ヒーローは絶対に泣かない6
「私、結局あなたみたいにはできなかった」
突然、かなえさんが語りだしたから、途中まで俺に向けて言ったことだと気づけなかった。
「私、他の3人には忘れ物したから先に帰ってっていったのよ。私は言えなかった"北見さんひどいこと言うあなた達とは仲良くできない"って」
「別にいいんじゃない。かなえさんがこれから月里のこと傷つけなきゃ。わざわざ嫌われるような行動を取る必要はないよ」
励ますつもりで言ったのに、かなえさんは苦虫でもつぶしたような顔をする。
「あなたのそういうところムカつくわ。自分は嫌われるようなことしてるじゃない。北見さんのためにそれができるあんたが心底ムカつく」
足で地面をガンガン蹴りながらかなえさんは言った。
「そんなあなたを羨ましいと思う自分が一番ムカつく」
少し涙目なかなえさんを見てたら無性に慰めたくなった。
「かなえさんみたいな友達がいて、月里もきっと幸せだよ」
「うっさいバカ!」
俺の思いつく最高の激励だったのだけど、かなえさんの逆鱗に触れてしまったらしい。
足を勢いよく蹴られた。
「あんたなんて大っ嫌いだわ!当たり前のように北見さんを名前呼びしてるし!あと、前髪長い男子も大嫌い!」
「前髪は俺の自由だろう!」
「なに?それ、伸ばしてるの?ヘアピンで止めるなら切っちまえバカ!だいたいそのヘアピンもダサい!何その変な色」
「大切なヘアピンなんだよ!バカにすんな!」
「あと、私の名前を気安く呼ばないで!名前にさん付けとかないから」
「じゃー、なんて呼べばいいんだよ」
「呼ばなくていいから」と眉間に最大限のシワを作り、嫌悪を顕にしている。
さん付けがないと言うなら、"さん"をとってしまえばいいんだな。
「かなえ」俺は勇気を持って呼んだ。
返ってきたのは、言葉ではなく上履きだった。
「呼び捨てすんなキショイ」
「上履き投げんな!暴力女」
「せめて苗字で呼びなさいよ!」
「苗字なんて知らん」
かなえさんは、ため息をついて答えた。
「百合ヶ原かなえ、クラスメイトの名前くらい覚えておきなさいよ」
百合ヶ原かぴったりな名前で。
その後、なんだかんだ百合ヶ原とは意気投合し、仲良く帰……ることはなく。
一緒には帰ったが(駅まで道が一緒だったので)「ついてこないで」とか「あんた友達いないでしょ」とか「私も絶対友達にしたくない」とかさんざん言われながら帰った。