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【完結】方舟の子 ~神代の遺産は今世を謳歌する~  作者: 篠見 雨
第1章 遺失技術と再起動
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第1章 第12話 ≪黒絹≫

 宿の厩に預けていた二頭の馬に荷馬車を取り付け、旅は再開された。貴族のご令嬢を乗せるには乗り心地はすこぶる悪い。従者のレフィに御者を任せ、エイルはマツリに時空間魔術の初歩を教えていた。【空間安定化】という簡単な結界の効果で、振動や揺れの影響を軽減する事が出来るという物だ。


「えーっと…。ヘイ、シシリー!【空間安定化】」


荷馬車の範囲で空間が安定化され、路面の影響をダイレクトに受けていた馬車の揺れが収まった。


「あ、揺れなくなりましたね」

レフィが荷台を振り返って笑顔をみせた。


「マツリ様は独特な詠唱をされるのですね」

サイアリスはマツリの独特な詠唱を不思議そうにしていた。


「マツリ、馬達に【身体強化】と【体力回復】も掛けてあげてね」

エイルは暫く世話になる馬への援助も依頼する。本当は自分でさっと掛けてしまいたいのだが、すこぶる魔力の調子が悪いため、普段はマツリにやってもらっていた。


 初日は特に問題なく夕方まで進み、街道から少し離れたところに【認識阻害】の結界を張って野営とした。


「ラムザラムザ、寝るとこどうする?普通のテントにするの?」

 マツリがエイルの腕を引っ張り小声で尋ねた。

「【コンテナ・ハウス】にしよう」

「いいの?お風呂入りたいから嬉しいけど」

「彼女達には口止めしといてね」

「了解、それじゃ出すね」


 マツリが小走りに少し離れ、そこに異空間収納から【コンテナ・ハウス】を取り出した。サイアリス主従はポカンと口を開けて絶句していたが、特に突っ込まずマツリに案内されるままに中へ入っていった。エイルはガレージに荷馬車と馬を連れ込み、飼葉や野菜、水を用意して労った。【コンテナ・ハウス】の中はしばらく賑やかだろうなと思いつつ、二頭にブラッシングをしてやり時間を潰してから中に入るのであった。

 


 エイルが【コンテナ・ハウス】に入ると、女性メンバー達は自室を確保してリビングに集合していた。


「あ、ラムザ様。お帰りなさいませ」

「お帰り~」

「お帰りなさいませ」


 ソファに姿勢よく座っているサイアリスと、だらしなく横になっているマツリが迎えてくれた。

レフィはダイニング奥にあるアイランドキッチンで機嫌よく調理をしている模様。


「おー、ただいまー。風呂は済んだ?」

「まだー」

「お風呂まであるのですか?」

「ありますよ。今用意しますね」


 エイルはだらけているマツリを放置して、風呂場へ向かう。

 【洗浄】魔術で湯舟の汚れを除去して、パネルから湯張りの操作を行う。湯沸かしユニットから湯舟までの配管の湯が出きったところで排水し、再度【洗浄】すると栓をして湯張りを行った。

 念のため洗髪液や洗体液の残量を確認し、新品の剃刀を棚に置いてリビングに戻った。


「二十分くらいで湯張りが終わると思いますので、用意が出来たら順番にどうぞ。マツリは二人に使い方教えてあげてね」

「はーい」


 夕食は鳥肉を甘辛く味付けした焼き物と野菜たっぷりの腸詰め入りスープ、オイルと鷹の爪の効いたパスタ、野菜スティックのディップ添えという、宿屋の食事より豪華なメニューが出来上がっていた。レフィは清潔で機能的なキッチンに興奮し、思わず張り切ってしまったらしい。

 エイルは赤ワインとグラスを取り出して皆に振舞った。なおエイルは酒精に弱いため、ワインに偽装した葡萄ジュースであった。


 美味しい食事に酒精も回った事で、サイアリスがずっと聞きたかった質問を投げかけた。

「ところでラムザ様」

 エイルは葡萄ジュースを一口飲み、落ち着いて返事をする。

「はい、なんでしょう?」

「色々お伺いしたい事があるのですが」

 サイアリスの隣でレフィが頷いている。


「かの”エイル・カンナギ”とご血縁なのですか?彼以外の黒髪のエルフが居るなんて知らなかったです」

「あー、まぁそんな感じです。両親は普通の髪色だったんですけどね」

「ストレージ魔法?魔道具?の異常な容量についてはどうなんでしょうか。国宝級だと思うのですが」

「最近遺跡で入手しました。内緒ですよ?」


 聞きたく我慢していたのだろう激しい質問攻めを、ぬるぬると受け流していく。

「(普段の大人しさの反動かな?)」

 エイルはサイアリスの興奮状態を微笑ましく思いつつ、相手をするのであった。


 食後はマツリの案内で女子風呂が先に行われ、エイルは【コンテナ・ハウス】から外に出て見回り兼鍛錬を行った。日の出前になってからようやく【コンテナ・ハウス】に戻り、シャワーを浴びて自室で瞑想睡眠による休息をとった。


 起床後、馬達に食事と水を与えてレフィの朝食をいただき、二日目の移動がはじまった。


「お二人のパーティ名はどうされるのですか?」

 サイアリスがマツリに聞いた。

「そういえば決めてなかったねぇ」

「指名依頼する側としては、パーティ名やクラン名は、無いよりあった方が助かるのですが」

「なるほど。指名依頼する側の観点は考えてなかったです。パーティ名か~」

「例えば……。お二人の綺麗な黒髪のイメージで、【≪黒絹≫】とかどうでしょうか?」

「≪黒絹≫ですか……。良いですね。ラムザ~!」


 御者台にいたエイルがマツリに呼ばれて振り返る。

「どしたー?」

「私たちのパーティ名!≪黒絹≫でどうかな?サイアリス様が考えてくれたんだけど!」

「髪色からの発想かな?俺はそれで構わないよ」

「それじゃ決定!次のギルドで登録申請しよう!」

「了解。サイアリス嬢、良い名前をありがとう」


 エイルの感謝の微笑みに、サイアリスは満開の笑みで応えた。

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