第2章 第1話 旅立ちの準備
バーグラム領館での大立ち回りから二日後。旅の再開のため、準備を行っていた。
探索者ギルドで護衛依頼の報酬を受け取る際、探索者プレートが鉄製プレートから黒鉄製プレートに昇格した。指名依頼の達成と、依頼者からの強い推薦があったらしい。
続いて、買取カウンターに経由で解体所に移動し、異空間収納に仕舞ってある獲物の解体依頼を出した。こちらは量が多かったため、見積を夕方までに出して、お急ぎ価格の追加料金の支払いがあれば翌朝までの食肉の解体まで行ってもらえるとの事だった。いつも通り、食肉は引き取りで素材は売却の見積を依頼してある。
次に、数だけ増えていった馬車を売り払った。代わりに空間拡張が付与された中古の箱馬車を購入した。貴族が使っていた馬車らしく、頑丈な造りをしていた。
併せて馬も、ストレイガルという種類の魔馬に買い直す事にした。魔馬は一角馬や天馬などに代表されるような、魔物カテゴリーに含まれる馬である。ストレイガルには翼や角などの目立った特徴はないが、軍馬より重厚な筋肉に覆われた大型の体躯をもっており、食性に特徴があった。主食に肉食を好むが雑食性である。通常の馬より餌の自由度が高い代わりに餌代が高くつくため、商人が飼うにはコストパフォーマンスが悪い。一方、魔物狩りを生業としている者には比較的好まれる馬だった。
ストレイガル自体が魔物であり捕食者でもあるため、ストレイガルより弱い魔物から襲われ難くなるのも好評価だ。ただし、購入時にしっかりと上下関係を築けないようだと、販売が許可されない。エイルとマツリはストレイガル二頭にしっかり威圧を与えた事で、普通の馬のように従順になっていたため、購入が許可された。
黒毛のストレイガルを二頭買い、体躯に合う馬具なども一通り購入した。黒毛の二頭には耳に所有者名を刻まれたプレートがピアスされている。今回はマツリ名義で購入したため、二頭ともマツリ・サクラダをオーナーとして刻まれている。
右耳ピアスで鬣にやや赤みのある方をアクス、左耳ピアスで額に白毛の菱形模様がある方にランスと名付けた。
購入した新しい馬と馬車は探索者ギルドに預け、屋台などで出来合いの食料や食材、調味料の購入に店を回ってから探索者ギルドに戻ると、見知った顔に出会った。
「ラムザさんとマツリさんですよね?お久しぶりです」
と声を掛けてきたのは、以前にサイアリスやレフィと一緒に助けた、冒険者の二人組だった。
「あー、森で助けた……」
エイルも思い出したようだが、名前が出てこない。
「その節はお世話になりました。私がカナリエで、こちらがレーヴィアです」
エイルから名前が出てこない様子を察して、カナリエから名乗ってくれた。マツリも漸く顔と名前が一致し、ナハートの街のギルドで残した伝言は届いたかを気にして応えた。
「お久しぶりですね。ナハートの街のギルドで伝言は受け取られましたか?」
マツリの確認にカナリエは頷き、礼を改めて述べた。レーヴィアも追従するように頭を下げた。
「はい。仇はとって頂けたとのこと。感謝いたします」
カナリエも以前と違い柔らかい語調になっており、素直に頭を下げてきた。
「お二人もバーグラムに来ていたのですね」
「えぇ、受けていた護衛依頼が丁度完了したので、明日からまた東へ向けて発とうかと」
エイルが今後の予定を簡単に伝えると、カナリエとレーヴィアが同行を願い出た。
「ザハト帝国を経由してローエンディア王国まで移動しようかと思っているのですが、途中までで構わないのでご一緒させて貰ってもいいでしょうか?」
エイルとマツリとは顔を見合わせた。
「ザハト経由でローエンディアを目指すのはこちらも予定しているルートです。明日の午前中に出発の予定ですが、ご一緒しますか?」
お互いに否定的な意見は特になさそうだったので、エイルが話をまとめてしまう。
「それは助かります。是非よろしくお願いいたします」
明日の朝、ギルド裏の厩舎前での待ち合わせと決まった。その後、ギルドの買取カウンターで解体の見積を確認して署名をし、食肉の受け取りを出発前の時間に出来るように解体料にお急ぎ価格を追加で支払うと、宿に帰った。
翌朝、朝イチでギルドに行き食肉の受け取りと素材買取額の受領をすると、裏手の厩舎に移動する。
「おはよう、アクス。ランス」
マツリがアクスとランスに近付いていくと鼻面を寄せてきたので、頭を撫でてやり、首筋をワシワシと掻いてやった。
「魔馬は普通の馬より賢いとは聞いていたけど、もう飼い主が分かるようになったのかな」
エイルも二頭の頭を撫でてやる。こちらも昨日で覚えたのか、大人しく撫でられるままになっていた。
「馬車につないで出発準備しておこうか」
マツリが厩舎前の一時駐車スペースに馬車を出し、厩舎のスタッフからエイルがアクスとランスを返してもらい、預かり料金の支払いを済ませた。
二頭を引いて馬車にハーネスで固定後は、ブラシを掛けたり餌をやったりして交流を深めていると、カナリエとレーヴィアがやってきた。
「おはようございます。すみません、お待たせしてしまいましたか?」
レーヴィアとカナリエが、済まなそうに挨拶をしてきた。
「おはよう。大丈夫、丁度出発準備ができた頃だよ」
エイルは特に気にしていないことを笑顔でアピールすると、マツリに馬車内への誘導を頼んで御者台についた。
◆◆◆◆
「いらっしゃいませ~」
マツリは箱馬車の扉を開けると、カナリエとレーヴィアを中へ迎え入れた。
馬車内は【空間拡張】と【空間安定化】が付与されていて、外見からは分からない快適性を誇り、ソファやテーブル等も設置してあって、ちょっとしたリビングのようになっている。
「おお~……」
想像以上に快適な車内に、カナリエとレーヴィアは目を瞠った。
「お金持ちの馬車だ」
レーヴィアの呟きに、マツリが苦笑しつつ答える。
「ここ最近、景気が良かったんだよ。盗賊団の拠点潰したり指名依頼貰ったり。武装関連は揃えたばかりだから、旅の快適性に投資してみた。とりあえず座っちゃって」
車内に三人が座った事を御者席から確認したエイルが、馬車を動かし始めた。ザハト帝国方面行きの旅が、二名の同行者と共にはじまった。
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