第1章 第19話 反撃開始
翌朝、部屋で朝食を取りながらサイアリスとレフィに昨夜の情報を共有していた。
「……。なるほど、これだけの欠片を揃えて頂けたならいけると思います」
サイアリスが沈思黙考から戻ると深く頷いた。
「まずは療養中の長兄の対応をしたいと思います。ラムザさんが手に入れてきた解毒薬で快方に向かえば、長兄が毒を盛られた裏付けになりますし、大義を振りかざして次兄とその母メレアを拘束して父に判断を委ねる準備までいけるかと」
サイアリスが次の動きについて舵を切ると、エイルとマツリは頷き返す。
「長兄殿の所に向かう前に、捕縛しているあいつ等をどうにかしないと」
マツリが拘束中の二名の処遇について判断を仰ぐ。
「暗殺者側の二人ですね。証人として生かしておきたいので、衛兵に預けましょう。メレア陣営は衛兵隊隊長と不仲なので、ちゃんと管理してくれると思います」
懸念だった衛兵隊がメレア陣営に取り込まれている可能性については、サイアリスからの情報で払拭出来た。
「承知した。まずは衛兵隊の詰め所に預けに行って、その後に長兄殿のところに移動かな。場所は?」
エイルの確認にサイアリスが応える。
「長兄レイノルドはルルデ湖の湖畔の別荘で療養しています。ここからだと馬車で二日程です」
マツリがエイルに左手首のブレスレットを一撫でしてみせる。
「そのくらいなら食料込みで用意はあるから、すぐにでも出られるよ。サイアリスとレフィの準備が出来たらすぐ出ちゃう?」
マツリの確認に対してサイアリスがすぐにでも発てる準備ができていることを伝える。
「こちらも必要な物は鞄に入っていますので、このまま出発でも大丈夫です」
サイアリスの言に、レフィも頷いて追従する。
「それじゃ、早速行動しますかね」
四人は顔を併せて頷き、身支度を済ませるのであった。
◆◆◆◆
エイル達一行は衛兵に捕虜を預けると、すぐに街を発った。メレアからの追手が掛かるかと気にしていたものの、特に問題もなくルルデ湖畔の別荘地に辿り着いた。サイアリスの案内で辿り着いた邸宅に通された。サイアリスとレフィがフィンレット家の長男レイノルドとの面会の準備を済ませる間、エイルとマツリは通された応接室で待機していた。
暫く後、レフィの案内でレイノルドが臥せっている寝室へと通された。レイノルドは寝台から上半身を起こした状態で待っていた。
「はじめまして。探索者《黒絹》のラムザとマツリです」
エイルとマツリは顔色の悪いレイノルドの負担を慮り、端的に自己紹介をした。
「こんにちは。私がレイノルドです。話はサイアリスから聞きました。解毒薬の件、お願いします」
レイノルドが二人に頭を下げ、意思を明示した。
「状況証拠的にこの解毒薬で効果があると考えていますが、確実ではありません。併せて【治癒力促進】の魔術を用いて様子見をさせて頂きます。ご了承ください」
エイルの念押しにレイノルドとサイアリスは頷いて了承の意を返した。
投薬からマツリに【治癒力促進】の魔術を維持させて約二時間、レイノルドの病状は寛解に至った。後は栄養価の高い食事を摂って安静に過ごせば良い。
問題は、病死に偽装するため徐々に病状を悪化させるように毒薬を継続投与されていたこと。本邸からレイノルドについてきた要員に毒を盛っている実行犯がいる。それを抑えないと、また毒薬を盛られかねない。
「食事か、侍医の投薬でしょうね」
サイアリスは使用人や侍医の顔を思い浮かべ思案する。そこに、マツリが助け船を出した。
「毒を察知する魔術でも使いましょうか?指輪かペンダントのような物に永続付与できますよ」
毒の精密な検査は出来ないが、毒物に反応して危機感を刺激する程度の魔術なら、マツリが扱えた。
「えぇ、是非。客室を用意させますので、そちらでお願いします」
◆◆◆◆
フィンレット家の兄妹と同室に待機していては実行犯に警戒されるので、客室での待機となった。その間にレフィ経由で二つの指輪に付与を行い、それぞれ兄妹の手に渡された。屋敷の内部向けには、サイアリスの護衛として控えている事になっている。
夕食後、侍医の診療時に指輪が反応した。指輪から感じるピリッとした刺激を感じ取ったサイアリスが部屋を訊ねてきて、往診の場にエイルとマツリも何食わぬ顔で同席する事になった。侍医を問い質す時に反抗された際の保険としての護衛である。
レイノルドは、意識が朦朧として転寝している風を装っている。
「ところでマリアード殿。実は面白い魔道具を手に入れまして。こちらの指輪なのですが、ご覧になってください」
サイアリスがマリアード侍医に世間話の体で話題を振り、指輪をマリアード侍医の手のひらに置いた。
「ほう、銀の指輪ですか。何やらピリピリとしますな。これはどのようなお品で?」
マリアード侍医は珍しい物をみる好奇さを見せ、指輪を摘まんで細工などを確かめている。
「実はその指輪は、警報としてピリピリとした反応を起こす術式が組まれているのです」
サイアリスはマリアード侍医から目を逸らさず告げる。
「毒物に反応する術式です」
マリアード侍医はスッと無表情になった。そして自分の置かれた状況が詰みであると認め、拘束と尋問を受け入れた。
エイルとマツリはマリアード侍医に抵抗された時の保険として同席していたが、尋問はサイアリス側で行うとの事で、既に客室に戻っていた。今晩はこの屋敷に泊まるため、防具は収納して楽な恰好になっている。
「客室借りてる身で言うことじゃないけど。二部屋にならんかったのかな」
エイルはソファに横になりつつ、ベッドで横になっているマツリに声を掛けた。
「女の子二人組だと思われてたんじゃないのー?美少女顔のラムザちゃん?」
マツリが揶揄うと、エイルは溜息を吐いて天井を見上げた。
「だとしてもベッド二台のツインルームで良いでしょ。なんでダブルベッドなのかな~」
マツリは悪いにやけ顔でポンポンとベッドを叩いて追撃を行う。
「一緒に寝れば良いじゃない?ほら、こっちおいで~?」
マツリの悪ふざけにイラッとしたエイルは、枕代わりにしていたクッションを投げつけた。
「うっさいぞ生後二ヵ月児!俺はここで寝る!おやすみ!」
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