第4章 第11話 ヴァルナガルナの迷宮通い(1)
四十五階層のボス部屋の奥、下り階段の部屋に行く。このダンジョンも五階層ごとに帰還の転移陣があるようだ。
「やっぱり最初の鉱山迷宮が一番性格悪かったんじゃない?」
マツリがエイルに振り返って言う。
「んー、性格が悪かったかは分からないが、ひたすら面倒だったな。帰還陣が五十階層まで行かないとなかったんだっけ?」
エイルが首を捻りながら答える。
「えぇ……。五十階層まで一気に潜らないと出るにも苦労するって事ですよね?やだなぁ」
アーシェスとラクスレーヴェからすれば、聞くだけでげんなりする話である。
「よし、今日はここで切り上げて帰るか。探索階層記録プレートを収納から出して持っておけよ。じゃないと記録されないからね」
三人が異空間収納から探索階層記録プレートを取り出して手にしたのを確認すると、帰還陣の上に立たせて魔力を流し、転移する。
ダンジョン内で【コンテナ・ハウス】を迂闊に出せないなら、街に戻って宿で寝れば良いじゃない。である。探索階層記録プレートが有効な迷宮都市群に戻って来たと実感できるこの利便性。やはり探索者をするなら迷宮都市群だなと改めてエイルは思った。
◆◆◆◆
今日は昨日入らなかった聖ペトログリフ王国料理のお店に入ってみた。取れる食材が違うせいか味が本場とちょっと違う気がする。とはいえ、ユーラビスタ帝国内の食事だと思えば十分アリと言える味だった。宿の傍で二軒もそれなりの店を見付けられれば、しばらくは食生活には困らないだろう。
翌朝、探索者ギルドに顔を出して依頼ボードを眺めてみる。近場で討伐に困っているような魔物は今はないようだ。尋ね人のコーナーに「エイル・カンナギ」が掲示されていて噴き出しかけた。ポーカーフェイスで宿に戻り、朝食を食べて迷宮攻略を再開する
迷宮の入口にある転移陣にのり、探索階層記録プレートを出して魔力を通すと、四十五階層の転移陣に移動した。
「よし、ちゃんと転移できたな」
エイルが満足そうに頷く。
「転移できない事もあるので?」
ラクスレーヴェが訊く。
「偽物のプレートを掴まされていた場合とか、戻りの時にプレートに記録し損ねてたりとか」
エイルの回答になるほど、と納得する。
「では、四十六階層に降りて再開してみよう」
迷宮四十六階層~五十階層。
正規ルートは敵が全然いなかった。それなりに力のあるパーティが先行しているようだ。
迷宮五十階層、ボス戦。
いなかった。
迷宮五十一階層。
五十一階層からは敵がいた。先行していたパーティは五十階層で帰還していたようだ。
敵は前方に猛ダッシュして襲ってくる蟹っぽい何か。ヤドカリのようにも見えるが、殻は自前の甲殻しか着いていない。やはり蟹っぽい何かであろう。
走り寄って来るところに皆で大身槍を取り出して槍衾を作ると、刺さって死ぬ。頭は良くないようだ。とはいえ、以前なら甲殻に穂先が弾かれていた気がするのだが。
迷宮五十二階層。
黒鉄合金製と思われる二メル半程の大きさのゴーレムが相手だった。鉱山迷宮の時には刃物が通らず鈍器で中の核を破壊する方法を取っていた。今回は大身槍を胸に突き入れると貫通した。その一撃で核を破壊してゴーレムが止まったので、これは成長と判断して良さそうだった。
「凄いな、鉱山迷宮の時鈍器でしか倒せなかったのに」
エイルは想像以上の手応えを感じていた。
黒鉄合金製ゴーレムが余りに簡単に倒せるので楽しくなってしまい、寄り道しながら狩っている内に現在位置が分からなくなった。正規ルートに戻るまで時間を要した。
迷宮五十三階層。
黒鉄合金製と思われる二メル程の大きさのリビングメイルが主体で、偶に頭一個分くらい背の高い指揮官個体と思われる天銀合金製のリビングメイルが混ざっていた。
これも錬気を纏った大身槍で一撃で倒せた。マツリとエイルは兎も角、ラクスレーヴェとアーシェスは黒鉄合金製は一撃で倒していたが、天銀合金製はまだキツイようだ。
天銀合金製に刃が通らないなら「鈍器で胸を殴れ」とアドバイスしておいた。実践して倒せていたから、やはり適切な攻略法である事が確認された。
「天銀合金製の指揮官個体もっと狩りたい……けど迷うのは駄目だよね、うん」
寄り道して正規ルートを見失うと面倒だと学習したので、真っ直ぐ正規ルートを突破した。
迷宮五十四階層。
下級悪魔族が現れた。硬い外骨格は持たず、牡山羊の頭部と下半身、上半身は筋肉質な裸の男である。武器に巨大な鉈の様な物を持っている。
下級悪魔族は遠間から射程に入るなり【炎槍】を幾つも飛ばして来た。四人はそれぞれ武器に水行の魔力を与えて炎を掻き消しつつ距離を詰める。至近距離にまで接近した所で【岩壁】で隠れようとして来たが、【樹根】を【岩壁】に打ち込む事で木行の魔力が土行の魔力を崩し、【岩壁】の崩壊で下級悪魔族の姿が確認できると錬気を纏った槍が刺し込まれ、その心臓を貫いた。
下級悪魔族はその後も何匹か遭遇したが、ラクスレーヴェとアーシェスともに一人でも倒せる事が確認できた。《黒絹》のお嬢様方の戦闘力は並の騎士では相手にならない高みに行ってしまった。
迷宮五十五階層。
身長八十セル程の操り人形のようなゴーレムが現れた。下手くそな操り人形のダンスの如く不規則に跳ね回り、唐突に鋭い動きになって鋭く長い爪で首を狩りに飛んでくる。
動きを読むのが難しく攻撃が当たり難かったが、意地でも首を狩りに飛んでくる。その迎撃に集中していれば剣か刀で苦労せず倒せる事に気が付いた。
動かなくなったゴーレムを観察すると、爪と胸部は神鉄鋼合金製だったようだ。これはラクスレーヴェとアーシェスは鈍器を持たせておいた方が良さそうである。
その後も不細工な踊りで跳ねまわって首を狩りに来たが、ラクスレーヴェとアーシェスでも鈍器の一撃で仕留められていた。
迷宮五十五階層、ボス戦。
だだっ広いワンルームの階層、奥に体高十メルありそうな巨大なゴーレム。
「おっと既視感」
「奇遇だね。私も既視感」
エイルとマツリが遠い目になる。
二人はラクスレーヴェとアーシェスに攻略方法を伝えると、四人で壁際に城壁を作り上げた。以前からの改善点として、城壁はYの字型にした。Yの字の凹みの所に誘導すれば、両サイドからの攻撃が通し易くなる、という計画だった。完成するとまずは魔力の補給である。城壁の奥で瞑想睡眠を取り、体力と魔力を回復させる。
念のため二交代でしっかり回復させると、エイルが囮となって巨大ゴーレムを釣り出した。
鉱山迷宮の時は首の関節の隙間を無理矢理に広げて、核狙いで槍を叩き込んだ。ここまでの経過からエイルやマツリの攻撃が今度はもっと簡単に通るのではないかと考えている。
何しろ天銀合金製のリビングメイルや神鉄鋼合金製の小型ゴーレムにも刃が通ったのだから。
釣り出したゴーレムがYの字の間に挟まり、両サイドからの攻撃が始まった。
エイルも急いで城壁に登って攻撃を開始する。金行の魔力の塊のようなゴーレムに、火行の魔力を込めた大身槍を突き込む。
手応えに抵抗を感じるものの、ズブズブと穂先が埋まっていく。マツリの方はいつの間にか首筋に張り付き、前回同様に首の関節の隙間から槍を突き入れている。槍の埋まっている辺りが赤熱しているので、マツリも火行の魔力で相剋しようとしているのだろう。
城壁が破壊される前に、巨大ゴーレムは糸が切れたように膝から崩れ落ちた。
「おし、やっぱ俺達強くなってるよな?」
エイルがマツリに笑顔を向けると、マツリも笑顔で頷いた。
「うん!判り易い比較対象で逆に良かったかもね!」
崩れ落ちたゴーレムはマツリが回収し、のんびりと下り階段部屋に向かった。
◆◆◆◆
迷宮五十五階層、下り階段部屋。
下り階段部屋に着くと食事休憩にする。グリフローゼで買った屋台飯だった。
「アーシェスもラクスレーヴェも強くなったよ。今ならガーラッド様と戦っても良い線いくんじゃないか?」
二人の強さはもうあの時のエイルを越えている気がするのだ。
「そうですかね?」
アーシェスがピンと来ていない様子で聞き返す。
「ガーラッド様と戦った時の俺より、今の君らの方が強いと思うよ」
実感はもうしばらく後になるかもしれないが、彼女達が強くなって来ていることは間違いなかった。
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