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第94話:武道場にてその1

 ――――――――――学院高等部武道場にて。スイフト男爵子息マイク視点。


「やってるやってる。いつ来ても勇ましいなー。こんにちはー」

「おお、聖女殿のお出ましだ。出迎えろ!」


 魔法の指導のために武道場へやって来た。

 クインシー殿下も来てるのに、聖女パルフェが主客なんだな?

 今年の剣術クラブ部長の先輩は暑苦しい気がする。

 ちなみに今日は旧魔法クラブ一年生の他に、モアナ嬢と刺繍クラブ部長のサリー先輩まで様子を見たいということで一緒だ。


「今剣術クラブの魔法はどの程度かな?」

「二年生がほぼ回復魔法ヒールを使えるようになっているだろう? 皆が教わっているのだ。我がクラブではケガが常態だからな!」

「威張って言うことでもないよーな」


 ケガが付きものの剣術クラブは絶対にヒールが必要だろ。

 自分が使えるようになってみるとそう思う。


「じゃ、皆にヒールを教えようか。特に一年生に」

「いや、それはこっちでもできるから。トリスタンと立ち合ってくれ」

「トリスタン君と?」

「手持ち無沙汰らしいんだ」


 まあ確かにトリスタンとまともに勝負できるのは、聖女パルフェくらいしかいないだろうから。

 今となってはトリスタンの身体強化魔法はかなり練度高くなってるしな。


「そーか。じゃあ水魔法使うとこんなことができるってのを教えてやろう」


 聖女パルフェがオレを見てニコッとした。

 水といえばオレの持ち属性だ。

 よく見てろってことだな?


 あっ、第二王子エグバート殿下の目がすごく輝いているのがわかる。

 トリスタンの本気が見られるからだろう。

 でも残念ながらすぐ勝負ついちゃいそうなんだが。

 聖女パルフェの負けるとこなんてちょっと想像できないのだ。

 モアナ嬢とサリー部長がソワソワしてるのは、聖女パルフェのことが心配だからかな?


 二人が立ち合う。


「まいる!」

「いつでもどーぞー」


 トリスタンが動かない。

 あれ? 得意の身体強化魔法を使ってないな?

 そうか、きっと聖女パルフェの解呪を警戒してるんだろう。

 最近トリスタンの身体強化魔法は、かなり練れて起動が早くなっている。

 解呪できないタイミングで使用し、一気に攻め込むつもりだな?


 一方で聖女パルフェの身体が白っぽく輝く。

 あれは祝福で身体能力を上げているのだ。

 身体強化魔法を使わないのは、以前に一度見せているからだろうか?


 散発的に聖女パルフェが地面を凍らせる。

 トリスタンに踏み出しを躊躇させるつもりだろう。

 しかし聖女パルフェの動ける範囲も狭くなりそうで、良し悪しな気もするけどどうなんだ?


 円を描くような足取りでジワジワと間合いを詰めるトリスタン。

 対して飄々と距離を取る聖女パルフェ。

 トリスタンも成長してるなあ。

 もっと早く勝負が決まるものかと思ってた。


 ん? 聖女パルフェが魔法を使ってる。

 あれは盾じゃないな。

 水の膜みたいなものかな?


 トリスタンが打ち込む。

 まだ身体強化魔法は使っていないな。

 あっ、水の膜が鏡に?

 トリスタンがぎょっとしてる。

 なるほど、水魔法はこういうフェイントにも使えるんだ。


 しかし剣士の間合いだ。

 トリスタンの手数が多くなってきた。

 聖女パルフェも何とか捌いているが?

 手に汗握る光景だ。


 トリスタンの振り下ろし! 速い!

 おそらく身体強化魔法をかけながらのトリスタン渾身の一撃!

 聖女パルフェの水の盾を割った!

 入る!


「はい残念」


 トリスタンの鋭い撃ち込みが聖女パルフェを捕らえたかと思ったが、残像だった!

 どこからか現れた聖女パルフェが、体勢の崩れたトリスタンを投げ飛ばす。

 拍手と大歓声だ。

 モアナ嬢が聖女パルフェに抱きついている。


「完敗だ」

「いやいや、トリスタン君かなり強くなってるって」


 クインシー殿下が聖女パルフェに質問する。


「最後の残像は? 祝福によって動きが素早いということではないようですが」

「あれは水魔法による虚像だよ。こーゆーの」


 聖女パルフェに似た人形?

 実物と比べれば違いはすぐわかるけど、水の盾の向こう側からじゃ判別つかないだろうな。


「で、虚像と同じ理屈なんだけど、水で光の屈折を誤魔化して見えづらくするって魔法があるんだ。よく見ててね?」


 本当だ。

 姿がぼやけて見えなくなった。

 陽炎みたいに見え方がおかしい感じだ。


「この二つを併用すると、虚像を本体に見せておいて本体は裏をかくってことが可能になるんだよ。ただしトリスタン君が感知魔法を完全にものにしていたら、実物のあたしの移動を察知できるから誤魔化せなかったな」

「魔法の同時使用か」


 トリスタンがため息を吐きたい気持ちはわかる。

 レベルが高過ぎる。


「ある魔法に他の魔法を重ねるのはかなり難度が高いけど、同時使用自体はそう難しくないんだぞ? 例えばトリスタン君だったら、身体強化魔法で魔法力を上げておいてから風の付与魔法で剣の切れ味を上げる、なんて使い方は有効でしょ? あるいは身体強化魔法が解呪されることをトリガーにして、もう一度身体強化魔法がかかる魔法、なんてのも組める」

「そんなことができるのか?」

「できる。身体強化魔法にそーゆー回路を組み込んでおいて、あらかじめかけとくだけ。そんなに難しいアレンジじゃないよ。毎回言うけど、魔法実技の教科書にやり方が載ってるくらいの基本的な魔法は、自分の持ち魔法属性に関係なく誰にでも使える。努力と慣れ次第」


 全員が興奮しているのがわかる。

 聖女パルフェは人をやる気にさせるのが上手だなあ。

 オレも体が熱くなってきたような気がする。

 何でもいいから魔法を使いたい気分。


「ところでトリスタン君の感知魔法って、どれくらいまで習得進んでるの?」

「一応立体に展開できるようにはなったんだ」

「おおう、進歩早いね」


 感知魔法はまず紐状に真っ直ぐ感知できる長さを伸ばしていき、次にそれを面状に広げ、最後に立体に展開できるようにすると教えてもらった。

 つまりトリスタンの感知魔法は最終段階にきているということだ。


「ちょっと使ってみそ?」


 トリスタンが魔法を放つ。

 あっ、わかる!

 これがトリスタンの感知魔法か。


「なるほど、解除していいよ」

「ああ。パルフェ嬢はどう思う?」

「感知魔法ってかなり扱いの難しい類の魔法なんだ。自分の持ち魔法属性でもないのに、半年でここまで使えるようになるのってかなりすごい」


 ためらいがちに首を振るトリスタン。


「まだまだ全然だ。五分と展開していられない」

「うん。一年生はどうかわからんけど、魔法実技の講義を受けてる上級生は全員今の感知魔法に気付いたんじゃないかな。本来感知魔法ってのは気取られずに相手の様子を探るためのものだから、現在のトリスタン君の感知魔法はちょっと使いものにならない」


 厳しい、が事実なのだろう。


「もっともトリスタン君が戦闘中に相手が何かしてくるその挙動を掴みたいっていう目的で感知魔法を使うなら、少々荒っぽくても構わないんだけどね。どっちにしても今のままじゃ消費魔力が大き過ぎるから、少しずつ薄くしなきゃなんない。もうこれは反復練習だけだよ。制御構文だけに頼るとぷつんと切れちゃうから、イメージを忘れないように頑張れ」

「薄くするイメージが難しいんだ」

「そーか。トリスタン君は金箔って見たことあるかな? あたしは職人さんに金箔作ってるとこ見せてもらったことがあってさ。そのイメージで展開してるよ。感知魔法を覚えようとする人は見学を推奨する」

「わかった、ありがとう。一度見学させてもらってくる」


 金箔製作の作業が魔法のイメージになるのか。

 何でも参考になるんだなあ。

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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!
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