シスターたち
マリーが目を開けると天井が目に入った。
どこかで見たような天井だった。
そして目的地の教会の天井であることをすぐに思い出した。
だが天井は半分以上崩れ落ちていたはずなのだけど。
私死んだのかな?ぼんやりとした頭で考えていたがすぐに状況を思い出した。
「アンナッ!?モネッ!?」
はっとして飛び起きる。
そして両側で二人とも眠っているのに気づいて泣きそうになった。
「よかった、、、」
涙を浮かべたのは一瞬ですぐに
「あんたたち、起きなさい!いつまで寝てるの!?」
とぺちぺちと二人の顔面を両手で叩く。
「うーん、あと10分」とアンナ
「朝ご飯ですかぁ」と気の抜けた声でモネも答える。
さらに強く叩きながら、
「あんたたち何言ってるんですか!私たち大イノシシに襲われて、、」
はっと状況に気づいて
「あれ?生きてる?」
ここでやっと目の前に3人の見慣れない服装のイナバたちに気づいた。
そして女神像のほうを見る。
間違いない、女神レイア像だ。でも、ここは一体どこなのだろう。
こんな新しい教会は見たことがない。
「あなたたち大丈夫?」
と、しゃがみながらトーコが言う。
「あ、あの、あなた達は?」
状況を呑み込めないマりーが質問を質問で返した。
「大きな獣に襲われいてたのを、このイナバ君が倒したのよ」
トーコに指さされてイナバが「ど、どうも」と照れ臭そうに言う。
リンがそっとイナバに耳打ちする。「言葉は通じるみたいね。」
そしてマリーは思い出した。
跳ね飛ばされて気を失う前に見た光景を。
たった一撃で大イノシシを倒すなんてありえない光景を。
そして自分が瀕死の重傷を負ったことも思い出した。
恐る恐る自分のお腹を見ると服が破れていないことに気づいた。
「え?確かに刺されたはずなのに」
そういって着ている服をまくり上げて自分のお腹を見ながらさすったりつねったりした。
「見るな」とトーコはフライパンでイナバの視界をふさぐと
「は、はい」とイナバも顔を赤らめて目を逸らした。
アンナとモネも同じように自分の体を確認していた。
「私たち確かに大けがをしたはずなのに、、」
服を戻すと、はっと気づいたようにマリーはイナバに言った
「あなた様はもしかして女神様の使いでは!?」
そういいながら女神像を見ると女神像が少し光っていた。
いや、正確に言うと女神像の後ろに隠れていたリューシェの光が漏れていた。
「やっぱり、間違いない!傷が治ったのも女神レイアさまのご加護なのですね!」
「い、いや違います。自分はただの農民ですよ」と焦りながらイナバが言う。
「わかりました。なにか理由がおありなのですね、イナバ様。」
あ、この子は人の話をあまり聞かない人だ、とイナバ達は思った。
マリーは女神像のほうに目を向けるとアンナとモネに言った。
「生きていることに感謝して、女神レイア様に祈りを捧げましょう。」
三人とも両手の指を組むと感謝の言葉をマリーがささげた。
「女神レイア様、命あることに感謝いたします。」
そういうと目を閉じてしばらく沈黙した。
少し落ち着いたような雰囲気になったところでリンが話しかけた。
「始めまして、私はリンと言います。あなた達はどうしてあんなところに?」
アンナが答える。
「私はアンナといいます。私たちは教会のものです。月に一度、この教会の掃除をするために訪れるているのです。」
女神像周りがきれいに保たれていたのは彼女たちのおかげらしい。
そしてモネが続けて話す。
「モネといいますぅ。ここまでの道は安全なはずなのですが、普段は絶対出ないような大イノシシが森から出てきたんですぅ」
なにか抜けたような喋り方でVチューバーに向いてるなと女神像の裏で王様が一人うなづいていた。
「森の近くに火の玉みたいのが落ちるのを見かけたので、驚いて飛び出してきたのだと思います。」
とアンナ。
そういえばさっき花火が飛んでいくような音がしていたことをイナバは思い出した。
違うかもしれないしこのことは何も言わないでおこう。
ただ、女神像の裏でサキだけが下を向いて顔面蒼白になっていたのを誰も気づいていないようだった。
まあ、三人とも無事だったので良しとしよう。
「あの、助けていただき本当にありがとうございます。」
とシスター三人組が立ち上がり深々と頭を下げる。
「本当に助かってよかった」とマリーの手を両手を握るリン。
「私はリン、見ての通りのただのエルフです。よろしくね。」と笑いかける。
リンもトーコと同じようにコミュニケーション能力が高い。
元アイドルだったからだろうか。誰とでも仲良くなれる人柄である。
と、自己紹介を聞いてシスターたちも慌てて自己紹介をした。
「私はマリー、女神レイア様の信徒で街の教会に属しています。」
歳は15歳くらいだろうか?少し強気な感じがする。
真っ赤な髪が背中まで伸びている。
この世界では普通の髪色なんだろうか?
きりっとした顔つきできつそうにも見えるが、二人からは慕われているのがわかる。
マリーのスカートを両隣のシスターたちが握っていた。
「私はアンナ、見習いシスターです。」
とてもしっかりした感じの青い髪のショートカットの女の子だ。
「私はモネといいますぅ。同じく見習いの身ですぅ。」
一人だけ話し方が特徴的で、Vチューバーみたいだなとイナバたちは思った。
肩まで伸びたピンク色の髪はウェーブがかかっていた。
「では今度は私たちの紹介ね」
と、リンが話す。
「私たちは人里離れたエルフの村に住んでいたのですが、
外の世界を知りたくて、近隣の村に住む人間の友人たちと旅をしているのです。」
と、それっぽい嘘をペラペラと並べ立てる。
「彼がイナバ。農民だけど強いわよ。」
とイナバを指す。
「さっきの一撃、とてもかっこよかったですっ!」
とマリー。
「偶然ですよ、たまたま急所を突いたのでしょう」
と謙遜するイナバ。
「一瞬だけど見ました、頭を叩きつぶしていました。人間業じゃありません!」
とさらに興奮してマリーが話す。
間髪入れないマリーの話し方に返す言葉がすぐに浮かばなくて焦るイナバ。
すぐにトーコが助け船を出す。
「まぁまぁ、それは置いといて。私はトーコ、料理人です。よろしくね。」
と右手をマリーたちに差し出す。
「ところでこれからどうするのです?掃除は必要なさそうよ?」
と握手をしたまま女神像を左手で指さす。
女神像どころか室内が建てたばかりのように新しく綺麗だった。
「あの、ここはどこの教会なのでしょうか?」
と、マリーの質問にトーコが答える。
「あなた達の目指していた教会ですよ、たぶん。」
そんなはずはない。先月来た時は確かに半壊していた。
だが女神像は確かに同じだ。見間違えるはずがない。
扉に駆け出すマリー。
「マリー様っ?」
アンナとモネが同時に立ち上がり後に続いた。
外に飛び出したマリーは辺りを見回した。
見慣れた草原、間違いない。
振り返ってみると建てたばかりのような教会があった。
先月来たときは壁と屋根が半分崩れて女神像以外は野ざらし状態だった。
半壊した教会しか見てこなかったが、確かに同じ教会だった。
改修する話は聞いていない。
「これは一体どういうこと?先月までは壊れていたのよ」
心配で後からついてきたリンが機転を利かせて嘘をつく。
「私たちがここについた時もこうでしたよ。」
続けてトーコが言う。
「建て直したんじゃないかな。」
「そんな事するはずはない。だってここは、この場所は、、」
とマリーはそう言うと口をつぐんでしまった。
マリーの言葉が気になってトーコが聞き直す
「この場所がどうかしたの?私たちにはよくわからなくて。」
「あ、ごめんなさい。」
マリーはトーコたちがエルフの村から来たことに気づいて話を続けた。
「この場所はドラゴンの通り道で半年ごとにドラゴンが通るのです。ですが建物があると破壊されてしまうのです。」
アンナが続けて話をする
「だけど、女神像があるかぎり放っておくこともできないのでドラゴンがこない時期を見計らって月に一度、手入れをしに来ているのです。」
モネがさらに続ける
「マリー様に付いてお手伝いするのも私たち見習いの仕事なんですぅ」
マリーが真顔になって言う
「早く戻ってこのことを伝えないと。」
それを聞いてリンが驚く。
「え、今から?」
時計がないので時刻がわからないが、日がだいぶ傾いている。
「ええ、今から戻れば明日の早朝には着くと思います。」
「これから暗くなるし危ないよ」
と、トーコが心配する。
「ですが荷物も途中で放り出して逃げてきたので、寝袋もありませんし。」
「それなら心配しなくていいよ。」
と、イナバが話しかける。
「ここの地下に寝室があったのでそこに泊まるといいと思うよ。」
マリーたちが外に飛び出したときに女神像の裏にいたメンバーに地下のことを聞いたのだ。
教会の奥の左右に下り階段があって、それぞれ個室がある通路に繋がっていたのだ。
右側の地下には小さな食堂のような部屋もあり、少しだが食器や水差しのようなものもあった。
「付いてきて」
とイナバが右側の階段にマリーたちを誘導する。
左側の部屋は他のメンバーが隠れて使うそうだ。
電気はないが、通路の壁に等間隔にランプがかけられているおかげで明るかった。
食堂に誘導するとテーブルを指さして言った。
「お腹は空いてない?イモしかないけれど、良ければどうぞ」
と先ほど作ったフライドポテトを大皿の上に山盛りに盛り付けていた。
サキがマジックポケットで保管してくれていたのだ。
皿に盛られたポテトを見て真っ先に駆け出したのはアンナだった。
「見たことない料理、でもいい香りが、、」
恐る恐る一本つまんで、口の中へ。
「おいしい!!」
と、一言いうと次々に口に放り込む。
「手が止まらない!なにこれっ?」
それを見たマリーが
「ちょっと、一人で食べないでよ!」
と言いながら手を出す。
続けてモネも
「私も食べたいですぅぅ」
と、食事に加わった。
そしてあっという間にポテトはなくなってしまった。
それを見てイナバは思った。
自分も初ポテトはそんな感じだったなぁ。
夕食前に食べ過ぎて母に怒られたっけ。と、しみじみと思い出した。
フライドポテトを食べ終わったマリーは二人の見習いに言った。
「モネ、アンナ、明日の朝に立つわよ。」
「はーい。」と、声をそろえて返事をするモネとアンナ。
「あの、明日のことなんですけど。私たちもついて行っていいかな?」
と、リンがマリーたちに向かって話をした。
「私たち、取り合えず町へ行ってみたいの。お金もないので働かないといけなくて。」
「わかったわ。明日出るときに声をかけるわね。」と、マリーが答える。
「部屋は通路の奥に人数分はあるわよ。私たちは手前の部屋にいるので何かあったら声をかけてね。」
そういうと奥のほうの部屋を指さした。
マリーが奥のほうの部屋へ向かうと、アンナとモネも同じ部屋に入ろうとした。
マリーがそれに気づいて怒った。
「ちぉっと部屋空いてるんだからそっちで寝なさいよ」
「だって怖いんだもん」
「マりー様ぁぁぁ」
マリーは二人を見ると
「仕方ないわねぇ。」とため息を付きながら二人を部屋に入れた。
無理もない、昼には死にかけたのだ。
不安なんだろう。
「仲いいわねぇ。」
とトーコが言うとすぐにリンが
「てぇてぇですね。尊い。」と笑った。
マリーたちが部屋に入るのを確認すると、イナバはリンたちに言った。
「僕はいったん王様に報告してくるよ。」
「わかったわ。私は寝ますね。すっごい疲れた。」
トーコが言うとリンも続けて
「私も~」
そして異世界の一日目が終わった。