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ヒーローは絶対に泣かない11

生徒会室のプレハブから出ると、とても空気が新鮮だ。青空がこんなにきれいなんて知らなかった。会長に言われたとおり選択教室に向かう。気は進まないが、ほっとくと後が面倒な気がした。校舎に入り、階段を登ってすぐの場所に選択教室がある。


引き戸を開けると、いつもの椅子に座って月里は読書をしていた。


本当にいるのかよ。


「姉さんと何話したの?」


「昨日、姉に白石のこと話したんだろ。ついてかせろって言われた」


「姉さんは、そんな乱暴には言わないわ」


そう言われ愛想笑いを返す。


本当は違った。北見会長は嘘つきだ。本当は"余計なことするな"と言いたかったのだろう。


「で?どうするの?」


月里が本を閉じながら俺に質問する。


「"逆ストーカー"を見つけるんでしょ」


人のこと言えないが、"逆ストーカー"は随分と定着してるな。


「白石のあとをつければ、"逆ストーカー"見つかると思ったけど、また明日だね」


白石はもう帰っているだろうから。


「白石くんならまだいるはずよ」


月里が窓の方を指差す。


「部活、まだ終わってないから」


窓の向かいには第3校舎、その右側に校庭が見切れて見える。


サッカー部や陸上部が走ったりボールを蹴ったりしているのがわかる。


「白石は何部なんだ」


「サッカー部」


イケメンがボールを蹴ってる姿はなかなかお似合いだな。


「それにしても月里……詳しいな。もしかして白石の隠れファンだったのか」


「違うわよ…お姉ちゃんに聞いたの」


月里は呆れ混じりに言う。


ということはお姉ちゃんが白石のファンなのかな?北見会長がペンライトを振りながら白石を応援してるとこを想像すると、とても似合わなくて笑ってしまう。


「気持ち悪い」


言い過ぎではないでしょうか。


気まずくなった空気を、咳払いで追い払う。


「とりあえず校門の前にでも行ってみるか」


俺と月里は荷物を持って教室を出る。


こうやって廊下を並んで歩くと、月里が俺の肩にもいかないくらいしか身長がないことがわかる。


北見会長は俺と同じくらい身長があるから、もっとあるものなのかと思った。雰囲気といいこの姉妹は似てないな。


ちなみに俺の身長は約170cm、男子高校生の平均だ。


「さっきからジロジロと何を見ているの?」


月里が俺を少し睨む。しかし、低身長のせいか上目遣いに見えて可愛い。『お前って身長低くて、睨んでも上目遣いに見えて可愛いな』なんて素直に言うわけにはいかないな。


そう思い話題を探すと、月里の左腕にある黄色のミサンガが目に入る。


「そのミサンガいつも身につけてるんだな」


「これ?これは大切な人にもらったの」


月里は自分の左腕を眺めながら言う。


「ミサンガってお願いごとに使ったりするよな。確か自然に切れるまで持ってると願いが叶うとか」


俺がそう言うと、月里がじーっと俺のことを見た。


「なに?俺なんか変なこと言った?」


「いや、正解するんだなって思って」


男が、こんなおまじないを知ってるのは、気持ち悪いですかね。


つい言われてもないことを想像してしまう。


被害妄想は俺の得意技の一つだ。


「何かお願いしたのか」


「ううん、してない」


大事にしている様子からなにかお願いでもしてるのかと思ったが、違うらしい。


「私は知らなかったもの、そのおまじない。最近になって知ったの。今更なにか願う気にもなれなくて」


「いいじゃんか、今からお願いすれば。結構古くなってるからすぐ切れてすぐ願いが叶うかもだし。大切なものなら壊したくないかもだけどさ」


「そうね。考えておく」


そうこうしているうちに、俺らは校門近くにたどり着く。部活帰りの生徒がクタクタになりながら帰っていた。この中で汗1つかいてない俺らは、目立つのではないか。尾行に支障が出ないといいが。


「ねえ、あれ」


月里が俺の腕をツンツンとつつき、指差しで視線を促す。


そこには白石と白石の彼女らしき人がいた。


白石はタオルを首に巻き、余った両端をワイシャツの襟の中に入れている。運動したあとって感じがすごい伝わる。


俺らの高校の制服は男子が学ランで、女子はブレザーなのだが、部活帰りに学ランをかっちり着ている人はいない。ほとんどがワイシャツで腕をまくっている。


ちなみに俺は学ランまでしっかりと着ている。


やっぱり目立つかな……?


「どうしたの?」


隣を見ると、月里が首を傾げて僕を見る。


月里もしっかりとブレザーを着込んでいた。女子も同様に部活をしてからブレザーでいる人は少ない。


まー、文化部はこんな遅くまで活動しないけど、文化部の帰りということにしよう。月里は文芸部なのだからあながち間違ってはいない。


そういえば白石の彼女もブレザーを着ていたが、文化部なのか、それとも白石を待っていたのか。


「とりあえず、あの二人の後をつけるか」


「そうね」


二人の帰路を柱などに隠れながらたどる。


こういうことしてると探偵気分になれるな。


「私たち探偵みたいね」


どうやら月里も同じことを考えていたようだ。


「チェックの帽子でも持ってきたほうが良かったか」


「私、ミステリーはあまり読まないけど、あなたはハットの帽子にグレーのジャケットがいいと思うわ」


最近の探偵は、随分シンプルな格好してるんだね。


「この間、シャーロックホームズって映画見てたの」


しかもシャーロック・ホームズの衣装!


「ワトソンが着てたわ」


助手かい!!


「さー行くわよ。ワトソンさん」


自分が探偵と言わんばかりの態度だ。それに結構ノリノリだな。月里さん、本当はミステリー好きでしょ。


「おい!そこの二人!何を怪しいことをしている」


後ろから呼び止められる。


「あの二人のことつけてたよな。もしかして貴様らストーカーか!」


探偵気分から一変、容疑者気分になった。


「違います。というかあなたは誰ですか」


月里さん、まだ探偵気分が抜けてないのか強気に言いますね。


「俺は生徒会役員だ。怪しい生徒がいたら呼び止めるのは当然だろう」


月里はこんな人いたっけ?みたいな顔で見ている。


俺も生徒会役員の人をひと目見たことがあるが、顔までは覚えてないな。


黒縁メガネ、高身長、黒色短髪、学ラン、エナメルバッグ、うーん見たことあるような。どこにでもいそうな顔出しな。


「それで、お前らは何してたんだ」


なぜこんなことになってしまったんだ。


「今思えば、駅に向かってるだけなんだからコソコソする必要なかったわよね」


月里がボソッと言う。


たしかにこんな大勢がいっせいに駅に向かっているのだから、俺らが白石たちの後をつけてたとしても気づかれない。


ということはおかしなところが一つある。


「なんで俺らが白石たちをつけてるってわかったんですか」


「だ、誰が見たってわかるだろ」


「いいえ、これだけ人がいるのにつけてる相手を特定なんかできるはずがない」


高身長メガネはまずい枝豆でも食べたような顔をする。


「どういうこと?この人はなんで知ってたの?」


月里は真相がまだわかっていないようだ。真に探偵役にふさわしいのは俺だったようだ。


「月里、最近俺は迷子の子供の母親を探したんだ」


「突然何?」


月里は急な話題に困惑している。高身長メガネは「勝手に話をすすめるな」とイライラしている。


そんなことを気にせず俺は語りだした。


「最初は見つからなかったんだが、見方を変えればすぐ見つかった。今回も同じだ。例えば俺らの目の前で電柱に隠れながらコソコソしてるやつがいたらどう思う」


「それは白石のストーカーだと思うわよ。その人を探してたんだし」


「そう。つまり白石のストーカーが、コソコソしている俺らを見たら自分と同じ目的だと思うってことだ」


月里は特に表情も変えず「あー」と高身長メガネのことを見る。もうちょっと感動してくれても良くない。少しがっかりしたが、ここまで来たら決め台詞まで言わせてもらおう。俺は高身長メガネに人差し指をびしっと指す。


「つまり、"逆ストーカー"はあんただよ!」


真実はいつもなんとかさ!

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