第4章 第10話 城塞都市ヴァルナガルナ
ユーラビスタ帝国東部の城塞都市ヴァルナガルナは、その内にダンジョンを抱えた都市である。元々ダンジョンからの魔物の氾濫防止のために壁で囲い、兵を詰めさせて監視する流れで出来上がった城塞都市であり、都市外部からの守りだけでなく、内側へ向けての防御設備も整っている。
そして、この街が迷宮都市群と呼ばれる地域の西側がはじまる所である。
「迷宮都市群!お宝箱!階層スキップ!」
余程楽しみにしていたのだろう、マツリの御機嫌度はうなぎ登りである。直ぐにでもダンジョン区画に行きたそうにしているが、まずは宿を取り情報を得るためにも探索者ギルドが先である。
探索者ギルドの法則、短い列は職員が男性である。カウンターに立つのが女性だけの場合を除き、この法則は大体合っている。どこのギルドでも利用者の性向は変わらないらしい。
「ギルドからのお勧めの宿を知りたい。ダンジョンに潜りたいので、出来るだけダンジョンかギルドに近いところが良い」
手短に宿関連の話を聞く。二番手くらいまでの情報が聞ければひとまず達成だ。
次に、ダンジョンのマップと探索階層記録プレートを四枚購入する。ここでも金貨が何枚も飛んでいくが、ギルドの公式なら信用度が高い。最後に魔道具など探索者御用達のお店を教えてもらうと、チップを渡してギルドから出て行く。
宿に関してはギルドの紹介の二番手の宿で四人部屋が取れた。ストレイガル達はギルドの厩舎に預ける。魔馬は魔馬に慣れているギルドの厩舎が確実だ。宿屋のスタッフに怪我でもされたら問題になってしまう。
次に、魔道具店に向かう。ここでマナ・ポーションやマナ・スモーク、キュア・ポーションなどの消耗品を買い増ししておく。【疲労回復】効果のあるペンダントが売っていたので、マツリとエイルの分を購入しておいた。さすがにラクスレーヴェとアーシェスが使っている甲冑衣装程に高性能ではないだろうが、その半分くらいでも効果があればありがたい。体力と魔力はどれだけあっても困らないし、むしろ有り余るくらいの方が良いのだ。
用事を済ませると、ダンジョンの入口の場所を確認しておいた。その後は食事処の捜索に入る。
ここ最近、食事処の食事が美味しくない事が続いているため、時間が出来た今は外観などからよくよく吟味する。「聖ペトログリフ王国料理」の看板を下げている所か、「キール王国料理」の店かで悩む。
「キール王国料理ってどんな風ですか?」
アーシェスが訊いてきたので、エイルが思い出しながら答える。
「スパイスが効いたスープ料理と、そのスープに付けて食べるパンみたいなのが定番だったと思います」
「ではキール料理に行ってみませんか?」
アーシェスが食べた事のない国の料理の方に興味を示したので、キール料理の店に入った。
キール料理はキール地方とその近隣の国の料理を出す多国籍料理の店が多い。ここもそんな多国籍料理の店だった。四人で別々のスープを選び、一口ずつ味見させて貰いながら舌鼓を打つ。どれが好みだ、あっちにしておけばよかった、などと言いつつ、それぞれが完食したあたり、ちゃんと美味しいお店だった。ヴァルナガルナに居る間はよく食べに来るかもしれない。
初日の予定と食事処の開拓が済んだので、宿に戻る。エイルも最近では四人部屋をとって寝るのに違和感が無くなって来た。それはラクスレーヴェとアーシェスの見方が「貴族の未婚女子」から「探索仲間」に意識が変わって来たからだろう。油断すると抱いて寝ていた筈の枕が誰かに代わっているが、前後から挟まれる等の寝苦しい程ミッチリ詰まる事もなくなったので、気にしないことにした。
◆◆◆◆
翌朝、宿屋の一階で朝食をとってみる。気分的に半分賭けのような気持ちだったが、メニューはパンとサラダとフルーツ、豚系の何かの肉を焼いた物で、そこそこ普通に食べれる味だった。
これなら次からも朝飯はここで食べられそうだ。
食事が終わると迷宮区に移動して何時もの入場記録を付け、ここのダンジョンへの初潜入となる。
迷宮第一階層~四十階層。
他の探索者が居てほとんど魔物がいなかったのでひたすら走って通り過ぎた。
迷宮四十一階層。
ようやくパラパラと魔物が現れ始めた。敵はガーゴイル等の硬い動く彫像系の魔法生物だった。以前なら鈍器で殴り殺していたところだが、試しに斬ってみたら斬れてしまった。ここのガーゴイルが柔らかいのか、それとも錬気の練度が上ったお陰なのか、そこは分からなかったが。マツリは当然としてラクスレーヴェとアーシェスも斬っていた。弟子達の成長が素晴らしい。
迷宮四十二階層。
階層を下る最短の正規ルートだけ敵が居なかった。先行パーティの気配あり。
迷宮四十三階層。
先行していたパーティの戦闘中に追い付いたので、挨拶だけして端っこを歩いて通り抜けていく。今回は蜘蛛糸に引っ掛かるような姿はみせずに済んだ。あれは思い出すとまだ恥ずかしい。
正規ルート上に居た魔物(直立する鰐?)だけ倒して行く。こういう一見すると人権を持ってる種族風(この場合リザードマン)なのは判断に困る。裸で涎を流して襲ってくるから魔物なのだろう。魔物じゃなかったとしてもそんな行動する者はやっちゃっても合法だと思う。
迷宮四十四階層。
直立した蟻の姿の蟻人間が集団で行動していた。戦闘になると全部が襲ってきそうである。正規ルートを外れて遠回りしながら移動してみたら、蟻人間の集団を上手い事避けられた。
迷宮四十五階層。
体高百二十セル程のヒヨコが歩いていた。黄色いふわっとした感じで、丸っこくて、ヒヨコだね?という姿だ。
「え、魔物?襲ってくる?襲ってこないなら放置で良いよね?」
女子達の戦いたくないオーラに押されてエイルが単身で近付いてみる。……。大分近いが襲われない。
「触らなきゃ襲われないっぽい?」
女子達を呼んで端っこ通らせてもらって戦闘を回避した。ぴよぴよ鳴くのがどうしても気になるらしく触りたそうにしていたが、「襲ってきたら責任持って殺せよ?」と言ったら泣く泣く諦めた模様。
迷宮四十五階層、ボス戦。
体高二メル程の白い虎が居た。本来は黒の模様になっている所が青紫色で、全身からビリビリと放電している。
部屋の奥の方で顔をこちらを向け、ジッと見られている。
「たしか雷虎って虎だ。雷纏っててビリビリするから厄介だったはず」
見た目通りの情報しか出て来なかった。まぁ、雷を使うのが分かっていれば何とかやり様はあるかと、全体が金属で手来ている手投げ槍を抱えて走る。雷を撃ってきそうだな、というところで手投げ槍を斜め前方に放り投げる。雷は手投げ槍を追いかけて行き、そこに着弾して雷の衝撃を逃していく。
手投げ槍を三本程投げたところで懐まで潜り込むのに成功し、その身体に刺突武器を突き立てていく。首周辺に大身槍が五本ほど刺さった状態でようやく倒れ、死亡を確認した。
避雷針代わりに投げていた槍を【清浄】して回収する。煤けた感じが綺麗にとれて良かった。
投稿してから100話目だと気付きました。
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