第1章 第18話 ヒアリングは重要です
マツリは縛り上げた男をバスルームに連れて行った。顔に水をかけ、目を覚まさせる。
「ご機嫌よう、しくじった暗殺者くん」
「……くっ!!」
男は目を覚まして状況を理解すると、頬袋に仕込んだ薬を舌で探す。
「口の中の毒薬なら撤去したよ。仲間が見届け係をつけて行ったから、今頃は拠点を潰してるぞぉ?」
「……」
見届け係が居たのは事実だ。時間内に戻らなかったのを、ボスに報告しているだろう。だが拠点が潰されたかどうかは分からない。故に黙秘を選んだ。
「拷問とか面倒だし趣味じゃないんだよねぇ。君も痛いのは嫌でしょ?」
諭すように柔らかい声で語りかける。
「どうせメレア・フィンレットの依頼でしょ?わかりきってるんだし、庇う意味なくない?どうせ君のボスも、死ぬか捕まるかしてるんだしさぁ」
マツリは座り込んだ男の背後に回って、耳元で囁く。
「だから、早めに話してくれると嬉しいな。お互いのために」
後ろ手に縛られた両手に冷たい金属の感触が当てがわれ、ゴトリと重たい音がした。
「?」
男は後ろで何が起きているか分からず、怪訝な顔をする。次の瞬間、ガィインと金属が金属を叩く音がして、左手の小指に激痛が走った。
「!??」
男は悲鳴を堪えたが、顔にハッキリと驚愕の色が出た。金属が金属を叩く音がする度、指が一本ずつ潰されていく。舐めていた。柔らかい態度の少女がここまでするとは考えていなかった。
「はやく喋ろう?折角人差し指と親指残したんだから、無くなっちゃう前の方が良いと思うよ?」
男は戦慄した。あくまで柔らかく、蠱惑的に囁きながらも、この少女は絶対にやる。人を殺して飯を食って来たのだ。自分が返り討ちにあって死ぬことくらい、折り込み済みだったはずだ。
ガイィンッと再度の金属音が鳴り、左手の人差し指が潰れた感触が、脳に突き刺さるようだ。間を置かずもう一度、ぐちゃり と両手の親指がまとめて潰された。
「~~ッ!!!」
「ま~だかな~?」
ガイィィン。最後に残っていた右手の人差し指も潰された。声にならない絶叫で、口の端から涎が零れ落ちていく。
「次はどこかな~?足の指いっとく?」
少女は後ろ手の土台にしていた物を足先に持ってきた。金床だった。手にしたハンマーで、金床を叩きつけていた。
「うーん。角度的にちょい厳しいかな……」
見えていなかった拷問も強烈だったが、見える位置でこれからされる事が分かるというのは、更なる恐怖を煽ってきた。
「話す!話します!!」
暗殺者の覚悟と矜持が、黒髪の少女の手で粉々に砕かれた。
◆◆◆◆
エイルが大荷物を抱えて戻ってくると、バスルームに向かってその中身を放り出した。肘から先と膝から下を失くしたボスだった。心を折られた暗殺者は諦めた顔でボスを見ていた。心を折られたのはボスも同じで、しくじった暗殺者をみても何の反応もしなかった。
エイルとマツリはリビングで珈琲を飲みつつ、情報を擦り合わせる。
「こっちは証言だけだけど。エイルの方の収穫は?物証でた?」
「フィンレット家の出入り業者の認可証、家令のなんちゃらさんとの手紙のやり取り、毒物の精製機材とレシピ、解毒薬。メレアから下賜された短剣。こんなところかな。直接的な暗殺契約書みたいなのは残念ながらなかった」
エイルがマツリに報告し、肩を竦めた。マツリはムムムと眉間に皺を寄せて考える。
「それだけでもやべぇ裏の組織と仲良くしてるって分かるし、余罪についても追及できそうだけど」
「衛兵が既にメレア側だったら……てのが嫌だな。同じ理由で領主様の私兵とかもどうなってるやら」
「領主様は王都って話だからね。権力的に上位者……。辺境伯領……。辺境の砦とかにいないかな?王族とか公爵とかの血縁者とか?」
「居ても連絡とって来てくれるかとか微妙じゃないか?なんにせよ、後でサイアリス嬢に相談してみよう」
エイルは大きく伸びをして欠伸を嚙み締めた。
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