第7章 第11話 屍山血河を築くモノ
夜間は私服にみえる程度の防具で楽に過ごし、朝方に起き上がると装甲系の防具を着用する。調伏した武器を浮かせて侍らせる朱殷の大鎧にするか、ヒイロライト合金とヒイロダイン合金をメインに造られた新作のヒイロ製大鎧で行くか、しばし悩む。
朱殷の鎧の武器展開は楽で良いのだが、混戦が予想される場所で武器を侍らせておくのも大変かもしれない。薙刀とか掴みやすいし、敵に獲られた場合どうなるのか実験もした事が無い。
「(実験でパクられても腹立つし、ヒイロ製の方が良いかな)」
竜の皮革をベースにした鎧下を着て、ヒイロ製大鎧を纏う事にする。
着替えを進めているとベッドに俯せになったマツリがニヤニヤしながら見てくる。
「なに?」
「旦那様の生着替えを堪能してるだけ」
「はよ着替えれ」
エイルは異空間収納から追加の衝立を取り出して視線をカットした。
ヒイロ製の新作大鎧は金青をベースに紅の八塩が差し色に入っていて量産型と同じ配色をしている。量産型に比べてヒイロライト合金とヒイロダイン合金の積層構造化がより丁寧に造られているが、基本は同一である。
【清浄】【血払い】【自動修復】【自動サイズ調整】【環境適応】【体力回復】【魔力回復】【強度強化】【剛力】が贅沢に付与されている。
調伏が完了している妖鎧である。どのような特殊能力に目覚めるか分からない。デメリットしかないようなモノはつかないはずだが、出来れば使い易いままでいて欲しい。
鬼面頬と兜以外の防具を着込むと、腰に青墨鴉と紅雀を佩き、大太刀を手にして肩に担ぎソファに座ってマツリが来るのを待つ。
「おまたせ」
マツリの方も同じ装備を纏い、鬼面頬と兜は仕舞ったままで打刀と脇差を腰に佩いて現れた。付与された効果の数々もエイルと同じである。≪黒絹≫専用仕様版といったところか。
「それじゃ、担当者殿に面通ししておこうかね」
エイルとマツリが連れ立って陣中を歩くと視線を集めてしまうが慣れたものである。右翼は探索者が多いため、≪黒絹≫を噂で聞いている人間も多いのだろう。
歩き回っているとサウレスタ州の正規兵で守る天幕が見つかった。それに声を掛けてみる。
「サウレスタ州の正規兵の右翼担当官殿はこちらにおられるか?」
エイルが訊ねると警戒されたが、エクス・リスタ州から駆け付けた探索者≪黒絹≫であると探索者カードと共に提示すると天幕の内に案内された。
天幕の中では地形図をテーブルに展開してコマで戦力数を表現した戦局盤が展開されている。
「はじめまして。サウレスタ州正規軍の右翼担当官、イゾルデ・ラッカーレンです」
疲れた表情の女性将校が待っていた。
「ラッカーレン右翼担当官殿、はじめまして。昨夜陣に着いたばかりで今日ご挨拶に参り来ました。クラン≪武器庫≫のパーティ《黒絹》より二名、戦線に着任致します」
エイルが場を弁えた態度で名乗りをあげる。イゾルデはそれに頷き返す。
「噂は聞いている。頼りにさせてもらうよ。配置の希望はあるかい?」
エイルは顔をあげると希望をいう。
「最前列から突貫させて貰えれば」
正気を疑われたが、周囲が全て敵の方が遠慮なく暴れられるというと頷いてくれた。
短いやり取りで右翼最前線を確保した≪黒絹≫は天幕の位置を移動させてもらい、前線に近い場所へと天幕を張り直した。
敵側も本隊は着いていそうだが、まだ軍の展開が終わっていないのか睨み合いのみの体勢が続く。バラン・トラウス州からの援軍が着き、左翼側に回されていく。エクス・リスタ州からの増援はまだ着いていなさそうだ。圧の掛け合いはいいが、そろそろ実際に手を打って来るだろう。
初手は潜入工作員による戦力調査だろうか。次が破壊工作。水や食料など補給物資に対する破壊工作は常道であり効きも良い。まぁ、軍の食料にダメージが入っても自分達の飯は別で確保しているのでいざとなってもなんとかなる。
戦場入りして三日目、漸く盤面に動きが見られた。
口上戦だ。拡声魔法でも使っているのか距離があるのに良く響く声だ事。
右翼最前線で馬具に馬鎧まで付けたアクスの馬上にいると、後ろから声を掛けられた。
「クラン長やっと見つけましたよ」
振り向いてみればお揃いの制服(制鎧?)を身に着けた≪武器庫≫のパーティが何組か来ていた。
「あぁ、お前らもきたのね。カンザスタ王国側の備えは残してきてるんだろうな?」
「大丈夫っす」
「ならよし」
口上戦が終わったようで、両者自陣に戻っていく。法螺貝が鳴らされ、前進が始まる。
「≪武器庫≫の武威を見せつけてやれ!俺とマツリは先に往く!」
アクスの横腹を小突き、合図を与えるとランスに乗ったマツリと一緒に走り出す。
二騎掛け宜しく突き進み、矢返しの結界を張って魔弓を構えて放つ。敵の物理矢の射程外からの魔弓の魔弾は敵陣を襲い、重装歩兵の厚い楯と甲冑の守りを嘲笑うように貫いていく。
敵の物理矢の射程に入っても関係なしに魔弓を弾いて撃つ。浴びる物理矢の雨は矢返しの結界で全て外れていく。接敵の寸前まで魔弓を弾き一射で数人を貫通させていく。
魔弓から大身槍に切り替え、錬気を流し込んで振り回される大身槍の斬撃は、重装歩兵の楯と甲冑の上から両断していく。
並ぶマツリも大身槍で一振り三人は屠り続ける。二頭の魔馬は荒れ狂う己ら主達を誇り嘶き、歩兵を踏み潰して進む。
五メルの大身槍を振り回し一振り四人を斬り飛ばす。馬の突撃止めのため五メル以上ある対騎兵槍が並び槍衾を形成するが、錬気の籠った大身槍の横薙ぎが槍衾ごと斬り伏せ、返す軌道で槍手達を甲冑ごと二つに断つ。
止まらない。止められない。
「死にたくなくば疾く去れ!寄らば斬るぞ!」
「馬上の兜飾りが派手なのが指揮官かな?」
「そうじゃないか?」
マツリが目敏く敵左翼の派手な頭飾りをした馬上の騎士を見付けると、魔弓で射殺した。
「それっぽいのはどんどん狙撃するね。指揮官個体は先に潰せが探索者流でしょ?」
マツリが鬼面頬の奥で笑ったのを感じる。
「あぁ、どんどんやれ!このまま左翼を貫いて背後に抜けるぞ!」
敵の槍を、矢を、ヒイロ謹製の黒絹大鎧は弾き返す。騎手が落とせないなら馬をと、アクスとランスも狙われるが、ヒイロ謹製の馬鎧を貫けず弾かれていく。
「前にいるやつぁ全部斬る!死にたくなくば道を空けて退いていろ!」
大身槍を振り回し、矢や槍ごと敵兵を薙ぎ払って行く。総身五メルの大身槍は、錬気で伸ばした刃は二メルにもおよび、一薙ぎ一薙ぎが何人もの命を刈り取り、死がばら撒かれていく。道が無ければ拓けば良いと言わんばかりに、マツリとエイルの通った道は屍山血河となっていた。
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