第1章 第11話 護衛依頼
その日の夕食は突刺鳥のクリームシチューと鹿肉入りの温野菜サラダ、猪肉と野菜の煮物だった。宣言通りの豪華な食事に二人は顔を綻ばせた。
食事が終わって食休みのお茶を飲んでいる時、宿にサイアリスの従者のレフィが現れた。彼女はこちらを認識すると真っすぐに向かってきた。
「お久しぶりです。お二方」
「レフィさんお久しぶりです。サイアリス様はお元気ですか?」
マツリが先に挨拶を返した。
「レフィさんも元気そうで安心しました。ラムザ・クロガネです。改めてよろしく」
エイルも続けて頭を下げた。
「早速で申し訳ありませんが、目的の物は入手できましたか?」
「はい、ばっちりです」
「では、明日の午前中にお嬢様と再訪問いたしますので、その時に宜しくお願いいたします」
「承知致しました」
レフィは明日の午前の約束を取り付けると、そのまま馬車で帰って行った。
エイルはマツリを連れて厨房に顔を出して主人にお礼を言い、シチューや煮物の大鍋を収納して部屋へと戻って行った。
翌朝、朝食後のタイミングでサイアリスとレフィがやってきた。
「お久しぶりです、サイアリス嬢、レフィ嬢」
「お久しぶりです。ラムザ様、マツリ様」
女性を招くということで今回はマツリの部屋に集合させてもらい、再開の挨拶を交わした。
「安い一人部屋なので狭くて申し訳ありません。サイアリス様はこちらの椅子をお使い下さい」
「ありがとうございます」
まずは彼女達と別行動してからの顛末を伝え、異空間収納から家紋付きの短剣を取り出してレフィに手渡した。
「早速ですが、こちらが例の短剣だと思います。念のためご確認ください」
レフィは家紋を確認し、一つ頷くとそれをサイアリスに手渡した。
「……。間違いありません。回収ありがとうございました」
サイアリスは傷の付き方まで調べるようにじっくり観察し、満足そうに頷いて礼を述べた。
「それは良かった。こちらも安心出来ました」
エイルはほっと一息吐いた。家紋付きの短剣といえば、貴族が持つ身分証となる場合がある。仮にこれを悪用されていれば、サイアリスの家は身に覚えのない罪科や借金を負っていた可能性がある。そうなれば貴族家としてのダメージも大きく、場合によってはお家の取り潰しにまで発展する事もある。被害が出る前に回収できたことは僥倖だった。
無事安心できたところで解散、と思ったところでサイアリスから声が掛かった。
「ラムザ様、マツリ様。折り入ってお願いがございます」
「伺いましょう」
「賊の襲撃で連れていた護衛がいなくなってしまいました。私たちを領都【バーグラム】まで護衛していただけないでしょうか?」
エイルとマツリは顔を見合わせた。マツリがサイアリスに内容について確認をする。
「ちなみに、領都バーグラムというのはどちらの方向に、どのくらいの時間が掛かりそうですか?」
「領都はここから東の方角に、馬車で五日程の旅程になると思います」
エイルとマツリは、東の迷宮都市群に向かって旅をしている。行先の方角にズレがないのなら旅程的にも問題なく請け負えると判断した。
「受けて良いと思う」
マツリはエイルに頷いた。
「それでは、探索者ギルドに護衛依頼の手続きに行きましょうか」
エイルもマツリに頷いて、サイアリスに答えた。
「ありがとうございます。その……。短剣の回収と護衛の報酬についてなのですが」
「はい」
「領都に着いてからでもよろしいでしょうか?賊に財布も持って行かれてしまい、持ち合わせが心許なく……」
「あっ!」
マツリは異空間収納に回収していた財布をごそっと取り出して、サイアリスとレフィに確認を頼んだ。彼女達の財布は無事返却された。
その後、すぐに依頼手続きは済み、午後にはナハートの街を出発する事が出来た。
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