第5章 第4話 アルストランサの迷宮(2)
迷宮五十一階層。
牡山羊頭の下級悪魔族が徘徊していた。エイルらを認識すると、遠間から魔法攻撃を仕掛けて来る。射出系での直接的な攻撃のため、相剋属性を乗せた一刀で四散させ、距離を詰めて行く。懐に潜り込んだところで紅雀から魂祓に切り替えて下級悪魔族の心臓を一突きし、仕留める。魂祓から伝わって来るのは喰い足らなさだった。魂祓を納刀して次へと向かう。雷閃が雷で麻痺させた個体は楽々と首を刈る事が出来て大変助かっている。
正規ルート上の下級悪魔族を全て喰い尽くすと、マップ通りに下り階段の部屋を見つけ、更に降りて行った。
迷宮五十二階層。
青黒い外骨格に蟀谷から大角が突き出た種類の、中級の悪魔族が正規ルート上にも溢れていた。
先程の下級悪魔族に比べて数も多い。マツリとエイルのツートップ体制で駆け抜け魂祓で止めを刺していく。マツリが相手をしている敵も腕や脚を落としてわざと瀕死で置いてくれているため、ありがたく魂祓で首を刈って滅ぼしていく。
いつの間にか先行していた雷閃が雷で痺れさせた悪魔族を咥えて持って来て雑に放った。生け捕りにしてくるなど中々良い仕事をしてくれる。痺れて放り投げられた悪魔族の心臓を魂祓で一突きし、落命させる。雷閃だけじゃなく背後にいるラクスレーヴェとアーシェスからも火力支援が入っている。一対複数の状況を出来るだけ作らない様に牽制を掛ける立ち回りをしてくれているのが判る。
今回これだけあっさり斬り殺している中級の悪魔族だが、鉱山迷宮ではこいつがフロアボスとして現れた事もあった。あの頃にはかなり苦戦したというのに、今では片手間の様に首を刈り取る事ができている。当時の火力不足感が払拭できている。こうやって以前に苦戦した敵が再び出て来ると成長結果の良い指標になってくれる。錬気の練度が上がった実感だけでなく、実際に目に見えて違う火力と結果に、確実に力が付いてきていた感触を得る事ができた。
迷宮五十三階層。
荒れた平原にポツポツと枯れ木が生えているような、過酷そうな環境のネイチャーフロアだった。
マップを確認して進むべき方向を定めると、エイルを先頭に走っていく。敵は最近縁のある翼竜だった。魔弓を手に取り先ずは撃ち落とし、地面で暴れている所を魂祓で喰らっていく。死骸は翼竜ステーキを想像したのか舌なめずりをしそうな飯の顔でアーシェスとマツリが回収していく。魔弓で落とした翼竜を雷閃が咥えて帰って来ると、尻尾を立てて小刻みに揺らして褒めてほしそうにしている。エイルは翼竜に魂祓で止めを刺すと、雷閃の首筋をワシワシと撫でて褒めてやる。
「生け捕りしてくれてありがとうな」
ボス《エイル》に礼を言われたのが嬉しいのか、目を細めてグルルゥと喉を鳴らして喜ぶ。まるで人に慣れた大きな猫である。
地図の通りに進んだ場所の岩場で下り階段を見付け、一行は降りて行く。
迷宮五十四階層。
迷宮フロアに戻り、重厚で巨大な斧を引き摺りながら歩く青黒い毛並みのミノタウロスがいた。目の前のミノタウロスからは以前に倒したネームド個体以上の圧力が放たれているが、この個体と同じような反応が奥から感じ取れる。このフロアの標準的な個体なのだろう。
圧倒的捕食者の佇まいでエイル達を見下ろす青黒いミノタウロスだが、この程度の圧力なら散々浴びてきている。特に臆することもなく飛び込んでいき、巨大な斧を躱しつつ距離を詰めていくと、前かがみから大角での掬い上げを敢行してきた。エイルは後方への体重移動のステップで間を外すと、目前で空振りをして無防備に晒されたその喉を魂祓で刈り取ってみせた。
魂祓から圧倒的な飢餓感とでもいう物が薄れはじめ、若干素直になってきていると感じる。しかし完全に調伏するには至っておらず、もっと強力な魂を喰わせないと駄目なのだろうと思わされた。
五十四階層で遭遇したミノタウロスはいずれも屈強な肉体に物を言わせた暴風のような攻撃を繰り返して来たが、雷閃の雷は面白い程に決まって身体を硬直させ倒れるので、エイルは楽に魂祓で首を刎ねて回れた。正規ルート上だけでも二十体程を狩り殺した頃に、漸く下り階段が見えて来た。
迷宮五十五階層。
薙刀を持った鬼蜘蛛が現れた。この鬼蜘蛛は蜘蛛になっている下肢部分が赤黒く、上半身の鎧も同色で揃っている。朱殷色のエイルの大鎧と似た雰囲気だ。鬼蜘蛛の体高は四メル程もあって、遥か高みからエイル達を見下ろし、小蟲を払うが如く薙刀を雑に振り払ってくる。
圧倒的な体格差からエイル達を舐め、雑な攻撃を繰り返しているのが判る。エイルは横薙ぎに払われた薙刀の上を背面飛びでやり凄し、着地と同時に鬼蜘蛛の下肢を蹴って上半身に張り付くと魂祓で首を刈っていく。
雷閃も雷で麻痺させた鬼蜘蛛を用意し、褒めてとばかりに擦り寄って来る。ここまで尽くしてくれると可愛げも感じて来るのだが、いかんせんデカ過ぎる猫だ。尻尾を立てて頭を擦り付けられるだけで押し倒されそうになる。その内、飛びついてくる雷閃を受け止める訓練でもした方が良いかもしれない。
体格差でエイル達を舐めた鬼蜘蛛はすぐに死んでいくのだが、警戒して技のある薙ぎ型や突き型をみせる個体は間合いも測って有利を保とうとするため、なかなか厄介だった。振り下ろされる薙刀を通路端に寄って避けると、開いた空間を使って雷閃の雷が放たれる。感電して硬直する鬼蜘蛛ならば、首を刈るのは実に容易だった。
ラクスレーヴェとアーシェスも、雷閃を見習って雷の魔法を習得しようと頑張っている。雷は木行の上級行使にあたるため難易度が非常に高いのだが、使えるようになれば確実に戦力は向上する。是非頑張って習得して頂きたい。
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