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第51話:聖女パルフェの学院生活を報告その1

 ――――――――――王都聖教会本部礼拝堂にて。アナスタシウス大司教視点。


「ゲラシウス殿、ちょっとよろしいか?」

「猊下、いかがされました?」


 廊下でゲラシウス筆頭枢機卿を呼び止めた。

 ゲラシウス殿は聖女パルフェの従者であるからだ。

 あのトンデモ聖女が近頃いかがなものか聞いておきたい。


「パルフェのことだ。学院が始まって数日が経つ。問題でも起こしてはいまいかと不安になってな」

「ハハッ、猊下も心配性ですな」


 ゲラシウス殿は笑うが、あのパルフェだぞ?

 いつか何かをやらかすに決まってる。

 経過だけでも知っておかないと、後でとんでもないことになりそうだからだ。


「高等部入学式の日、エインズワース公爵家のユージェニー嬢が階段から落ちかけたのを浮遊魔法で救ったのは、実に鮮やかでしたぞ」

「うむ、それについては聞いている」

「伝説の聖女もかくやといった様でした」


 パルフェの事績は聖教会では当たり前であっても、世間一般の人にしてみれば謎に包まれている。

 評価が上がったのは事実だろう。

 しかし……。


「……あれは故意だったのだろう? ユージェニー嬢が軽症だったのは僥倖だが、犯人が捕まったという報告を聞いていない」

「さ、それは吾輩も聞いておりませぬ」

「ふむ」


 王宮からも学院からも実行犯がどうなったかの連絡がない。

 目撃者がなく、パルフェの感知魔法でも追いきれないのなら、逮捕は不可能なのかもしれないな。

 だが捜査にどの程度の進展があったかは知りたいものだ。

 聖教会はこの件について部外者だと言われてしまえばそれまでなのだが。


「その後クインシー殿下やユージェニー嬢が襲われたということはないのだな?」

「ありませぬ。おそらく影も増員されておりますれば」

「当然の措置だな。となると……」


 連絡がないのは、特に伝えるべきことがないからか。

 つまり捜査は進んでいない?


 当事者の一人で優れた感知魔法の使い手であるパルフェに協力させるべきだ。

 しかし学院はユージェニー嬢のハプニングを事件であることを把握していても、事故という体裁を崩してはいないようだ。

 ならば一生徒であるパルフェに詳細を話すことはあるまい。


「吾輩聖教会筆頭枢機卿の名を出し、捜査に協力する旨申し出た上、ユージェニー嬢の件を学院に問い合わせてみたのですが、捗々しい返答はありませんでしたぞ」

「何も掴めていないのだろうな」

「猊下もそう思われますか」

「それしか考えようがない」


 大きく頷くゲラシウス殿。

 であれば、ユージェニー嬢に対する害意を持つ者のアクション待ちになってしまうのか。

 歯痒いことだ。


「その後音沙汰なしとなれば、あの場にいた保護者の誰かが犯人なのではないか、という考え方はあると愚考いたします」

「いや、パルフェが言うには高度な魔法の使い手なんだろう?」


 高度な魔法の使い手なんて多くはない。

 学院は保護者の出欠を取っていたし、その保護者がどの程度の魔法の実力を有するか、学院時代の成績の記録も残っているはず。

 照らし合わせて犯人の目星を付けるという試みくらいはしているのではないか。

 それでも犯人がわからないとなれば……。


「やはり従者が怪しい。あるいは保護者が魔法の使い手と入れ替わっていたか」

「……なるほど、客観的にはそういう見方になりますか」


 む? 少し意表を突かれた。

 ゲラシウス殿は違った考えを持っているのか?


「猊下のお説に従うと、かなりの計画性を持った犯行だったと考えられます。しかし現場にいた吾輩からすると、掲示板のある階段上から人が溢れるほどの状況になったのは、偶発的な出来事だったように思えるのです」

「それもそうか。すると?」

「犯人が事前に計画を立てるほどユージェニー嬢を害さねばならぬ目的があるのであれば、犯人はユージェニー嬢を執拗に狙い、その動向は影により察知されるのではないかと思っておったのです。しかし王宮からも連絡がないのであれば、そのセンも薄いのでありましょう?」


 ゲラシウス殿の言う通りだ。

 おそらく影からの情報も王宮にはもたらされていない。

 ならば犯人の狙いはどこにある?


「事件当時聖女パルフェは言っておりました。結果に頓着しない愉快犯的な事案の可能性が高いと。今後は迂闊なことをしないだろうと。その時は吾輩その言を信じておりませなんだが、ユージェニー嬢を安心させるため必要なことを口にしたのだろうと思い、特に反論もせずにおりました。しかし今この状況を鑑みると、図らずも小娘の見通しは当たっているのではないかと」

「愉快犯か」


 たまたまユージェニー嬢を面白く思っていなくて、他人に責任を押し付けられる絶好の機会が巡ってきたから犯行に及んだ、ということか。

 少ない情報でよくそれだけの推測ができたものだ。

 パルフェはどれだけ辺境区で修羅場を潜っているんだろう。


「やはり状況が一番見えていたのはパルフェか」

「その小娘にしてからが、犯人についてはサッパリわからないと申しております」

「それは仕方ない。パルフェは貴族の人間関係や学院のことを知らぬからな」

「実際問題として、聖教会が深入りする事案でもありませぬ」

「そうだな。だが現実問題として、パルフェはクインシー殿下やユージェニー嬢の近くにいて、その身を守り得る戦力でもあるから」


 おまけに事態をややこしくするピースにもなりかねないんだよなあ。

 事件の解決にはパルフェを介入させるべきだとは思うが、愉快犯的で再犯の恐れがないなら放っといてもいいくらいだ。

 パルフェが絡むと却って面倒な事態に陥るかも?


「ゲラシウス殿の言うように、これ以上は我々が考えることではないな。情報が入るようなら、一応パルフェに伝えておいてくれ」

「御意にございます」

「それで学院生活の方はどうだろうか?」


 そっちが私の知りたい本題なのだ。

 まさかたった数日間で何かやらかしてるとは思わないが、油断は禁物だ。


「今年の高等部進学組にスイフト男爵家のマイクという者がおります。ふとしたことで聖女パルフェと親しくなり、また同じクラスになったので監視を申し付けております。ああ、あやつです。マイク!」


 一人の少年がやって来た。

 何事だろうかという顔をしている。


「お呼びでしょうか。アナスタシウス様、ゲラシウス様」

「聖女パルフェの学院での生活はどうか、大司教猊下がお知りになりたいそうである。お主の知っていることを掻い摘んで話すである」

「はい。聖女様は概ね学院生活を楽しんでいます。いつも鼻歌が出ます」


 思わず笑みがこぼれる。

 鼻歌が出るほど上機嫌なら、さほど問題はあるまい。

 学院は高位貴族の子弟がうるさい場合もあるから、衝突するとどうかと思ったが。


「トラブルはないであるか?」

「スピアーズ伯爵家の令息ダドリーが同じクラスで、こいつが身分の低い者を露骨に見下すのです。初めての講義の日に聖女様を転ばせようと足を伸ばしてきたところを、聖女様が蹴り折りました」

「「は?」」


 蹴り折った?

 令息の伸ばした足にパルフェが悪意を感じないわけはないから、わざと蹴飛ばしたんだろうが。

 結構なトラブルじゃないのか?


「折れてしまったのは聖女様も予期していないことだったかもしれません。その後回復魔法で治したのですが、ダドリーがまだ痛いと難癖を付けまして」

「パルフェの回復魔法が不完全などということはないであろう?」

「はい、ウソだと思います。ダドリーは意地の悪いやつですから。そうしたら聖女様はもういっぺん折ってからくっつけ直そうと言い出しまして」


 自信満々で言いそう。

 思わずゲラシウス殿と顔を見合わせる。

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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!
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