ヒーローは絶対に泣かない16
昨日、一緒に帰らなかっただけなのに、すっっっっっごく影光と電車に乗ることが、久しぶりに感じる。
ん?待てよ?この状況は当初の計画通りにお出かけをすることができるのでは!!
「影光!」
私は興奮混じりに影光の腕を掴む。
「なんだよ突然」
「私、スタバの前に行きたいところある」
「なに?どこ行きたいの?」
「あのねー、いい匂いのするハンドクリームがほしいんだよー」
行き先は大宮!いい匂いのハンドクリームがある。雑貨屋さんやコスメショップはたくさんある。
選び放題やーーーー!
しかし、影光を長時間付き合わせるわけには行かない。ここは私のオススメのお店に行こう。
私はコスメショップの中でもちょっとしたお菓子やハンカチ、タオル、帽子などの雑貨が売っているお店に入る。
化粧品だけだと影光が飽きちゃうからね。いろんな商品がある方がいい。
「ハンドクリームっていうからドラックストアーにでも行くのかと思った。こんなに種類がお多んだな」
「今は良い匂いのするハンドクリームとか多いのよ。学校に持っていってもハンドクリームって言えば先生に怒られることもないしね。まー、今は関係ないけど」
うちの高校が校則がゆるくてよかった。
「どうりで乾燥する季節でもないのに、ハンドクリームを求めに来たわけか」
「別に匂い目的じゃないわよ。本当に乾燥もするの!どうせ手にぬるなら良い匂いのするほうが良いでしょ」
私は影光と話しながらハンドクリームを吟味する。
自分の好きな香りをいくつか選んで、その中から影光に選んでもらう。あっ、でもたくさん選択肢があると「どれでもいいんじゃない?」って言われやすいらしいから2つまで絞ろう。
うん!我ながら冴えてる!
「ねー、影光はどっちの匂いが好き?」
私は、私の好きなシトラスと石鹸の匂いのハンドクリームを影光に見せる。
「こっちかな」
影光が選んだのは石鹸の香りだった。
「そっか!じゃー、こっちに決めた!」
私は石鹸の香りのハンドクリームを持ってお会計に行く。
「買ってきたよー」
明日にでもこれつけて、影光をドキドキさせよー。
「さー、これで心置きなくスタバに行けるわ!」
そう思ったとき、子供の泣き声が響きわたった。
迷子だろうか。影光だったらきっと助ける。だから私もそうしよう。
気づくと私は女の子の前でしゃがんでいた。
「大丈夫、どうしたの?」
「お、お母さんと、、、はぐれちゃって、、、」
「迷子だって」
影光の方を振り返ると、影光は一歩目を踏み出したまま、びっくりした表情とともに止まっていた。
影光のことだからいろんな事を考えて、それでもやっぱり助けようとしたんだろう。
私は影光のそんな不器用な優しさが好きだ。
そんな影光にかける言葉を探す。
「私の勝ちー」
私は満面の笑みでそう言った。
影光に少しでも悔しいって思ってもらえたら嬉しいな。
私の行動で影光の考えや感情が変わってくれたら嬉しいな。
私達は琴似舞桜と名乗る女の子のお母さんを見つけるために、ルミネ中を探した。予定とは少し違うけど、こうやって影光と一緒にいる時間もすごく嬉しかった。
「お母さん!!」
「莉桜!!よかった。どこに行っていたの?」
莉桜ちゃんが母親と一緒に帰っていく。
見つかって本当に良かった。
子どもいいな〜。私と影光の//////っハズい、私ったら何恥ずかしいこと考えてるんだろ。
そんなことより!
「さあ、それじゃスタバのフラペチーノを」
その時、ポケットの電話が鳴った。
「前の家だったら、影光の家が隣だから帰りもずっと一緒だったのに」
私達は大宮駅の8番線ホームで電車を待っていた。
スタバを飲みに行こうとしたらお母さんからの帰宅コールがなってしまったのだ。
まー、また今度、影光をデートに誘う口実ができたと思えばいいか。
って!誰がデートよ!
「送っていこうか」
「いい、影光ももっと遅くなっちゃうし」
本当は送ってほしいけど、そんなこと言ったら影光の迷惑になっちゃう。
まるで嘘をついているみたいで、後ろめたさから自分の髪をくるくるといじる。
別の話にしよう。
「ごめんね、今日は取り乱しちゃって」
月里さんにも悪いことをした。あれは完全に八つ当たりだ。影光のこととなると、ついかっとしてしまうのは悪いところだ。
「別に、玲奈が騒がしいのも、泣きじゃくるのも日常だから平気」
「私は毎日そんなにうるさいか!あと、私、そんなに泣き虫じゃない」
私はそう言いながら影光の左頬をつねる。
影光の肌は男にしては、キメ細かく、スベスベだ。
私は影光の頬を弾く。
「月里さんが悪くないのは、わかってるから」
まるで懺悔でもしているかのような気分だ。
許してほしい、嫌わないでほしい、そんな気分にさせられる。
影光が私を嫌いになるわけないのに。
私だけじゃないどんな人にだって……。
「やっぱり送っていこうか」
「だからいいって」
「送るよ」
影光に力強く言われ、断ることができなかった。
内心はとっても嬉しい。
心が踊っているようだ。
私の家の最寄りに降りて、影光と二人、夜の歩道を歩く。駅から離れていくにつれて、街灯はだんだん少なくなり、それにつられるように影光の表情も真剣なものに変わっていく。
「ごめん、もうしないから」
きっと今回の件だろう。
「絶対だよ」
誰かのために動くあなたは素敵だけど、それを影光が傷つく理由にしてほしくない。
だから影光が二度と自分自身を傷つけないように、呪いでもかけよう。
「あなたは私のために傷ついてはいけないの。わかった」
影光は頼み事を断れない。
影光は自分の頭のヘアピンを触る。いつもの癖だ。
気がつくと、私の家の前にいた。
「おやすみ」「おやすみなさい」と互いに言い合ってわかれる。もっと一緒にいたいな。離れたくないな。ずっとずっと一緒に…。
影光はそんなこと思ってくれないだろうな。
私だけが寂しいと思っていることに苛立ちを感じる。
「玲奈、遅かったじゃない」
「ちょっとね」
「カゲくんも一緒だったんでしょ。灯里、すっごく怒ってるわよ」
ママは影光のことをカゲくんと呼ぶ。影光の母親の灯里おばさんは確かに怖い。怒ると鬼の角が生えたようになる。
まー、私から迷子の親探してたこと言えば、灯里おばさんの怒りも静まると思うけど……。
私はママにお風呂に入ることを伝え、脱衣所に行く。このあとゆっくりお湯に浸かってドライヤーでしっかりと髪を乾かしてから灯里おばさんに迷子のことを伝えよう。
ちょっとは私の大切さをわかってもらわなきゃね。