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第46話:意地悪令息

 ――――――――――学院高等部教室にて。スイフト男爵子息マイク視点。


「おっはよー」


 聖女パルフェが堂々と教室に入ってゆくのに続く、従者チックなオレ。

 今日から高等部での必須科目の講義が始まるのだ。

 必須科目の特に座学は組単位で受けるものがほとんどであると、入学式でもらったパンフレットに書いてあった。

 全ての科目が必須だった初等部と同じだな。


 これが選択科目となると組横断の講義となり、さらに課外活動では学年まで越えて先輩達とも行動をともにすることになる。

 初等部と異なるところであり、楽しみでも不安でもある部分だ。


「マイク君、元気なくない?」

「そんなことはないですよ」


 今後ゲラシウス様は特別な時以外は従者として付いてこないらしい。

 たまたま聖女パルフェと同じクラスになったので、よく見張ってろと申し付けられてしまった。

 少し気が重い。


 気が重いのはそれだけが理由ではない。

 性質の悪いやつらが同じ組なんだよな。

 格上の貴族であることをいつも笠に着るやつら。

 貴族なら貴族らしい、誇り高い態度でいろと言いたい。

 でも言えない、オレは格下の男爵家の人間だから。


 クインシー殿下はまだおいでになっていないようだ。

 早く来ると囲まれちゃうからかな?

 そして嫌なやつらほど早く来ている。

 ニヤニヤ笑いが下品だ。

 しかし今日はオレの方を見ていないな。

 あっ、聖女パルフェを転ばせようと足を出した?


「痛い!」

「あ、ごめんね」


 よく見てないとわからないくらいだが、聖女パルフェは思い切り足を蹴飛ばしていた。

 さすがは聖女パルフェ、悪意にはとっくに気付いていたらしい。

 ざまあ見ろと声に出したいくらいだ。


「あんまり長い足だから引っかかっちゃったよ」

「い、痛い痛い!」

「大げさだなー。どれ、見せてみ? あっ、折れてるわ」


 えっ? 足が折れるほどの蹴りだった?

 聖女キックつおい。


「軟弱な足だなー」

「どうしてくれるんだ痛い! 私は痛い! スピアーズ伯爵家の痛い! 令息だぞ痛い!」


 半泣きだ。

 いや、足折られたらそりゃ痛いだろうな。

 嫌なやつとはいえ、少し気の毒になる。


「自分で令息って言っちゃうのな? あたしは聖女パルフェ様だから大丈夫だとゆーのに」

「は、早くどうにかしろ痛い!」

「笑えてきちゃうわ。整復するから一瞬痛いぞ?」

「ぎゃっ!」

「ハイヒール!」


 強い魔力の光だ。

 ヒールでなくてハイヒールを使ったのは多分サービスだな。

 魔法医連との取り決めでハイヒールは緊急事態じゃないと使えないらしいけど。


「立ってみて。よし、オーケー!」

「……まだ痛い」

「え? そんなバカな」

「痛い! どう落とし前付けてくれるんだ!」


 ウソだろう。

 ニヤニヤ半笑いなのがその証拠だ。

 ダドリー・スピアーズとその取り巻き連中は陰険なやつらだ。

 治ってないと難癖をつけて、聖女パルフェをいびるつもりに違いない。


 でも足折られたのによくこれ以上絡む気になるもんだ。

 何事か考えていた聖女パルフェが、いたずらっぽい笑顔を浮かべて言う。


「骨のくっつきが甘いのかもしれないな。よし、もういっぺん折ってからくっつけ直そう」

「「「「「えっ?」」」」」


 予想外の解決方法キタ!


「あたしはこれでも国の認めた聖女だぞ? ウートレイド王国と聖教会の威信にかけて治すから心配すんな。痛いという症状がなくなるまで、責任持って折って回復魔法を繰り返すからね」

「ままままま待て!」

「待たない。ちょっと痛いけど我慢してね」

「ああ、クインシー殿下がおいでになった! 急いでお迎えせねば」


 飛ぶように去るダドリーと子分二人。

 まったく調子がいいんだから。

 あっ、聖女パルフェがダドリーの従者を捕まえている?


「あんたが今のやつの従者かな?」

「は、はい」

「あたしは国からお給料もらってる聖女だぞ? あたしの癒しに文句付けるとはいい度胸だ。ウートレイド王国と聖教会にケンカ売ってるのに等しい。スピアーズ伯爵家がどんだけ裕福なのか知らんけどさ。ちゃんとした医者に診てもらって、何ともないのにウソ吐いてるのが判明したら、鼻血も出なくなるほど賠償金と慰謝料を取り立てるぞ?」

「……」


 真っ青になる従者。

 追い込み方がごろつきみたいにひどい。

 確かにゲラシウス様の仰るとおり、聖女らしさが欠片もない。


「あんたじゃ今のやつに言い聞かせられないなら、それが可能な人に言っときなさい。今日は聖女の慈悲で勘弁してやるけど、あたしだって機嫌のいい日ばかりじゃないからね?」

「はいー!」


 這う這うの体で逃げ出す従者。

 ダドリー相手に完全勝利か。

 いい気味だ、気分がいいなあ。


「何なの、あれ?」

「ダドリー・スピアーズかい? 見た通りのやつさ。自分より身分の上のやつにはへいこらするクセに、下級貴族や平民には高圧的なんだ」


 聖女パルフェの要求で既に敬語はやめている。

 正直喋りやすくてありがたい。


「高圧的っていうか、足引っ掛けようとしてきたぞ?」

「聖女様思いっきり蹴飛ばしてたじゃないか」

「あ、バレてた?」


 ケラケラ笑う様子は可愛いな。

 聖女パルフェは小柄で表情豊かだし、こんな妹が欲しいってちょっと思う。


「あたしが平民だから因縁を付けてきたのかな?」

「そうだと思う。聖女様はあまり貴族にウケがよくないから」

「そーなの? 可愛過ぎるから嫉妬されるのかな?」

「違うよ!」


 聖女パルフェが首をかしげている。

 本気でわかってないみたいだな。

 でも聖女パルフェの行動は、どう考えても聖教会の規範に則っている。

 貴族間での悪評も、癒しの訪問を断られた一部の者が広めているだけのような気がするんだけど。


「まーいーや。全員に好かれるというのは所詮ムリだろ」

「見切るなあ。でもダドリーはまたネチネチ来ると思うよ」

「ええ? もっとハンサムな男子にネチネチされたいんだけど」

「オレとしては聖女様が標的になってくれてると、こっちに被害が及ばないから嬉しい」

「聖女を敬う精神がまるで感じられないところに好感が持てるね」


 何で好感?

 聖女パルフェの感覚よくわからない。

 単に面白好きなのかな?


「まー意地悪令息は楽しみが残ったことにしよう。ところで殿下のお付きの眼鏡の人、知ってる?」

「いや、知らない方だな」


 年齢は二十歳を超えたくらいか。

 油断ない目付きが切れ者って印象だ。

 でも装いからすると武官じゃないようだ。

 王家の学生の従者は側近候補の近衛騎士が通例って聞いてたけど。


「あの人感知魔法使ってるんだ」

「そうなの?」

「うん、宮廷魔導士かな?」


 ユージェニー嬢の件がある。

 単純な武力よりも魔法の実力を重視してるのかもしれないな。

 普通に考えて、学院内で殿下に武官が必要な場面って考えにくいし。


「挨拶しとこうか」

「えっ? どうやって?」


 クインシー殿下の周りにはたくさんの人が集まっている。

 あの中に突っ込むほど、男爵家の子は心臓が強くないの。

 あれ、聖女パルフェは向こうに行くふうでもないな?


「よっと」


 何をしたんだろう?

 殿下の眼鏡従者が驚いたような顔をしてこっちを見た。

 それに対して聖女パルフェが笑って手を振っている。


「今のは? どうやって殿下の従者に合図したんです?」

「ちょっと魔力を膨らませただけだよ。感知魔法使ってるなら当然気付くから」


 ふうん、なるほど。

 魔法って色んな使い方ができるんだなあ。

 魔道の講義を聞くのも魔法クラブに入るのも楽しみになってきた。


「あ、先生来た」

「アルジャーノン先生が担任か」

「はい、従者の皆さんは御退出ください。今日はまず、選択科目と課外活動の希望票を提出していただきます」

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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!
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