるので、散財が危ぶまれる。一緒に行動するであろうレーヴィアに、カナリエの散財に気を付けるように言い含めたが、レーヴィアも魔法の鞄を欲しがっていたため、二人して散財して帰って来る可能性が高いかもしれない。何はともあれ、エイルは久しぶりの宿屋のベッドの感触を楽しもうと一足先に寝室に引き籠もるのであった。

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