第4章 第13話 ヴァルナガルナの迷宮通い(3)
迷宮五十七階層。
下り階段を降りてきて五十七階層に到着した。五十六階層がアレだったのでドキドキしたが、今度は普通の迷路型フロアだったようだ。
何時間戦っていたのか分からないが、気が昂りすぎていた。降りた先で少し休憩させてもらう。
「マツリが何で最初からあの妖刀勧めなかったのか何となく分かった。はじめから使ってたら頭馬鹿になるわ」
エイルは座り込んで果実水を飲みながらいう。
「え?いや、凄い武器は途中から投入する方が燃えるでしょ?」
「え?そんな理由?」
ぐったりと肩を落としてしばし呆ける。
「気が昂りすぎてて興奮が収まらなかったんだけど。急激に落ち着いてきたわ」
「なんかごめんね?」
階段を降りた先でしばし休憩し、攻略を再開する。
正規ルート上を進んでいくと二本角を持つ大型の魔馬、バイコーンがいた。全体的にストレイガル達の上位互換なのだが、迷宮の魔物は基本的に外に連れ出せない。ダンジョン内の魔素によって生かされ、ダンジョン内で生きて死ぬ魂魄の円環があるからだ。無理にダンジョンから出そうとすると魔素不足になって死ぬ。
死んだ魔物の死骸は持って帰れるが、迷宮内に放置しておくと迷宮に吸収され、新しい命として再誕する。生体部分(死骸)を持ち帰られた場合、魂魄だけは迷宮内で輪廻して、迷宮の提供する魔素や霊素を材料に再構築される。
ダンジョンから外に出られる魔物は、ダンジョン外でも活動可能な完全に受肉した魔物だけである。もちろんダンジョンの外で生殖等で繁殖している魔物もいる。小鬼や豚鬼など駆け出し探索者がお世話になる好敵手達なんかがそうだ。
そんな訳で、バイコーン捕獲したいと思っても無理なのでさっくり倒す事にする。バイコーンに駆け寄り迎撃のために二本角を振り回して来たのを躱しつつ、龍閃の月白の刃で首を刎ねた。龍閃の興奮を感じるが、さっさと異空間収納に収めた。龍閃からは満足げな歓喜が伝わってきていたので、十分御馳走だったのだろう。
「妖刀の皆さんの調伏のためにしばらく強めの個体は貰うね」
特に反対意見もなかったので、その方針で進んでいく。バイコーンは見つけ次第首を刎ねる。正規ルートからは外れないように注意する。大事なことである。
迷宮五十八階層。
五十八階層に入り正規ルートを進んでいると、大部屋に東方諸島群で鬼と呼ばれる、負の感情が形を成した荒魂が巣食っていた。
以前ローエンディアの東迷宮でみた鬼蜘蛛とは違い、下半身も人型をしていて腰蓑に毛皮を巻いたような姿をしている。赤い肌、筋骨隆々とした体躯、髪の生え際辺りから伸びる太くて頑丈そうな角。角の数は個体に寄って違ったが、一本~二本が多く見える。
体躯は小さな物で二メル前後から三メル前後が多くみられた。鬼達は皆、短槍程の長さの全体が黒鉄合金で出来てそうな両手持ちの戦棍を手にしている。
「喰い甲斐がありそうだ、やらせてくれ」
エイルが一歩前に前に出ると、鬼達が胡乱な目を向けて来る。エイルは近場の一体に踊り掛かり、紅雀と青墨鴉で攻撃を散らし、意識が中段から下段に集中した所でパッと二刀を手放し、回転しながら取り出した大太刀龍閃の月白の刃を縦に斬り下ろすと、最初の鬼の頭部が縦に二つに割れて絶命した。
振り終わった龍閃は即座に収納にしまい、空中に滞空していた紅雀と青墨鴉を再び掴み、次の獲物へと向かう。
「曲芸じみてきましたね?」
ラクスレーヴェがエイルの戦いをそう評した。
「紅雀の魔力回復が効いてるんだろうね。継戦能力優先で押さえてた動きが出来て、楽しそう」
マツリが暴れ回るエイルをにこにこと眺めつつそう返した。
大部屋に居た鬼を龍閃と紅雀で食い散らかした本人は満足げに龍閃を眺める。
「もうすこしか?」
ラクスレーヴェとアーシェス、マツリが散らばった死骸の回収をすると、ルートに従い更に進んでいく。再び先程の大広間に匹敵する拓けた部屋に出た。
三メル級の鬼が八体が立ち、四メルに届くほどの巨体の鬼が胡坐をかいていた。
「三人は右側の四体を押さえておいて。倒しちゃっても良いけど。俺は左側四体と胡坐かいてる偉そうな奴に行く」
そう宣言して駆け出す。一体目の鬼が大上段から戦棍を振り下ろして来る。それを半身を捻って躱すと、通り抜け様に龍閃を右斬り上げで振って脇腹から心臓までを断つ。
二体目は左薙ぎで戦棍を振って来たが上体を低くし地を這うような踏み込みで躱し、頭上を戦棍が抜けた事を感じると跳ね上るように跳躍して斬り落しでその顔面を二つに割った。
三体目と四体目は連携して上下に狙いを分散した横薙ぎをしてきたが、エイルは間合いを見切って鼻先を掠めるような至近距離の後退で空ぶらせると、態勢を立て直される前に三体目の脇腹から心臓までを断ち、四体目は心臓に刺突を突き込んだ。
龍閃からまだ喰わせろとばかりに昂りを感じるまま、立ち上がった巨体の鬼に迫る。巨体の鬼は戦棍を細かく突き、振り、大きな隙を見せないように立ち回って見せる。
エイルは龍閃を一旦収納すると紅雀と青墨鴉を握り、巨体の下半身、筋肉の筋を断ちに掛かる。巨体の鬼は浅く付けられた傷など気にも留めず、一気呵成にエイルを攻めたてていた。
夫婦二刀で魔力と体力が回復したのを見計らい、巨体鬼の踏み込んだ前脚の膝を踏み台にして飛び上がる。空中で紅雀と青墨鴉を手放して縦回転を加えた斬り下ろしを龍閃で撃ち込んだ。巨体鬼は咄嗟にガードをしようとしたが間に合わず、その顔面から心臓に掛けてを断たれて倒れた。
龍閃から歓喜が伝わって来るが、直ぐに三人への応援に入り、背後から龍閃の横薙ぎで二頭の首を刎ねた。
その階層の正規ルート上に陣取っていた敵は、これで全てだった。
一行は正規ルートを辿って行くと、程なくして下り階段を見つけ、その先に進んで行った。
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