第1章 第14話 領都バーグラムと探索者ギルド
ナハートからバーグラムへの予定移動期間は五日であったが、四日目の昼過ぎにはバーグラムに到着した。入市手続きの列に並ぼうとしたが、サイアリスが身分証明をするからと、貴族用の門を通行する事になった。
検問所で馬車を止めて衛兵が掛ける誰何に、馬車内から御者台越しにサイアリスが応えた。
「サイアリス・フィンレットです。我が家の馬車は襲撃で破壊されてしまったため、護衛の方達の馬車での帰還となりました」
「(馬車が怪しかったらしい。そりゃそうか。如何にも平民が使う荷馬車だもんなぁ……)」
衛兵はサイアリスの顔とさし出した家紋付きの短剣を確認すると、敬礼をして通行を許可してくれた。
「先ずは探索者ギルド近くに拠点にする宿をとりたい。その後ギルドに挨拶して指名依頼の手続きをしよう」
「承知いたしました」
「了解~」
「暗殺者対策に、寝室が二部屋ある良い部屋を借りたいんだけど、構わないか?」
「大丈夫です。それでお願いします」
雇い主の許可も降りたところで、探索者ギルドのある東門広場で一番豪華な宿に入った。希望するような造りの部屋も空きがあったため、その部屋を指定して五泊分の金額を支払った。一般の平民四人家族が半年以上暮らせそうな額が飛んだが気にしない。命より安いのだ。
見せかけの荷を寝室に置いてリビングに集合すると、四人で探索者ギルドへと出かけた。ギルドは石造りの頑丈さを重視したような無骨さがあり、ナハートの街より更に広く高い建物だった。
「探索者ギルドは良いよね。何度来てもわくわくする」
マツリはキョロキョロと内装や施設の配置を確認している。
「物語の舞台の定番ですし、これから何かがはじまりそうな雰囲気とか良いですよね」
意外にもサイアリスも楽し気にしていた。
「お嬢様は英雄譚モノが愛読書でして。憧れが強いのですよ」
レフィがサイアリスの嗜好をさらっと漏らす。
話しながら移動し、列の短い依頼窓口に並んだ。列の長いところは大抵ギルドの看板娘が受付しているところだ。毎日大量の依頼対応に追われるため、仕事が出来る場合も多い。しかし今は人気のない窓口でも、対応が早い方を選ぶ場面だった。ちなみに並んでいる窓口は厳つい男性職員だった。窓口にならんでいると、エイルが連行している襲撃者をみてヒソヒソと何やら小声で話している奴らがいるのが分かる。
「(こいつもホームのギルドで如何にも拿捕されましたという見世物状態は辛かろう。同情はしないが)」
しばらくして順番が回ってくると、まずはパーティ名登録を行い、正式名称として《黒絹》となった。次に領都までの指名依頼の完了報告。続いて、新しい指名依頼の登録とその受諾を済ませた。最後に、縄で縛って引っ張ってきた襲撃者を引き渡す。
「こいつ、銀級の探索者のようなのですが。うちの護衛対象の誘拐未遂です。どうもギルドを通さない闇依頼での犯行で、残り五名は死にました。死体も持ってきたので、どこかで出して確認をお願いしたいのですが」
わざと周囲にも聞こえる声量で伝える。ヒソヒソ声だったのが、ザワッと大きくなった。
「銀級探索者パーティ≪黒の禿鷲≫ですか……。奥で事情聴取にお付き合いください」
解体所で残り五名の死体を取り出してプレートも見せる。男性職員はプレートに記載された内容を記録し、登録資料と照らし合わせて一党が同パーティで構成されていた事を確認した。
その後、取り調べ室で聞き取り調査が行われ有罪が確定した。また、誘拐対象がフィンレット家の息女という事もあり、その罪は軽減されても鉱山の強制労働の刑となり、生き残れる目の薄い判決が確定した。
応接室に通された四人は、バーレイグの探索者ギルド長【ランカスター】と面会していた。
「探索者ギルド所属の者が許されざる暴挙に及んだ事、誠に申し訳ございませんでした」
ギルド長が深々と頭を下げていた。
「ギルド長、頭をお上げください。確かに襲撃は受けましたが、こうして無傷で乗り切っております。それに、私達を助けてくれたのもまたギルド所属の≪黒絹≫様なのですから」
ランカスターは≪黒絹≫の二人にも頭を下げ、深く礼を述べた。
「≪黒絹≫にも迷惑を掛けた。依頼者を守り抜いてくれたこと、感謝する」
マツリはにへらと笑って手を振った。
「大丈夫ですよ~。問題なさすぎてラムザ一人でサクッと返り討ちでしたので~」
エイルもウンウンと頷いて同意した。
「はっ?一人で?≪黒絹≫に被害は?」
ランカスターが顔をあげて思わずという様に訊ねた。
「被害?ないですよ」
「パーティメンバーが何人も亡くなって二人になったのではなく?」
「最初から二人です」
どうやら”多大な犠牲を払いつつ、何とか格上の撃退に成功した勇気ある若者”と思い込んでいたらしい。
「まぁ、探索者プレートはこの間作ったばかりなので、経験の浅い若者に見えるもの分かりますけどね」
エイルはバツの悪い思いで苦笑いする。
「世の中、探索者ギルドに所属していない強者だって居ますでしょう?そういう方が探索者になった際、鉄級からスタートになるのはギルドの規約通りでは?」
サイアリスはしれっとフォローを入れた。
「……そう言われてしまえば確かにその通りなんだがね」
ランカスターはギルドの規約の都合で鉄級なだけで、実力のある者として二人を受け入れる事にした。
応接室を後にして受付のあるロビーまで戻ったところで、エイルは素材の処分が残っている事を思い出した。
「すまん、ちょっと魔物素材売り払っておきたい」
マツリ達は声掛けに頷くと、エイルと一緒に列に並んだ。本当は一緒に並ぶ必要はないのだが、女性だけで固まっていると要らぬトラブルの素となる。それならば職員からも目につく列に一緒に並んだ方が安心感があった。
再び一番短い列に並ぶと、先程の厳つい男性職員がいた。
「これはラムザ殿。今度のご用件は?」
「旅の中で狩った魔物の引取りを頼みたい。ギルドポイントの入る常設の対象があれば、ポイントの加算手続きも頼む。量が多いので解体所を使わせて欲しい」
「承知いたしました」
男性職員は事務スペースの方に見積対応の指示を飛ばす。若手の女性職員が筆記用具を持ってやって来たので、案内を任せた。
領都だけあってナハートの解体所より広く、解体に従事している人数もずっと多かった。場所が決まるとマツリに頼み、ナハートで卸し損ねた分を出していく。大型の猫科の魔獣、犬科の魔獣、樹齢の古そうなトレント、大食鬼に食人鬼、豚鬼王、小鬼王、下等竜種の地竜、翼竜などを並べていく。数自体はナハートの時より少ないのだが、あの時に比べて単価が高い。
「マツリのストレージは相変わらず底が見えないな」
エイルが羨ましそうにマツリに言う。
「ん~容量はさすがに分かんないや。今度湖でも飲み干してみる?っと、これで大体終わりかな」
マツリは何でもないように出し切ると、女性職員に振り返った。
「はぁ~……。英雄譚に出てきそうな大物がちらほら見える気がするのですが」
サイアリスは珍しい物を間近にみれて興奮気味だ。
「美味い肉は食肉として持ち帰りたいので、精肉しておいてください。他は全部売却で良いです」
エイルは何時もの注文の付け方で女性職員に処理を依頼した。
「……ハッ!!すみません、ちょっと自失してました(鉄級探索者の持ち込む量と質じゃない!!)見積は少々お時間をいただきたく。明日までにご用意いたします」
エイルは頷いて明日また顔を出す旨を伝え、解体所の裏口から宿に戻っていった。
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