第6章 第2話 誰にでもはできない斥候育成講座 超短期集中編
城塞都市リスタンテはダンジョンを三つも抱えた大陸でも最大級の迷宮都市である。
ローエンディア王国の王都ローエンベルクにも東迷宮と西迷宮の二つがあったが、リスタンテの迷宮は規模感が違う。
攻略済みの階層が百五十階層以上に及び、未だに踏破し切れていない。クラン≪武器庫≫がリスタンテに居を構えてから百五十年以上経っていて、たったそれだけである。
攻略最前線には老竜や魔将級悪魔族まで出てきている。敵の強さ的にも人類の手に余りつつあって、最前線に潜り続けられる人員が極端に少ないのだ。
そんなリスタンテの迷宮で、いずれは最前線にまでやってくるだろう戦力の育成を再開することになった。まずは踏破階層の第一階層から順に記録を更新していくところからだ。初心者や若手の獲物を取るのも気がひけるので、出来るだけ最短ルートを最小限の撃破で進めていきたい。
今回の構成は以下だ。
エイル: 前衛
ヒイロ: 前衛
マツリ: 前衛、中衛
トーコ: 後衛、魔法指導
ファズファラール: 中衛、斥候とマッパーの指導
アーシェス: 後衛、斥候とマッパーの修行中
ラクスレーヴェ: 後衛、斥候とマッパーの修行中
雷閃:前衛、感知要員、もふもふ要員
青藍:後衛、感知要員、もふもふ要員
ファズファラールは、アーシェスとラクスレーヴェの実習でついてきてくれる事になった。いつも素っ気ない態度の割に、実は面倒見が良いのだ。
三つの迷宮はそれぞれ傾向は違えど深くなれば難しいのは一緒だ。今回の実習は第一迷宮と呼ばれている南門の外側にある迷宮区に行く事になっている。選択はファズファラールで、理由は斥候の修行に一番向いているとの事だった。そして今回は階層記録の更新も要件にはあるが、何よりアーシェスとラクスレーヴェの斥候とマッパーの修行の要素が一番強い。
「二人の育成を最優先にする以上、指示役は私がやる。異論は認めない」
とファズファラールが言うので、エイル達はその邪魔にならないようにサポートに務めるつもりで来ている。
第一階層からダッシュしつつ、要所要所でアーシェスとラクスレーヴェに罠の見付け方、解除の仕方、開錠のコツなどを伝授している。エイルとマツリは気配感知を続けており、不意の接触などがないようにフォローしている。
ファズファラールの指導は見事なもので、アーシェスとラクスレーヴェの技能もどんどん向上しているようにみえた。
潜行初日は三十階層の下り階段部屋にコンテナ・ハウスを出してファズファラールをお持て成しし、そのあまりの快適性にファズファラールは白目を剥きかけるのだった。
潜行二日目は三十一階層から五十階層、三日目が五十一階層から六十階層、四日目に六十一階層から六十五階層と、一日に進める階層はだんだん減っていった。
階層が深くなってくると、初心者から中堅の探索者達がいなくなるからだ。六十階層を越えると殆どベテランしか残らない。罠も巧妙に変わっていく。ファズファラールの指導も密度が上がって行った。ラクスレーヴェもアーシェスも泣き言を言わずその指導について行く。
「こんなに根性のある子に教えるのは久しぶり」
ファズファラールがそういって二人に微笑みかけた。あまり表情筋を動かさないタイプなので分かり辛いが、ファズファラールも二人を気に入ったのだろう。自分達も三年間に渡り指導と育成を担当したから、この二人が教え甲斐があるというのは同意である。
五日目に七十階層の攻略まで済ませると、今回の斥候指導はここまでとなった。
ダンジョンで必要な知識は教えた。あとは繰り返しやって練度を上げるしかない。ファズファラールとしてはダンジョンでの指導はここで終わり、野外用の指導も少しやっておきたいという。
二人も野外での斥候技能を教えてもらえるなら是非にという勢いだったので、七十階層の帰還魔法陣で探索階層記録プレートに記録を残しつつ戻った。
それから十日間程、アーシェスとラクスレーヴェはファズファラールに森を連れまわされ、動物や魔物の痕跡探して追跡し、危険な天然の罠の見つけ方、回避の仕方などのサバイバル技術などを短期間でミッチリ教え込まれ、一段と逞しくなって帰って来た。元貴族令嬢が立派な探索者になったものである。なお、森のサバイバル訓練にはアクスとランスを連れて行っていた。久しぶりに森で野営となってアクスとランスも楽しかったようで、終始機嫌良さそうにしていたという。
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