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【完結】方舟の子 ~神代の遺産は今世を謳歌する~  作者: 篠見 雨
第2章 ザハト帝国と鉱山迷宮
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第2章 第3話 灰の巨獣

「ん?何か連れてきたっぽい?」

 マツリがそう声に出した直後、森から巨躯の獣が飛び出してきた。遠目にみて二頭のストレイガルより一回り以上の巨体で、灰色の体毛が見て取れた。


「熊?デカいな」

 エイルは素朴な感想を呟いて、ストレイガル側に向かって行く。

「カナリエさんとレーヴィアさんはちょっと待ってて」

 マツリも二人に待機を言い渡して、エイルに続いて行った。


 ストレイガル二頭の挑発に誘い出されてきた獣は、体躯としてはほぼ熊だが、縦長の三角形のバットイヤーが目立っている。人間を確認すると後ろ足で立ち上がり、轟音の咆哮をあげた。


 獣は二足立ちのまま前傾姿勢を取り、広げた両前足を構えている。ストレイガル二頭はエイルとマツリが向かって来るのを確認すると、獣から左右に展開するように離れていく。


「大きいね。立ってると六メルくらい?」

 マツリが異空間収納から大身槍の長槍を取り出して構える。

「その位ありそうだね。毛皮と肉の鎧も厚いだろうし、竜を退治するつもりでやろう」

 エイルも大身槍を取り出して構える。

「了解。先ずは槍をいっぱい使って弱らせるね」



◆◆◆◆


 ストレイガルの二頭が引っ張って来たのは、巨大な灰色の獣だった。その威容にカナリエとレーヴィアは思考が停止し、轟音の咆哮が響いた時には、原始的な捕食者に対する恐怖で動けなくなっていた。

 呼吸が乱れ、嫌な汗が滲むのを感じる。思考が纏まらない中、獣から目を離す事が出来なかった。


 走り寄って行ったラムザとマツリに、獣が覆い被さる様に両の前足を叩きつける。無惨に潰れた死体を幻視するが、二人はそれぞれその攻撃を躱しつつ巨躯に大身槍を刺し込んでいた。


 獣が咆哮を上げながら両前足を振り回すが、それを躱す度、隙をみせる度に刺し込まれる大身槍が増えていく。全身に十本の槍が刺し込まれたところで二足立ちの維持が困難になったのか、獣は四つ足立ちになった。怒り狂っている獣は、ラムザに突進し喰らいつこうとする。それをラムザは大きく横に飛んで躱すと、擦れ違い様に異空間収納から取り出した大戦斧グレートアクスを左後ろ足に叩きつけ、深く食い込ませた。続いてマツリが右後ろ足に、大戦斧グレートアクスを食い込ませる。


 全身に大身槍と大斧を食い込ませた獣は突進力を失い、バランスを崩した。両後ろ足の自由が利かなくなっても尚、両前足を振り回して抵抗してみせるが、徐々にその勢いも失われていく。


 マツリが背後から、右後ろ足に食い込んでいる大戦斧グレートアクス目掛けて、全力で戦鎚ウォーハンマーを叩きつけた。食い込んでいた大戦斧グレートアクスの刃は腱と骨を断ち、切断寸前にまで破壊した。ガクンと大きくバランスを崩した獣にラムザが駆け上り、その首筋に向かって異空間収納から取り出した重大剣を打ち下ろす。その刃は獣の首を半ば両断して、地面に深く食い込んだ。

 灰の獣は、大きく一度痙攣し、噴き出す血溜まりの中に沈んでいった。


 カナリエとレーヴィアは、呆然とそれをみていた。

 絶望的な恐怖を撒き散らした巨躯の獣が打倒された。言葉にすればそれだけの事だが、訳が分からなかった。いつの間にか呼吸は正常に戻っていたが、耳の奥まで届くような心臓の音だけが、余韻に残っていた。


◆◆◆◆


「ぷはぁ~、疲れたっ」

 獣の絶命を確信したマツリとエイルは、その場で大の字になって空を見上げた。

「久しぶりに命懸けって感じたわ」

 大の字になって呼吸を整えていると、ストレイガル達が寄ってきて顔をべろべろと舐め始めた。

「ちょ、べたつく!くさい!」

 文句を言いながら手で押しのけると、今度は胴鎧に付いていた返り血を舐め取っていた。

「これは綺麗にしようとしてくれてるんだろうか……?」

 魔力を回して装備の【洗浄】を発動させると、返り血はすべて流れ落ちた。身綺麗になると舐められるのも終わったので、ストレイガルなりの労りだったのかもしれない。


「あー、汚れ落とすと舐められないね。毛繕いみたいなものかな?」

「そうっぽい」

 擦り付けて来る頭をガシガシと撫でてやると、ランスが嬉しそうに鼻を鳴らした。


 一息吐いたところでエイルとマツリは立ち上がり、散々散らかした武器を回収していく。

「散らかし過ぎてどの槍が自分のか分かんねぇ……。飾り布でも付けて色分けする?」

「良いね。暇が出来たらそうしよう?」

 エイルの意見にマツリも同意する。武器の回収が終わると、灰の獣の死体をマツリが回収した。

「なんか熊っぽいと思いながら戦ってたけど、尻尾もフサフサで長かったんだね。熊なのか犬なのか分からない生き物だった」

 マツリのぼやきに、エイルは同意しつつも大雑把に答えた。

「だな。良くわからない生き物は丸ごと持って帰れば良いよ。専門家に任せれば何だったのか聞けるだろうし」


 エイルは灰の獣の作った血溜まりに、朝方二頭が獲ってきた鹿を出してやると、二頭はそれを食べ始めた。

「アクスとランスの食事が終わるまで休憩ね」

 エイルは魔法で水球を出すと頭から被り、【洗浄】を回して乾かす。髪を縛り直して漸く落ち着いてきた。マツリも返り血を落として髪を梳きながら馬車に戻っていく。カナリエとレーヴィアに声を掛ける。

「撤収だよ。馬車に戻るよ。ラムザは御者よろしくね」

「了解」


 エイルは外に残り、水桶を出してやるとストレイガルの食事が終わるのを待つ。御者台に座ってぼーっと空を眺めつつ魔力と霊力の混合訓練をして待つ。しばらくすると、ストレイガル達が御者台の前まで戻って来た。

「ん、終わったか。ハーネスにつないでやるから並んでくれ。あと口が汚い!ちょっと洗うからな」

 二頭は大人しく指示に従って洗われると、自らベストポジションに位置取りしてみせた。

「お、良い立ち位置わかってるじゃん。偉いぞ」

 ガシガシと二頭を撫でて褒めてやる。ハーネスを馬車とつなぐと水桶を回収して御者台に戻る。

「では、旅の再開といきますか。アクス、ランス、出発だ」

 車内から「よろしくー」と返事が返ってきた。


◆◆◆◆


 一方、車内ではカナリエがマツリに話しかけていた。


「マツリさん、さっきのなんですか?」

「え?熊っぽい生物?」

「それです。すごく大きかったやつです」

 レーヴィアが首肯する。

「さぁ?何だったんだろうね?」

 マツリのあんまりな返答に、カナリエとレーヴィアは顔を覆って天を仰ぐ。

「……中堅どころのウチらから見て、あれだけ威圧される敵にあったのは初めてです。多分、相当ランクの高い魔物だと思います」

 カナリエの言葉にレーヴィアは頷く。

「さっきの、どこかで売るんですよね?多分帝都かリエルダまで行かないと買い手に困るレベルだと思います」

「え、そうなの?めんどくさそう……」

 マツリはソファーに倒れ込みぼやいた。

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