第4章 第14話 ヴァルナガルナの迷宮通い(4) 大鎧戦
迷宮五十九階層。
正規ルートに沿って進んでいくと錫杖を突いて歩くローブ姿が目に入った。
「生命感知に引っ掛かりませんね。魔力感知にはビシビシ感じます」
アーシェスが眉根を寄せて感知した感想を述べる。
「リッチってやつじゃないでしょうか?魔法に長けたアンデッドの」
ラクスレーヴェも感知して確認してみたのか、心当たりを挙げる。フードの奥から覗く顔の下半分は、確かに人の頭骨のように見えた。
「リッチだと思って魔法に警戒しよう。俺とマツリが魔法の相剋狙いで対処して、その間にラクスレーヴェとアーシェスが倒す。やれるか?」
二人は若干不満そうな顔を見せつつ頷いた。
「どうした?逆をやりたかったか?」
エイルが二人の様子をみて訊ねてみる。
「いえ、豚鬼の軍勢に突っ込む前にはラクスとアーシェって愛称呼びだったのに元に戻ったなと」
アーシェスの愛称などスがなくなるだけで殆どそのままなのだが、それでも不満らしい。ラクスレーヴェの方も同じ理由のようだ。
「アーシェはラクスと呼んでくれますが、先生はレーヴェでもラクスでも好きな方で呼んでくれれば良いのになと思ってますが」
「じゃぁ、ラクスとアーシェは倒す方を頼む」
言い直すと二人は満足そうに頷いてリッチに向かって行った。マツリとエイルもその後に続く。
リッチが錫杖を掲げて【炎壁】を生み出す。その【炎壁】は通路一杯の大きさとなって、エイル達に向けて移動をはじめる。
エイルがその【炎壁】に【濁流】を放ち相剋する。濁流を浴びて動きが悪くなったリッチに、ラクスレーヴェが【岩槍】を撃ち込み相生して威力を高める。【岩槍】はリッチの左肩を喰い破り、左腕が落ちた。アーシェスがラクスレーヴェの打ち出した【岩槍】から更に【鉄杭】を生じさせて相生し、リッチの肩口から鉄杭が浸食していく。
リッチは堪らず鉄杭から離れる事で逃れながら、【水牢】でラクスレーヴェとアーシェスを捕らえ溺死させようとするのを、マツリの【土壁】とエイルの【土壁】が【水牢】を相剋して押し返す。リッチが再び錫杖を振ろうとするが、その動作よりもラクスレーヴェとアーシェスがリッチに迫り剣を振るう方が速かった。ラクスレーヴェにリッチは首を切断され、アーシェスがの刺突が胸骨の内側に潜り込む。
リッチは膝から崩れ落ち、動かなくなった。
「よし、良い感じに連携出来てたよ。相剋と相生の判断の早さも良いし、魔法の構築速度の訓練が効いてるね」
エイルが二人に労いの言葉をかける。実際、三年間かけて鍛えた以上に伸びている気がする。きっと、努力する才能に恵まれたのだろう。
四十九階層の敵はリッチが単体でたまに遭遇する程度だった。正規ルート上で都合三回の戦闘を経てから下り階段を見つけ、降りていく。
迷宮六十階層。
階段を下り終わって程なく、違和感を感じた。急激に高まった魔力と霊力、言い換えれば錬気が発生してすぐに消えたのだ。
「……。なんだ?他の探索者がいるのか?」
エイルは妙な胸騒ぎを感じつつ、周囲の気配を探っていく。
正規ルート上には気配を感じないようなので、周囲を警戒しつつ進んでいく。道中、鬼蜘蛛の死骸が残っていた。
「これは殺すだけ殺して、部位の回収もしていないように見えるな」
エイルの検分にマツリ達も頷く。
「殺傷は矢傷と刀傷かな……」
何かに殺されてそのまま放置。覚えのある状況だった。
「折角だ、死骸は回収しといてくれ。それよりマツリ、この状況に既視感を感じるんだが」
マツリは鬼蜘蛛の死骸を異空間収納に片付けて言う。
「奇遇だね。私もだよ。鉱山迷宮の時の事だよね?」
マツリの指摘に首肯する。
「鋭い刃物を使うネームド個体かな。」
マツリがポツリと零すと、ラクスレーヴェとアーシェスは会話の流れの意味を理解した。
その後も正規ルート上に転がっている鬼蜘蛛の死骸を回収しながら、下り階段を目指す。いよいよ下り階段部屋が見えてくるはず という所で、横合いから強烈な殺気を浴びせられた。
「ッ!?」
十字路の進行方向からみて右側から噴き付ける殺気、あるいは剣気や鬼気と呼ばれるもの。暗がりから現れたのは、東方諸島群独特の意匠の大鎧であった。朱殷に染まったその姿は、文字通り返り血を浴び続けた結果にみえる。
大鎧の背後には大弓と大薙刀が浮いており、腰には二本差しの打刀と脇差が見て取れる。その兜の前立には鬼人族の刃角のような角が二本立っている。
兜と鬼面の面頬の隙間からは、青白く揺らめく光が漏れている。明らかに異質だった。
大鎧は遠間からエイル達を眺めると、背後に控えていた大弓を手に取り魔力で出来た矢を撃ち放ってきた。
「魔弓ッ!?」
エイルは咄嗟に紅雀の抜き打ちで魔力矢を散らしてみせた。
大鎧は続けざまに次々と魔力矢を射ってくるが、エイルは先頭に立って魔力矢を散らしながら距離を詰めて行く。すると大鎧は大弓を背後に戻しつつ、大薙刀を手にして距離を詰めて来はじめた。
エイルの背後からラクスレーヴェとアーシェスが五行相性を転用した連鎖術式で牽制を放つが大薙刀に練り込まれた錬気がそれを斬り散らす。エイルの隣に立つマツリが大身槍の長槍を構えて迎え撃つ。大鎧の持つ大薙刀は刀よりリーチがあるが、マツリの構える大身槍の長槍の方がリーチで分ある。大薙刀の間合いの外から、刺突に薙ぎも入れて攻めたてる。
大鎧は魔法の牽制と大身槍を捌きながらも尚、隙を晒さない。
エイルは紅雀を左手に持ち替え右手に龍閃を手にして、仲間の射線の外に回りながら距離を詰めていく。
すると大鎧は牽制に放たれていた魔法を無視し直撃されるままにして大薙刀でエイルを薙ぎ払う。紅雀の赤い刃で大薙刀を受けるが重い。龍閃を持った右腕を紅雀の峰に添えて両腕を使った受け流しを敢行するが、エイルは弾き飛ばされ壁に激突する。大鎧は、エイルを弾いた勢いでマツリに無防備な側面を晒している。マツリの大身槍が突き込まれるが、大袖に弾かれ脇下の空隙への突き込みが成功しない。左肩の大袖を突かれた大鎧はマツリに向き直り、大薙刀を手に距離を詰めて来る。徐々に間合いを浸食されていき、大身槍のリーチの長さが不利となると直ぐに手放し異空間収納に収め、打刀を撃ち放つ。
マツリの打刀は大薙刀の刃を弾いてみせた。一瞬姿勢の崩れた大鎧に、背後からエイルが襲い掛かる。エイルは既に大鎧の薙刀の間合いの内に潜り込み、龍閃を振りかぶっている。大鎧は咄嗟に大薙刀を手放すと打刀を抜き放ってそれを受ける。
大鎧はエイルとマツリの二人掛かりで前後を挟んでなお、決定打の隙を見せず立ち回る。
エイルの放った斬り下ろしを迎撃に動いた瞬間を狙い、マツリが打刀に体重を乗せた刺突を見舞うが、いつの間に抜いたのか、逆手に持った脇差で捌かれていた。
「……冗談キツイって」
マツリが必殺を期しての攻撃が、背後を振り返らず片手間のように捌かれてしまった。さすがのマツリにも嫌な汗が流れる。ラクスレーヴェとアーシェスに射線を譲り、横合いから隙を作らんと攻め続ける。
ラクスレーヴェとアーシェスの五行相生の中で放たれて【樹根】が面頬と垂の隙間にその根を捻じり込んだ。それを見て取ったエイルが【火葬】を重ねて相生する。面頬と垂の隙間に入りこんだ根に沿い、その大鎧の内側に【火葬】が届いた。
大鎧はそれを嫌がり大きく跳ねると、脇差と打刀から手を離し、両手で火の点いた【樹根】を抜き取ろうと暴れる。
「好機ッ!」
マツリが大鎧に掴み掛かり、その腕の動きを阻害するため【樹縛】と【樹根】を重ねて行く。苦しむ様子を見せる大鎧にエイルが迫る。
紅雀の赤い刃を突き込み面頬の留め具を弾いて広げ、逆手に持った龍閃を面頬がズレて開いた空間に刺し、大鎧の胴体の中へと切先を突き下ろして行く。
龍閃が狂喜するのを感じながら、紅雀も脇の下の装甲の薄い箇所に刺し込もうとするが弾かれる。すぐに狙いを切り替え、紅雀も面頬の浮いた隙間に捩じりこみ、二つの刃に火行の錬気を流し込んで大鎧を内側から焼いていく。
暴れていた大鎧も、次第に動きが緩慢になり、ついには倒れた。
ブクマと評価ありがとうございます!
あと誤字報告を下さった方もありがとうございました!
評価、ブックマーク登録、いいね などの応援をお願いします。
モチベーションや継続力に直結しますので、何卒よろしくお願いいたします。




