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【完結】方舟の子 ~神代の遺産は今世を謳歌する~  作者: 篠見 雨
第2章 ザハト帝国と鉱山迷宮
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第2章 第13話 鉱山迷宮の攻略戦(3) 三日目

迷宮滞在三日目。

 皆が起きて朝食と出発準備を済ませると、三十一階層に降りていく。


「さて、今日も頑張りますか」

 マツリが肩回りのストレッチをしつつ気合を入れる。


「今日の目標は四十階層ですか?」

 レーヴィアの確認に、エイルが首肯する。

「ルート取りの正解率次第だけど、そんなところだね。焦って無理しないようにね」


 食料や食材にも十分な余裕があるし、街に戻らないと行けない期限がある訳でもない。実際に焦る必要はないのだ。今回の迷宮滞在の最大の目標は、実戦経験を積むこと。その副産物として、装備を更新できるだけの成果報酬を手に入れることである。


 三十一階層は気配感知に掛かる敵の数が少なかった。全くいない訳ではないので、感知に掛かった強い気配に向かって歩いて行く。

 暫くすると広めの部屋に出て、その中に三メル近い身長の重厚感のある体躯をした、牛頭人身ことミノタウロスが居た。そのミノタウロスは赤茶色の体毛を持ち、黒光りする大振りの角を持っていた。手には肉厚で如何にも頑丈そうな巨大な大戦斧を携えている。


 ミノタウロスは侵入者に気付くと、轟音の様な咆哮をあげ、走り迫って来た。


「(迫力すげぇ!)」

 エイルは粟立つような危機感を感じ取り、レーヴィアに支援の指示を出す。

「レーヴィア、目潰し!」

 迎え撃つため前に駆け出ると、同じタイミングでマツリも駆け出ていた。

 ミノタウロスは二人をまとめて薙ぎ払うように、大戦斧を横薙ぎに振り回す。エイルは横薙ぎの下に活路をもとめ、姿勢を低くして転がり込む。マツリは咄嗟にサイドステップで間合いを外した。

 その直後、後方からレーヴィアの【閃光】が放たれる。【閃光】の魔法は殺傷力はないが、瞬間的に大光量を撒き散らす。薄暗いダンジョン内で視覚がメインの敵には、効果的に視界を奪うことができる。


 ミノタウロスは閃光に視界が焼かれた事で忌々しく唸り声を上げ、めちゃくちゃに大戦斧を振り回し始めた。

 ミノタウロスの足元に転がり込んでいたエイルは重大剣に持ち替え、引き摺り回すような低さでその足元を刈りにいく。直撃の瞬間に魔力を流し込んで超重量と化した刃は、その右足首を刎ね飛ばした。

 足首を断たれたミノタウロスはバランスを崩して大きく倒れ込み、両手を地面につけてしまう。間合いを広げていたマツリは、ミノタウロスの間合いの外から左脇腹に大身槍を突き立てて捩じり込む。後ろから駆け付けたカナリエも長槍を手に右脇腹から肝臓を貫くように深く刺し込み、刃を捻じり込んだ。


 エイルは重大剣を異空間収納にしまうと、刃渡りが百二十セルもある抜き身の大太刀を取り出して混合錬気を纏わせ、大上段から項へと振り下ろした。咄嗟であったが巧く錬気が籠った一撃が決まり、ミノタウロスの首を斬り落とすことに成功した。


「あ~ビビったぁ。フロアボスみたいな迫力で走って来たよね」

 マツリが言うと皆が首肯する。

「殺らなきゃ殺られる雰囲気があった」

 エイルも頷く。このダンジョンのミノタウロスが平均的に強いだけかもしれないが、ネームド個体だと言われても納得出来る風格をしていた。


 ミノタウロスの死骸をマツリが回収すると、探索を再開した。すると、猿型の魔物の死骸が点々と転がっている事に気付いた。


「このフロアに敵の気配が少ないのって、さっきのミノタウロスが殺しまくってたぽい……?」

 マツリが死骸を回収しながら推測を述べると、エイルがその考えに同意する。

「首とか胴体とか真っ二つだし、あいつがやったっぽいね」

 死骸を回収しながら歩くこと暫し。生きている猿型を見る前に下り階段が見付かった。



迷宮三十二層。

 このフロアも敵が少なかった。見付かるのはアラクネの死骸ばかりだった。大蜘蛛の頭から人の女性型の身体が、太ももの半ば程から生えている魔物である。アラクネの人間部分が斬り飛ばされていると、パッと見は人間の死体にしかみえなかった。顔を良く見ると複眼が付いていて、やはり人間ではないと分かるのだが。

 エイルが斬り飛ばされたアラクネの顔を確認していると、マツリからジト目を向けられた。

「?」

 その意図が分からず見つめ返すが、特に何も言われない。仕方ないので戦闘跡にあるアラクネが撒き散らかした糸を回収していく。これも立派な売り物になるのだ。

 このフロアも下り階段が先かな?と思いつつ探索していると、生きているアラクネと遭遇した。


 アラクネはこちらを捕捉すると、多脚で音もなくスムーズに走り寄って来る。構えた掌から強靭な糸が飛ばされてくる。

 この手から出す糸はアラクネの種族的な魔法のようで、掌を見ても糸の出所は何もない。手から出すのは、魔法的に作られた金属繊維のような物だ。一方、巣を作ったり捕らえた獲物を保存するのに使う糸は、大蜘蛛の尻の方から出すらしく、大蜘蛛の腹を割くと蜘蛛糸の原料の器官が取れるという。


 アラクネの鋼糸の噴射は散会して的を絞らせないように近付き、エイルが女性体の腰から上を斬り飛ばすと、大蜘蛛部分も力を失って倒れ込んだ。大蜘蛛部分の制御も、女性体部分が行っている事が分かる。そう考えると、「蜘蛛に人が生えた」というより「人の下半身が蜘蛛になった」というのが適切なのかも知れない。どちらにしろ、目が複眼で意思疎通が出来る気が全くしないので、やはり魔物で良いか、となる。


 回収を頼もうかとマツリを振り返ると、再びジト目を向けられていた。

「さっきから何?何故ジトる?」

「女性型のおっぱい見てんのかなっておもって。裸だし」

 思わぬ理由に頭痛を感じ、丁寧語で冤罪を訴えた。

「女子のおっぱいに貴賤は無い派ですが、魔物のおっぱいは対象外です。それより死骸の回収をお願いします」

 この分だとラミアとか人魚とかでも同じ目を向けられるのかなと、遠い目になった。


 生きているアラクネとの遭遇はその一回だけで、二頭目より先に下り階段が見付かった。

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