第2章 第17話 鉱山迷宮の攻略戦(7) 日に三度目の死線って。
迷宮四十五階層、ボス部屋。
全高三メルくらいの人型が一体、床に座り込んでいる
全身が甲冑のような鉱物質の外骨格ぽい皮膚に覆われ、髑髏風の顔付きに側頭部から大きな角が左右に張り出している。更に、巨体に見合うサイズ感の両手剣が地面に突き立っている。
「悪魔族」
悪魔族は身体も強靭だが魔法も使え、須らく魔法戦士というナチュラルボーンの強者である。ある意味竜種に並ぶ存在といえる。
「こいつは本気モードで行かないとヤバいかも」
「混合錬気使う?」
「使って。勿体ぶると誰か死ぬかもしれん」
「わかった」
「カナリエは、レーヴィアを守るのに集中してくれ」
「了解」
簡単に打ち合わせをして、ボス部屋に踏み込む。
すると胡坐をかくように座り込んで居たデーモンはその巨体を起こし、立ち上がる。
エイルとマツリが更に踏み込むと、悪魔族は両手剣に手を伸ばす。
「走るぞ」
「うん」
エイルとマツリが、左右に分かれて一気に距離を詰めに掛かる。
悪魔族は両手剣を引き抜くと、横薙ぎでまとめて斬り払おうとするが、エイルが大楯を取り出して横薙ぎを受け流し、軌道を斜め上にずらした。
マツリは頭上を両手剣が通り過ぎるのを感じつつ、更に加速する。
両手剣を跳ね上げられた悪魔族は、有り余る膂力で無理矢理逆袈裟に斬り下ろす。
エイルは混合錬気を出せる全力で展開しながら大楯で受け流し、軌道を変えてマツリを守る。マツリは全力の抜き打ちを膝に叩き込むが、切断に至らず刃が止まった。
膝頭を断たれた事で踏ん張りが利かなくなった悪魔族はバランスを崩し、斜めに倒れ込む。転倒を防ごうと片手を地面に付いた悪魔族に対し、マツリは脇差の抜き打ちで肘の腱を断ちつつ、打刀を異空間収納で回収して背後に回り込んで行く。
悪魔族は両手剣を杖代わりにして立ち上がろうとするが、エイルが打刀の抜き打ちと返す逆袈裟で手首の腱を刻み、刺突で手首を貫き刃を捩じって腱を破壊した。両手剣を握れなくなった悪魔族は、再度バランスを崩す。
下りてきた来た首をエイルが狙い、マツリが背後からの刺突で心臓を狙うが、悪魔族は自分を中心に全方位に【岩槍】を伸ばして回避を強要させ、距離を稼ぐ。
悪魔族は更に【炎弾】をマツリとエイルに連射しはじめ、回避を強要させ続ける。その間に悪魔族は自己修復を進め、バランスの立て直しに成功していた。
「(倒し切れなかった!今の攻防で、悪魔族から油断が消える!)」
一度追い詰められた事で、悪魔族は細かい攻めを手堅く続けるようになった。
こうなると隙が無くなり、決定打が決められない。小さな傷は自己修復であっという間に回復してしまうため、どうにか切り崩す糸口を探す。
エイルはマツリに目線を送り、マツリはそれを難しい顔で見返す。
「(この状況が難しいことはマツリも把握している。逆転の一手が必要だと考えているはず)」
この盤面を動かすには手が足りない。悪魔族の細かい牽制が徹底していて踏み込めない。悪魔族は知能が高く、人間の言語を理解している可能性が高い。だから言葉での合図は避ける。デーモンの意識の外を突くには、盤外からの一手が必要だ。
エイルはカナリエとレーヴィアに視線を飛ばす。二人と視線が絡んだ。
「(伝わるだろうか。伝わるといいな)」
エイルは立ち位置を変えつつ、マツリと前後で挟んだ連携をとる。もう一度、カナリエとレーヴィアに目線を送ると、やはり視線が絡む。
「(伝われ!)」
エイルはそう念じつつ、二人に頷いてみせた。
視線の端で、カナリエが動き出したことを認識する。悪魔族の意識を自分に向けるため、顔面に向けて【氷弾】を連射する。悪魔族に煩わしいと感じさせれば、注意を引ける。それだけで良い。
悪魔族の意識がエイルに向き、両手剣での突きや【炎弾】がエイルに向く。
カナリエが全力で駆け込み、悪魔族の間合いの外から側頭部に長槍を投擲する。悪魔族は突如視界に入ってきた長槍を回避し、投擲者のカナリエを見やる。その瞬間。レーヴィアが【閃光】を放つ。悪魔族は【閃光】を直視してしまった事で、その視界が白く焼きついた。そう長持ちしない目眩ましだが、今このタイミングではそれこそが必要だった。
マツリが、エイルの前に樹魔法で足場を作り、エイルはその足場を駆け上がって、悪魔族の首元に重大剣を振りかぶる。全力で魔力を込めて超重量にしつつ、混合錬気で刃を覆う。重大剣が悪魔族の首元に入り、装甲と肉を、鎖骨を、肋骨を断ち斬り、袈裟斬りに奔り抜けた。
悪魔族は激しく青い血を噴き出し、もんどりうって倒れ込む。そこにマツリが刃を突き立て、両断しかかっていた首を完全に斬り落とした。
大量の青い返り血を浴びつつ、異空間収納を行うとその死骸が収納されて消えた。
「勝てた……」
エイルの心からの安堵が漏れだした。仰向けに転がって、息を整える。
「カナリエとレーヴィア、マツリも。やって欲しい事をやってくれたからだよ。皆、ありがとう」
マツリが【洗浄】で返り血を落としつつ、エイルに右手を差し出した。エイルはその手を掴んで、引き上げられるままに立ち上がる。
「今日だけで三回は死にかけたな」
「地獄だね?」
「よく生き残ったね?」
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