第1章 第10話 ナハートの街と探索者ギルド(2)
翌朝、食堂に顔を出したエイルは給仕の娘に声を掛け、肉を卸す代わりにシチューや煮込み肉、スープなどを大量に用意してくれないかと相談していた。
「使う大鍋の用意をして頂くのと、お肉は切り分けた状態で卸して貰えるのなら可能ですよ」
エイルは頷くと、今日の予定を定めた。
「了解、大鍋と解体処理が終わったらまた声かけるよ」
「はーい、お待ちしておりまーす!」
「大鍋は鍛冶屋かな?どの辺りにあるか分かる?」
「東門の外壁沿いにあったはずです」
エイルは給仕の娘に礼を言って、マツリと東門方面へと出かけて行った。
「ということで、先ずは大鍋を買いに鍛冶屋、その後に探索者ギルドに行って肉の解体を依頼かな」
「了解」
東門の城壁沿いの鍛冶屋は無事見つかり、大鍋と中鍋の在庫を買い占めた。その後南門方面に戻り、探索者ギルドへ。まだサイアリスの使いは顔を出していないらしい。
職員に狩ってきた獲物の買取査定と、討伐報酬のある物は討伐実績として昇格査定をして貰えるように頼み、職員と一緒にギルド裏手の解体所へ。
「西の海岸のあたりからこの街までの間に狩った獲物全部なんで、結構量がある。一番広いところ貸してくれ」
使われていない大物解体用のエリアに移動し、そこにマツリの異空間収納から種類別に吐き出していく。
小鬼や犬鬼など食用に適さない魔物や素材価値の高い大蛇、甲殻類などを積み上げ、豚鬼や大猪、大鹿、突刺鳥など食用に好まれる魔物を並べて出していく。
「っと、置く場所ないからこの辺りで切り上げるね」
「……助かります。解体作業の依頼出さなきゃ……」
職員は苦笑いし、解体長はカラカラと笑っている。
「最優先で精肉を頼みたい。他の素材は全部売却で良い。」
「承知しました。討伐関連の査定と買取金額の査定が済んだら、宿に見積をお届けしますね」
探索者ギルドでの用事をすませると、二人は宿に帰った。エイルの部屋で探索者や一般常識などのレクチャーを兼ねた雑談に興じる。マツリが聞きたいことを聞き、エイルが応えるパターンが多い。
「プレートの段階は、木製・鉄製・黒鉄製・銀製・黄金製と上がっていって、特級になると魔法金属製が使われると?」
「そういう事だな。下級が木製、中級が鉄製、上級下位で黒鉄製、上級中位で銀製、上級上位で黄金製になる。その上が特級で魔法金属のプレートが使われる。」
「探索者の大半が木製で、討伐依頼が出来る人が鉄製以降だったね。覚えた。魔法金属の方は?エイルは日緋色金級だったよね?」
「天銀、神鉄鋼、日緋色金、神代黄金の順で上がる。
天銀からは一般的に規格外とか人外とか、そんな呼ばれ方する連中ばかりになるな。
そういうのは現役なら大体迷宮都市群にいて、引退した奴はどこかの国に雇われたり、ギルドの幹部になってたりする」
「上級からプレート分けが細かいのはなんで?」
「その辺りから努力だけでは越えられない壁みたいになってくるから、承認欲求煽って目標持たせてるとか聞いたことがある」
「なるほどね~。エイルで日緋色金級か~……」
「あ、俺いま銀級から黄金級くらいだぞ?魔力が全然戻らないし、霊素運用もまだまだだから」
「あれ、そうなの?」
傷付いた魂魄の修復と、全身に身に着けた神話級の魔道具の維持で殆どの魔力が持っていかれている。以前のように魔術を潤沢に使えるような魔力は使えないままだった。また、日緋色金級でありながら銀級から黄金級程度の戦闘力しか出せない状況故に、日緋色金級のプレートを出したくない。
良くも悪くも、『日緋色金級のエイル・カンナギ』は有名過ぎたのだ。
昼過ぎ頃になって、探索者ギルドからの呼び出しが来た。衛兵隊の詰め所からの連絡があったらしい。職員に場所を確認して向かうと、賊討伐の報酬、賞金首の生け捕りの報酬、連れ帰った馬の売却益などの支払いの件だった。
「意外と良い収入になったな」
「昔の偉い人が盗賊は貯金箱って言ってたけどホントだね~」
「貯金箱は人を襲いません」
衛兵詰め所を出て探索者ギルドに行くと、見積が出ていた。
「あ、エ……ラムザさん、見積出来てます、どうぞ」
「今エっていった?見積どうも」
売却益は若干安い気がするが、大量入荷で値崩れと考えれば妥当な気もしたので、そのままサインする。
ギルドポイントの方も大量に加算され、昨日の今日で中級中位に昇格した。
精肉も粗方完了していて、何の肉でどこの部位か分かるように包み紙に記入してくれていた。残りは明日にでも受け取るとして、今日受け取った分で宿屋で食事を作ってもらう事にする。
宿に戻り、給仕の娘に肉と鍋を用意した事を伝え、厨房前に置かせてもらう。
「とりあえず今日の分ね。色々作ってもらえると助かる。調理費用は肉払いってことでお願い」
「承りました!夕ご飯ちょっと豪華にしておきますね!」
給仕の娘の笑顔にほっこりしつつ、部屋に引き上げた。
夕食までの時間は空き時間となったので、エイルとマツリは魔素運用と霊素運用の制御訓練を行って過ごした。霊力や魔力の励起を無意識化するための地味な反復練習だ。
「マツリの魔力励起も大分滑らかで速くなったな。魔力制御は既に銀級じゃないか?術の豊かさまで考慮すれば黄金級から天銀級あたりかもしれん」
「あら、本当?センセイが良いからかしら?」
マツリが照れ隠しに芝居がかった返しをする。
「マツリは体術面も真面目に取り組むし、形になってきている。俺が魔法金属級に戻るより先に、マツリの実力が魔法金属級に仕上がるかもしれんね」
スター・シーカーの知識とエイルの指導はあったが、それを効率よく吸収して真面目に反復練習して身に着けたのは、マツリ自身の努力と才能の結果だ。そして魔術に囚われず、武器術を含め体術面もしっかり身に落とし込んでいっている。オールラウンダーのエイルと接してきた事で、自然と同じ様なスタイルで確立していく。正しく師弟であった。
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