第2章 第19話 鉱山迷宮の攻略戦(9) 攻城戦
城門を潜ると、骸骨兵達が槍を手に集まって来る。気分はまさに攻城戦である。
「城落としじゃあ!」
テンションの上がったマツリが叫んでいる。エイルも気持ちは同じで、ノリノリで骸骨兵達を叩き崩していく。一振り一殺のごとき暴れっぷりが実に楽しそうであった。
テンション爆上がりの二人を見ながら、後ろからカナリエとレーヴィアが後背や周囲の警戒をしつつ付いていく。
正面から城の門扉を大戦鎚殴り壊して入城していく。入口のエントランスは広く、天井も吹き抜けで高い。天井には絵画が描かれている様にみえるが、風化して消えかかっているのが、物悲しさを誘う。
「ボス部屋どこにあると思う?」
エイルが駆け付けて来る骸骨兵を殴りつつ、マツリに訊いてみる。
「玉座の間じゃない?」
マツリらしい適当な返事が返って来た。
「上層部に吹き抜け二階分で作ってあるような場所?そんな高いところから下の階層に降りる階段があると思う?」
ボス部屋の奥はいつだって下の階層への下り階段があった。きっとここもそうなっている筈。となると逆に地下なのでは?という気がしてくる。
「ダンジョンの空間は頭おかしいし。野外みたいなフロアとかあったじゃん?例えば城の四階から五十一階層への下り階段があっても不思議じゃなくない?」
寄って来る骸骨兵を殴りながらマツリなりの見解が返って来る。
確かに。ダンジョンに常識的な構造を求めるのが駄目なのかもしれない。エイルは思わず納得してしまう。
「じゃ、とりま上に行ってみようか」
エントランスホールの階段を上がっていくと、二階に大きな扉があった。問答無用で殴り飛ばして開くと、空中庭園のような構造になっていた。庭園の奥には城の本館と思われる建造物があり、入口と思われる扉が見える。
庭園を抜けるまでに奥の建造物の門番がやって来るが、武器が斧槍なだけで、強打を一撃入れると沈んでいく。
庭園を抜けて扉を殴って破り本館へと乗り込むと、エントランスには大楯と長槍を構えた密集隊形が出来上がっていた。
「戦争か!」
エイルが思わず突っ込みを入れるが、城攻めだから戦争で合ってた。敵が正しい。
「俺が槍を弾くから楯ごとぶっ飛ばして」
「了解!」
大楯と長槍の密集隊形に、正面から乗り込む。向けられる槍はエイルが戦鎚と戦棍で弾き、槍衾に隙間が出来たところにマツリが踊り込み、大戦鎚をフルスイングして大楯ごと殴り飛ばす。
突破するだけなら楯列潰して突貫すれば行けそうだが、今は後ろにカナリエとレーヴィアがいる。そちらに向かわれると面白くない。
「突貫して浸透より、後ろに通さないように皆殺しで」
エイルがマツリに指示を出し、周囲を削る方針に動きが変わったのを確認する。
弾き、殴り、潰すを繰り返す内に、マツリもエイルも何度か槍を受けているが、治療する程の余裕がなかった。それに、エイルとマツリの身体にはスター・シーカー製のナノ・ユニットが備わっている。ナノ・ユニットが魔力を吸い上げ、損傷個所を自動修復していく。
どれだけ戦い続けたのか、エントランス内の軍隊は壊滅して異空間収納に収まっていった。
「とりあえず追加はまだ来てないですね」
レーヴィアが周辺の警戒をしつつ知らせる。
「なら、ちょっと休憩……流石に疲れた」
エイルとマツリはその場に座り込んだ。
「……寝たい。無理か」
瞑想睡眠すればすぐに万全な体調に戻れそうだが、敵地では迂闊に出来ない。
仕方がないので、【マナ・ポーション】を取り出して服用する。エイルの魔力は万全には程遠く、ナノ・ユニットに喰われて尽きかけていた。それを急ぎで回復させる必要がある。
エイルはマナ・ポーションの原料で作られた煙草である【マナ・スモーク】を取り出し、火を点ける。ハーブの清涼感と青臭さが濃厚で、喉にガツンとくる。マナ・スモークを吸いながらマナ・ポーションをお替わりすると、大気中の非活性魔素を体内に取り込んで魔力に変換する、何時もの訓練を行う。胃に落としたマナ・ポーションや肺に入ったマナ・スモークのマナが、じわりと全身に染み渡っていく。
エイルとマツリが休憩している間、カナリエがエントランスの奥を偵察していた。見付からないように言い含めてあるが、心配はしてしまう。エイルがそわそわしつつエントランスの奥の様子を窺っていると、カナリエが戻って来た。
「この階は玉座の間みたいなのはなかったです。上の階は物音が聞こえたので、まだ敵が残ってますね」
その報告を受けて立ち上がると、上の階へと向かう。現在位置は城の二階部分である。外観からは五階建て相当と思われたので、玉座の間はおそらく四階にある。二階から三階に上ると、折り返すように四階への階段が続いていた。三階にも敵が残っているようだが狙いは玉座の間のため、スルーして四階に上って行く。
四階に着くと廊下に出て右折した奥に、門番が二人いる大きな両開きの扉があった。門番もこれまでに比べて身体が一回り大きい。
「あれかな」
両開きの大扉を認識すると、門番に近付いていく。その通行を妨げるように左右の門番が斧槍を突き込んでくるが、エイルが戦鎚と戦棍を操って斧槍を抑え込む。マツリが抑え込まれた斧槍を飛び越えて懐に駆けつけ、大戦鎚を振り回して胸部を陥没させていく。門番二体が沈黙すると、異空間収納に収めて両開きの扉を眺める。重そうな木製の扉は彫刻が施されていて、意図的に威圧感を高めているようにみえる。
その大扉を、マツリとエイルが押し開いていく。
そこは正しく玉座の間であった。
吹き抜けで二階層分の天井の高さがあり、各所に威圧的な装飾が施され、権威を振りかざしているのが分かる。一段高いところにある玉座には、王冠を被った豪奢な装いの骸骨が座っている。
その骨格は、夜空のような深みのある青色で、鈍い光沢を見せていた。
エイルはその色味に、魔法金属の輝きをみた。
「神鉄鋼……?」
玉座付近の一段高いところには、王を守るように甲冑姿の推定骸骨兵が四体いる。その甲冑は大楯と片手剣を持ち、青味のある銀色の甲冑から魔力の気配を感じさせる。
「取り巻きは天銀製の甲冑っぽいね」
マツリも、ここまでの雑魚とは比較にならない、文字通り格が違う敵だと認識した。
「思ったより数が少ないのだけが救いですね」
レーヴィアが少し前の戦争っぷりを思い出して笑う。
「マツリ、ラムザさん、レーヴィアの守りに付きます」
カナリエは悪魔族戦の時のようなピリついた気配を感じ、レーヴィアの護衛に集中すると宣言した。
「混合錬気使って本気で。先に取り巻き倒してしまおう」
エイルがマツリに方針を伝え、体内で混合錬気を熾し始めた。
「了解、悪魔族戦以来だね」
自然と左右に別れると、それぞれ二体ずつ相手にするように駆け出した。
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