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第8話:生き残ったのがあたししかいない

 ――――――――――王都聖教会本部礼拝堂にて。アナスタシウス大司教視点。


 晴れて聖女と認められたパルフェがぶーたれている。

 めでたいことなのだから素直に喜んでいればいいのに。


「あたしは空気を読める子だから何も言わなかったけどさ」

「む? どうした?」

「至らぬ聖女かどうかは、お仕事やってみないとわかんないじゃん」

「それもそうか。すまなかったな。言葉の綾だ」


 トラブルが起きる未来しか想像できないが、私は予知能力者ではないしな。

 ヴィンセント聖堂魔道士長は、何故かパルフェに入れ込んでいる。


「いや、パルフェ様の魔道技術は卓越しております」

「そお? ヴィンセントさん、褒めてくれてありがとう!」

「いやいや、世辞などではありませんぞ。複数魔力属性の保持者が、属性魔力を単独で出力できるなどということは初めて知りました」

「あーあれは死ぬかと思った」

「「えっ?」」


 生き死にの話なんかしてなかっただろう?

 遠い目をするパルフェ。

 いつも笑顔なのかと思ったら、こんな表情もできるんだな。


「魔力を限界まで使い切ると、最後には自分に一番多い魔力属性だけしか出なくなるんだ。そーやって単独属性出力のコツを掴むんだよ」


 魔力を限界まで使い切る?


「……ヴィンセント。魔力は完全に枯渇すると死ぬんだろう?」

「さようですな。息を吐き切ったら窒息死するのと同様です。普通は自分の意思でそんなことはできませんが」

「師匠がスパルタなんだよなー。おかげでいろんな魔法使えるようになったし、扱いも簡単になったからいいけど」

「師匠はどなたなので?」

「フースーヤ翁だそうだ。漂泊の賢者の」

「ええっ?」


 そりゃ驚くだろう。

 私だって信じられん。


「ふ、フースーヤ様に弟子がおられるという話は聞いたことがありませんが」

「だよねえ。生き残ったのがあたししかいないんだと思うよ」

「「……」」


 『生き残ったのがあたししかいない』から他に弟子がいないというのは、相当なパワーワードだな。

 確かに漂泊の賢者殿は相当な偏屈者だと聞いたことがある。


「じっちゃんメチャクチャだもん」

「ヴィンセント。純粋な聖属性魔力を得るために魔力枯渇実験をするのはやめてくれ」

「は」


 死人が続出しそうだ。

 案内の修道女が言う。


「さあさあ。パルフェ様のお部屋はこちらですよ」

「ありがとう。でも荷物持ってくるの忘れちゃったな」

「服と身の回りのものを適当に見繕っておいてくれ。足りないものは後で揃えればいい」

「えっ? 武器は自分の好みの方が使いやすいんだけど? 適当に見繕わられると困るな」

「……武器は身の回りのものなのか」

「パルフェ様は聖女ですのに、杖はお使いにならないので?」


 私が衝撃を受けているというのに、ヴィンセントはまた的外れなことを。

 魔道士らしいと言えばらしいが。


「冒険者活動してた時は杖使ったことないな。あっ、でも杖っていいやつは魔力補助があるんだっけ?」

「さようです」

「祝福の人数が多い時にあると楽かもなー」

「先代の聖女様がお使いになっていた杖がありますぞ」

「ありがとう、ヴィンセントさん。使ってみるよ」


 ……。


「パルフェ、今一つ納得いかないことがあるのだが」

「何だろ?」

「何故私が『おっちゃん』で、ヴィンセントが『ヴィンセントさん』なのだ?」

「レギュラーキャラの皆をおっちゃん呼びしてたらわかりづらいからだよ。おっちゃん、カツラのおっちゃんときたら名前呼びかなと」

「私の名前が覚えられないとかいう理由ではないんだな?」

「魔力使い過ぎちゃったからお昼寝するわ。夕御飯の前に起こしてね。一食でも食べ損なうと大損だ」


 ドアを閉めるパルフェ。

 誤魔化された気がする。

 ヴィンセントとともに聖務室に戻る。


「どう思う?」

「どう、とは?」

「パルフェのことだ。強い魔力を持っていることは間違いないが」

「鑑定の宝玉に触れる際、魔力を流し込むことを明らかに躊躇しておられましたな」

「うむ。我らが信用を得ていなかったのだろうか?」


 奴隷契約の登録等に、自分の魔力を流し込む手続きが必要となることがある。

 それらを疑ったか?

 誰かが先に手本を見せることを要求したのはそのせいだったかもしれない。


「いや、言葉通りでしょう。フースーヤ様の弟子というのが本当なら、怪しい魔道具に触りはしないでしょうし」

「言葉通りとは?」

「つまり魔力を流し込み過ぎて宝玉を壊すことを恐れたんだと思いますね」


 確かにパルフェはそのようなことを言っていた。

 まさか。


「鑑定の宝玉は魔力を蓄える構造ではないのだろう?」

「はい。しかしパルフェ様ほどの魔力の持ち主が一気に魔力を流し込めば、負荷がかかり過ぎて壊れることは十分に考えられます」

「何と」


 素人目にもパルフェの魔力量は抜群に多いとは思っていた。

 ヴィンセントクラスの魔道の専門家がこう言うほどなのか。


「ところでパルフェ様がフースーヤ様に魔道の手ほどきを受けたというのは本当なのですか?」

「わからぬ。しかし大規模祝福にしても飛行魔法にしても属性魔力の単独出力にしても、魔道的に高度な技なのだろう?」


 誰かに教わったと考えるのが自然だと思う。

 ヴィンセントがニコリとする。


「祝福は聖女ならば何かのきっかけで使えるようになることはあり得ます。属性魔力の単独出力も、魔力の使い過ぎで死にかけて会得したということがなくはないです。しかし飛行魔法はムリですね」

「そういうものか」

「ええ。魔法は技術の集積ですから。そりゃパルフェ様ほどの魔法の才の持ち主ならば、自分で飛べるようになることだってあるかもしれません。でも辺境から王都まで猊下を連れて飛んでくるほどムダがなく洗練された飛行魔法は、それこそフースーヤ様クラスの大魔道士が生涯をかけて組み立てたものに違いありません。誰かに教授されたことは疑いありませんよ」

「誰か先生がいることは間違いないが、フースーヤ翁かはわからないということだな?」

「さようです。パルフェ様が仰ることを聞く限りフースーヤ様っぽく思えます。しかしあのフースーヤ様が少女に魔法を教えるというのは、どうも想像がつかないのですな」


 フースーヤ翁は希代の奇人との世間の評価だ。

 しかしパルフェも相当おかしいからなあ。

 奇人同士奇跡的にウマが合うということはあるかもしれない。


「まず、何より毎日のお務めを滞りなくできるかだな。ヴィンセント。明日午前中に回復魔法の奉仕と結界の基石への魔力注入をやらせてみてくれ」

「えっ? 奉仕と魔力注入両方ですか?」

「ああ、なるべく早く仕事を覚えさせたい。パルフェの魔力量なら可能だろう。その代わりシスター・ジョセフィンを休みにし、緊急時に備えてくれ」

「了解です」


 大きい事故が起きたりすると癒し手が総動員になる場合があるのだ。

 そんな時に聖女が魔力の使い過ぎで動けないなんてことになると、聖教会の沽券に関わる。

 控えを用意しておかねばならない。


「パルフェ様がおられれば結界は安泰……猊下、どうかされましたか?」

「ヴィンセント。貴殿は随分とパルフェを買っているようだな」

「それはそうです。歴代の聖女の中でも初代様に匹敵するか、あるいは凌駕するかもしれない魔道の才能ですからな」

「ふむ……」


 国防結界を実地で担当するヴィンセントにとって、聖女パルフェはありがたい存在に違いない。

 しかし聖教会幹部全てが同様の見解というわけではない。


「猊下はパルフェ様を評価しておられぬので?」

「いや、そんなことはない。しかしゲラシウス殿とシスター・ジョセフィンが、パルフェを聖女にすることに反対だったろう?」

「考え過ぎではないですか? パルフェ様は少々異色なところがありますから、慣れるまで時間がかかるのやもしれません」


 ヴィンセントの言う通り、杞憂であって欲しいものだ。

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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!
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