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【完結】方舟の子 ~神代の遺産は今世を謳歌する~  作者: 篠見 雨
第1章 遺失技術と再起動
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第1章 第17話 夜戦会議と迎撃戦

 屋台や回復ポーションを取り扱う店、鍛冶屋などの所在をチェックしつつ宿へと戻った。部屋に着くとリビングに自然と集まり、再び話し合いの場となった。


「これだけやれば初日の挑発としては十分かな」

 ラムザはレフィが入れてくれたお茶を飲みつつ、今日の成果に満足そうにしていた。

「ラムザ、傭兵ギルドの飛び級スタートが何でメレア夫人への挑発になるの?」

 マツリは屋台で買ってきた果物に手を伸ばす。


「メレアは家令やその配下を経由して、探索者や賊を雇っていた。一方で、襲撃場所とタイミングは的確だった。つまり、諜報要員がいてもお抱えの実行部隊がいない」

「それで?」

 マツリがその続きを促す。

「メレアが臨時で使える武力は外部。つまり、賊やゴロツキ、悪事も受ける探索者、屋敷の防衛などの役割なら、傭兵ギルドなんかも使えるが、最後に頼るのは闇ギルドだ」

「だろうね」


「これまで賊と銀級探索者は撃退しているよな?今日の騒ぎで俺達が傭兵ギルドとつながった事は伝わるし、サイアリス嬢も一緒だった事も伝わる。メレアとしては傭兵ギルドは戦力を期待出来なくなるだろう?」

「なるほど?」


「非合法手段に出ている時点で既に焦っているんだ。考えていた手札を削られて焦りというか怒りの湧いたメレアは、闇ギルドを使いたくなるんじゃないかね」

「危険ではないのですか?」

「サイアリス嬢は既に危険の真っ只中では?」

「そうでした」


「さて、次の襲撃だけど。早ければ今夜かな。そこで部屋割というか寝る場所なんだけど……」

 夜間対策について話し合いを詰めて、夕方の内にエイルとマツリは交代で瞑想睡眠を取ることにした。



 エイル達が作戦会議をした後の深夜。明け方の方が近い時間帯に、侵入者が現れた。侵入者は宿の宿直室から鍵を盗み出し、迷いなくエイル達の部屋へと向かい、部屋の正面から鍵を使って侵入する。

 侵入者は部屋の中の気配を探っていた。その気配に動きはない。事前情報通り気配は四人分。事前情報ではそれなりに強い護衛が二名いるとの事であったが、それ程強い気配は感じられなかった。リビングから続く寝室が二部屋あり、どちらも二名分の気配を感じている。


 仕事のターゲットはサイアリス・フィンレットという少女。特徴は白金色の背中まで届く長い髪に翠玉の瞳。小柄で華奢、十四歳の無力な娘。生かして攫った方が報酬が高い。余裕がなければ殺しても良いという内容だった。

 侵入者は左側の寝室の扉を確認し、蝶番が部屋の内側に向いている構造を把握すると、軋み音を立てないようにドアノブを持ち上げるように意識して押し開いた。ベッドは二つあるが、片方は誰も寝ていない。もう片方のベッドには膨らみがあった。靴底に毛皮を張った無音歩行で近付き、様子を伺う。ベッドには仰向けに寝ている白金髪の少女と、抱きつくように添い寝している黒髪の少女がいた。最初の部屋で当たりを引いたらしい。侵入者は攫うか殺すかを今一度考えたが、騒がれても面倒だと思い直し、殺す事に決めた。刺殺に向いた短剣を抜き、少女の心臓の位置に刃を立て、グッと押し込んだ。


「?」


 押し込んだが、刃が通らない。異常を感知して狙いを首に変えようとしたところで頭部に衝撃を受け、意識が途切れた。


◆◆◆◆


 マツリはサイアリスを守り易いように同じベッドに添い寝で、寝たふりをしていた。侵入者はほぼ無音で部屋まで入ってきたが、生命感知を搔い潜る事は出来ていなかった。同じように、もう一つの部屋では、エイルも察知している事だろう。予め軽量で頑丈な盾を用意し、サイアリスの布団に隠れた胴は守っていたため、心臓狙いの一撃はスルーして静かに術式を構築する。

 侵入者がナイフが通らない事に異変を感じたところで術式は完成し、侵入者の死角から頭部へ石塊をぶつけ、意識を刈り取ることに成功した。飛ばした石塊が二次被害を出さないよう消滅させるのが一番気を使った。


 マツリは侵入者を下着一枚の状態にまで武装解除して、縄で両手首と両足首を縛り上げた。念のため口内の確認もしたところ、毒物と思われる包みを奥歯の頬袋に含んでいたので、それも撤去した。


「よし、捕縛完了」

「終わったか。多分外に見届け係がいる。俺はそっちの対処をするから、マツリは尋問を頼む」

「わかった」


 いつの間にかエイルも寝室の入口まで来ており、マツリに出掛ける旨を伝えると、窓から外に出て僅かなとっかかりを掴み、足場にし、屋根の上へと上がる。高所から宿の周囲を確認していると、宿の裏手側の路地裏に、宿の方を気にしている男がいた。生命感知で反応を伺うと、一般人より強めの生体反応が返ってきた。


「(こいつかな?後を着けてみるか)」


 念のため宿を中心に他に隠れている者がいないか確認したが、反応はなかった。エイルは屋根伝いに移動して見届け係に張り込む。暗殺にきた侵入者が戻らないので、じきに失敗と判断して報告に戻るはずだ。そこを制圧する。何かしら情報や証拠になる物を入手できれば、次のアクションが取りやすくなる。

 やがて予定時間が過ぎたのか、潜んでいた見届け係が移動を開始した。エイルは高所からそれを静かに追跡していく。


◆◆◆◆


 エイルの追跡は南門方面の歓楽街まで続いた。

「(娼館にでも入られたら面倒だな…)」

 押し入るにしても、一般人の混ざる場所ではやり難い。念のためフード付きのローブを目深に被って髪を隠し、獲物を刀から片手直剣と短剣に切り替えた。こういう時のために、仮面でも調達しておこうと考えていた。

 男は歓楽街の路地裏に入り、裏通りのバーに入っていった。

「(娼館よりハードル低い、助かった!)」

 エイルはバーの屋根にまで移動すると、さっきの男の生体反応を走査する。様子を見ていると、男は裏口から出て二軒隣の建物に入って行った。

「(フェイントか~!バーに入らなくてよかった)」

 二軒隣の屋根に移動し、建物全体の生体反応を調べると、二階に四人程の反応があった。一階から二階に上がる反応は、さっきの男の物だ。ここが終点と見定め、窓の近くにまで移動する。【風操作】で窓から音を拾い上げ、中の会話を確認する。


『ただいま戻りました』

『一人か?』

『黒棘の野郎、時間内に戻らなかったので失敗したかと』

『黒棘が失敗?無力な小娘だろ?』

『昼間に小娘が傭兵のところに居たって話でしたね。腕の良い新人と一緒だったとか』

『ちっ、めんどくせーな。じじぃのとこのヒステリーババァがまたブチ切れるじゃねぇか』


「(うん、黒だな。とりあえず制圧して、話はそれから聞くか)」

 エイルは屋根の縁に手を掛け勢いをつけて飛び、足から窓を突き破って部屋に飛び込んだ。

「なんだぁ?!」


 裏稼業の集団なだけあり、突然の来客にもパニックにはならず、五人がそれぞれ獲物を抜いて構えた。エイルは「何故」「誰に」「どうして」襲撃を受けたのか、ご丁寧に理解させるつもりはない。殴りやすいところに居た者から殴り倒し、蹴り倒し、逃げる背中に短剣を打ち込み、動きのマシな男は小剣で手首を斬り落とした。窓際の机に座っていた男は脂汗をかきつつ問う。


「……何が目的だ」

「ヒステリーババァだっけ?メレア第二夫人からの依頼の証拠を出せ。契約書くらいあるだろう?」

「なんのことだ?しらん」


 エイルは落とされた手首を抑えて蹲っていた男の髪を掴み、首を刎ねてボスらしき男に投げ付けた。


「”嘘を吐いた”と感じれば死体が増える。よく考えて喋った方が良い」

「い、依頼は受けた!!だが契約書面はない!!」


 背に短剣を受けて倒れ込んだ男に寄り、柄を踏みつけ体重を掛けていく。

「がぁぁっぁぁぁッ」

 刃が鍔の根本まで埋まったところで、悲鳴が途切れた。

「本当だ、裏の仕事では契約は書面に残さない!!」

「それじゃ、代わりになる物はないのか?預かっているフィンレット家由来の物とか」

「……いちいち覚えてねぇよ」

 短剣を抜き、首を刎ねてボスに投げ付ける。そのまま殴り倒した男と蹴り倒した男の首も刎ね、ボスに投げつける。

「お前の身代わりは居なくなったぞ?意味は分かるな?」

「お、おもいだした!おもいだしました!あります!」

 ボスは脂汗と涙、鼻水、投げつけられた首からの血液でぐちゃぐちゃになった顔で引き攣り笑いのような顔になっていた。

「全部出せ。有用な情報も全部吐け。役に立たなければお前の首も刈り取る。役に立てば生きたまま衛兵に引き渡してやる」

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