第4章 第15話 ヴァルナガルナの迷宮通い(5) 試着のお時間
大鎧から離れたマツリが異空間収納を試みると、それが弾かれた。
「まだ生きてる?」
マツリが眉を寄せ大鎧に大身槍を向けて距離を取る。
一方でエイルは、確かに倒した手応えを感じていた。刺しっぱなしにしていた龍閃と紅雀を抜き取りつつ面頬を覗き込んでみると、先程の青白い揺らめく光は消えている。
エイルが異空間収納を試してみると、大鎧はエイルの異空間収納に収まった。大鎧が持っていた大薙刀と大弓、打刀と脇差も消えている事から、一式がセットなのかも知れない。
「あれ?エイルの異空間収納には入ったの?」
マツリが頭を傾げて問う。
「うん、そうみたい」
エイルは先程の大鎧をイメージして異空間収納から取り出すと、【洗浄】を掛けて綺麗にし、兜と面頬を外して首筋の隙間から中を覗き込む。中にはリビングメイルのように赤黒い核があり、大きく罅が入って割れていた。
「核が入ってる。リビングメイル系統なのかな」
エイルはその隙間から腕を突っ込み、中の核を握ってブチブチと結線を引きちぎりながら取り出してみる。
前に見たリビングメイルの核に比べると透明度が非常に低く、流れた古い血を思わせる朱殷色だった。その核を異空間収納にしまうと、大鎧の中にも【洗浄】を掛けておく。
「日緋色金合金製かな……」
エイルはその大鎧の材質の色を見てそう思った。
「気に入ったの?エイルが自分で持っておく?」
マツリがエイルに訊いてみると、エイルは頷いた。
「俺にとっては一応は故郷の意匠に近いし、使えそうなら使ってみたいかな」
エイルが正直にそう答え、自分の装備用の異空間収納に収めた。
「さすがに疲れました」
ラクスレーヴェが肩を落とす。豚鬼の軍勢に続いてネームド個体としか思えない大鎧との戦闘。さすがに精神的にも疲れが溜まっていた。
「そうだな、さっさとボス部屋の前に移動して休憩入れよう」
エイルも同意し、一同は大扉の前に移動して腰を下ろした。
「鬼蜘蛛が寄ってきたら倒しておくから、飯食って瞑想睡眠してていいよ」
エイルの言葉に甘え、三人は屋台飯でお腹を満たすと【ボックス・トイレ】を出して順番に使い、毛布に包まって瞑想睡眠に入った。
エイルは通路側を警戒しながらさっきの大鎧を出してみる。核が無くなって脅威はない筈なのになかなかの威圧感を感じる。
「(試着しちゃお~)」
エイルは上着や革鎧を外していき身軽になると、大鎧の胴鎧に触れた瞬間、大鎧が瞬時にエイルの身体に纏わりつき、勝手に装備されていった。
「(なんぞこれ?こんな機能初めてみるぞ……)」
大鎧を装備した状態になったエイルは、脚や肩、腕などの関節回りの稼働確認を行う。エイルの身体に合わせて【自動サイズ調整】されたのだろう。違和感は無く、使っていた革鎧と同程度に動きやすい物だった。そして背後を確かめてみると、大鎧の後ろに大薙刀と大弓が浮いている。
大弓を意識して手繰り寄せると手の中に収まった。試しに通路の奥へと魔矢を撃ってみる。 魔矢は見える範囲の突き当りの壁に刺さって消えた。属性魔力を込めて撃つと、火矢になったり氷矢になったりとなかなか面白かった。大弓を背中側に回して手を離すと、勝手にポジションを直して待機する。
大薙刀を持ってみると長柄が金属製になっていて、握りの部位にだけ革等の拵えが巻かれている事に気付いた。とても頑丈そうだ。
魔力を込めて振ってみると、魔力の纏い方に無駄がない気がする。属性を込めてみても綺麗に乗りやすい。錬気を込めて素振りをしてみると、切断力を高める刃先に沿った集中タイプがいつも以上に安定する。
やはり、魔力や気の通りが良い素材なのだろう。大弓と大薙刀、どちらも満足できそうだ。
腰に佩いてある二刀の確認もしてみる。大薙刀と同じ素材なのか使い易いとは感じるが、今は妖刀の相棒達が気になっている。
試しに腰から打刀を鞘ごと外して背に回してみると、ふわりと背後に待機した。脇差も同様に背後に待機させる事が出来た。
「(なんだろう?面白いし便利だけど、どういう仕組みなんだ?)」
実験とばかりに龍閃を背に回してみるが、こちらは浮遊感が来ない。紅雀と青墨鴉を背に回すと、こちらは浮いて背後に待機した。
龍閃と紅雀達の違いは何か。おそらく調伏が完了しているかどうかだ。
「(この大鎧が調伏した妖刀を従えているのか?)」
だとしたら龍閃や魂祓を調伏したら、そいつらも背後に従えて歩けるということか。
エイルが背後の武器達を眺めて位置を変えたいなどと考えていると、その通りに位置が変わっていく。手が届く程度の範囲なら自在に動かせるようだった。調伏した紅雀と青墨鴉は手の届く範囲に浮いているので、腰には龍閃を横吊るしにしておいた。打刀や脇差のように差しておくと、刃が長すぎて歩き辛いのだ。
試着を楽んでいると通路の奥から鬼蜘蛛がやって来たので、遠間から魔弓で撃ち抜く。鬼蜘蛛の胸板に大穴を開けてみせた。次に通路に来た鬼蜘蛛は奥に居るうちに近寄って行って龍閃の餌になってもらう。
龍閃は横吊るしにしてみたのは良いが、刃渡りがありすぎて抜きにくかった。
これなら異空間収納から直接抜き身で取り出した方が良さそうだな、と反省した。
三人が起きるまで、新しい玩具で遊ぶ大きなお友達がはしゃいでいたのだった。
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