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【完結】方舟の子 ~神代の遺産は今世を謳歌する~  作者: 篠見 雨
第1章 遺失技術と再起動
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第1章 第16話 傭兵たちの歓迎

 マツリはやる気満々である。傭兵ギルドの評価基準で、自分の位置が客観的に分かる良い機会だった。今まで模擬戦の相手といえばエイルだけだったので、世間的にどういう評価のレベルにあるのか、気になっていたのだ。この機会を逃す手はなかった。


「その意気や良し!《餓者髑髏》の三級、トキツナ!」

 次に出てきたのは鬼人族の剣士だった。東方諸島群の民族衣装を羽織り、手にはマツリと同じく木刀を握っていた。

「(見た感じエイルと同系統?)」

 トキツナは位置に着くと折り目正しく立礼をした。これには思わずマツリも立礼を返す。


「いざっ!」


 マツリは正眼に構えたまま、開始の合図を待つ。一方、トキツナは左手に納刀持ちのまま脱力してマツリを眺めている。


「(あっ……。霊素の密度すごい。練度たっか~……)」

 マツリは右小手と右脇腹にピリピリと刺激を感じる程の緊張感を感じた。

「(これ、殺気で”抜き打ちの右薙ぎでぶっ飛ばす”宣言?こっわ~)」


「はじめっ!」


 開始の宣言と共に、マツリが距離を詰めに掛かる。ピリピリと感じる”攻撃宣言”に従い右薙ぎを受け流す意識を持って踏み込む。

 トキツナの右手が木刀の柄を握った次の瞬間、マツリは右腕と右脇腹に衝撃を受けて飛ばされていた。


「ッ!?」


 マツリは右薙ぎを警戒して備えていたが、まるで反応できなかった。来ると感じた瞬間、ガードの上から吹っ飛ばされていた。地面に叩きつけられ、慌てて跳ね起きて追撃に備える。


「そこまで!勝者トキツナ殿!」


 マツリは咄嗟にまだやれると思ったが、真剣だったら胴が真っ二つだったろう事は流石に分かる。諦めて木刀を下ろした。


「……ありがとうございました、トキツナ殿」

 マツリはトキツナに立礼をして下がる。ナノ・ユニットが魔力を消費してダメージを修復する。

「マツリ殿は飛び級で四等級からということで良いですねー?決定でーす」

受付嬢が両手をパンと打ち合わせて、決定を知らせる。


「おめでとう!」「傭兵ギルドへようこそ!」「登録初日で抜かされたぁ!!」


「マツリ、何で魔法使わなかったんだ?即死以外なんでもありってルールだったろ?」

「ん~?相手の土俵で自分のレベルを測りたかったから?」

「それじゃ俺も身体強化系だけでやってみっかな……」

「マツリ様かっこよかったですよー!ラムザ様いってらっしゃいませ!」


「新人傭兵ラムザ。ちょいとご相談なんだが。最初トキツナ殿お願いしても良いかい?負けたら等級下げていって、勝ったら上げていく感じで」

「オレは構わないぞ」

 トキツナが了承したことで、その案でいくことになった。中央で向かい合う。


「(魔力が少ない半面、霊子の密度がすごい。綺麗に全身に染み渡っている)」

 エイルはトキツナの霊子運用に感心しつつも、自身の霊子を活性化させる。霊子強化を下半身および背筋の、抗重力筋に集中させる。霊子を回す余裕のなかった視覚と聴覚を魔力で強化した。


「傭兵三等級の速さと強さを体感できること、感謝する」

「エルフの嬢ちゃん、まずは一発凌いでみせてくれよぉ」

「男です」

「えっ」

「男です」

「あ、うん、なんかごめん……」


 微妙な空気の中、「はじめますよ~?」と遠慮がちな受付嬢の声が聞こえた。二人は受付嬢に頷いて返す。


「では……。はじめっ!」


 マツリの時と同様、狙いを知らせる殺気をジリジリと感じながら、間合いを詰めていく。

あと半歩の踏み込みで間合いに入るところで、その集中力を更に高めていく。

 エイルは抜き打ちの構えのまま一打必倒の意思を込めて重心を前方に倒した。踏み込みの予兆を察知したトキツナが、必殺の抜き打ち右薙ぎを走らせた。エイルは即座に重心を戻し、トキツナの木刀が目の前を通過していくのを見送ると、改めて本命の踏み込みから右薙ぎを打ち込んだ。


「ッ!!」


 トキツナは空振りとなった右薙ぎを即座に戻し、袈裟切りへと移行したトキツナの右手の握りへと右薙ぎを打ち込んでいた。右手の指を砕き、弾かれた木刀が中を舞う。エイルは振り切った右薙ぎを左薙ぎに戻し、トキツナの首に寸止めしてみせた。


「まいった……」

 トキツナが目を丸くし、エイルに敗北宣言をした。

「ありがとうございました」

 エイルはトキツナに立礼をして開始線に戻る。


「今の何すか?何でトキツナさん空振りしたの?」

 若い傭兵がベテランに質問していた。

「ラムザ殿のフェイントだ。瞬発的な殺気と重心の移動でカウンターを誘われ、引っかかったところをコテンパンにされたって流れだ」

 ベテランの解説に若い傭兵は感心した。

「へぇぇ……。高度すぎてわっかんねぇ」

「おい、二級って今日いたか?」

「今日は誰も見てねぇな。ウチの大将も出張中だわ」

「くっそ、二級との勝負みたかったなぁ……」


「え~っと……。では、ラムザ殿も飛び級で四等級スタートということで」

「異議なーし!」「良い物みせてくれてありがとぉ!!」「男でも良いや、今晩どう?」


「(傭兵たちの歓迎は無事済んだらしい)」


「ラムザもおめでと~!」

「ラムザ様おめでとうございます!」

「二人ともありがとう」


 その後、飲み会の口実にされかけて引っ張られそうになったのを丁重に断り、傭兵ギルドの四等級プレートを受け取ってギルドを後にした。

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