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第29話:学ぶべき

 ――――――――――同じ頃、イルートのハンターギルドにて。アナスタシウス元大司教視点。


「いーち、にーい、さーん、しーい……」

「あおいそら、しろいくも……」

「よんとごをたすから……」


 真剣に石板を見つめている。

 うむうむ、真面目でいい子達だ。


 最近の私の役どころは、パルフェがハンター活動で留守をしている間、ギルドで子供達に簡単な読み書き計算を教えることだ。

 教師のマネ事もなかなか悪くないものと知った。


 パルフェが言っていた。


『おっちゃん。ちっちゃい子達にとって、読み書きを覚えられるかはその後の人生に関わるんだよ。教えてあげてくれないかな?』


 もっともなことだ。

 王都コロナリアの、特に商家にあっては平民であっても比較的識字率は高いとされていた。

 しかし地方へ行くとそうもいかない。

 読み書き計算のできないことが情報収集や移動あるいは就職を妨げ、ひいては発展の阻害や貧困の原因となっていることは、私も王家の一員として知っている。

 他国ではあっても、そうした現状を打破できる教育の現場に関われることは喜びだ。


 何もしていないで待っていることは、私としても苦痛ではあるしな。

 そして子供達も学べる貴重な機会であることを理解しているのが偉い。


「アナさん、すまねえな」


 振り向くと頭を掻いているハンターの男がいる。

 私が教えている子の親でもある。


「いやいや、いいのだ。物覚えのいい子達には教え甲斐がある」

「そう言ってもらえるとありがたいぜ。ハンターなんて学のないやつが多くてよ。やっとこさ自分の名前を書けるくらいだ」

「そのようだな。私にできることならば協力しよう」


 頷くハンターの男。


「子供には教育をつけてやりてえんだけれどもよ。私塾は月謝が高えだろ」

「しかしハンターに教育は必要ないであろう?」

「ハハッ、自分の子供をハンターにさせたい親なんていねえよ」

「そうなのか?」

「危ねえからな。一つ間違えれば命のやり取りになっちまう」


 大喜びで魔物狩りしているパルフェはやはりどこかおかしい。

 わかってはいたが。


「パルフェはウートレイド王国の中でもハテレス辺境区という、魔物の多い地区の出身なんだ。そこで冒険者、ここで言うハンターをしていてな」

「らしいなあ。でも嬢ちゃんには天職だろ」


 笑う男。

 パルフェにとって冒険者が天職というのはその通りだな。

 パルフェの父御殿も同じことを言っていた。


「魔法ってのは撃ってドカーンというものだと思ってたんだ。あんなに自由で応用の利くものだとは知らなかった。目から鱗が落ちたぜ」

「確かに。パルフェは魔法も生き方も自由だな。聖女として王都に招聘しようとした時、初め渋っていたんだ。魔物の肉を狩って食べることができなくなるからとな」

「ハハッ、嬢ちゃんらしいぜ」

「ハテレスでは冒険者がもっと自信に溢れていて、尊敬されていたような気がするんだ。イルートのハンターとどこが違うのかがわからない」


 ここイルートでハンターの数は多い。

 町を守る立派な者達だと思うが、どうも町の者がハンターを見る目は冷めているように思える。

 この男自身にしても、自分の職業であるハンターを評価していないようだ。

 他の職業に就けないあぶれ者がハンターになっているのではないか?


「魔法を使えない者がほとんどだろう?」

「魔法を使えりゃわざわざハンターなんかにならねえよ」

「それは……ん?」


 慌てた様子で数人のハンターが入ってくる。


「おい、嬢ちゃんいねえか?」

「クエストに出てるぜ。どうしたんだ?」

「重傷者だ!」


 簡易的な担架に乗せて運ばれてきた若い男がぐったりしている。

 しかし血が止まってない。

 このままだと死ぬ。

 急いで男の腹に手を当てる。


「ヒール! ヒール! ヒール!」

「あ、アナさんあんた、回復魔法使えるのかよ?」

「ほんの基礎だけだ……血は止まったな。まず命はとりとめるだろう。身体が冷えないように注意しててくれ」


 学院高等部では魔道についての講義もある。

 実技では自分の持ち属性の魔法を、最低一つは使用できるようにならないと単位がもらえない。

 私は当時すでに聖教会入りが決まっていたから、回復魔法ヒールも習得したが。


「あ、ありがとうありがとう。まだこいつ駆け出しでよ。アルミラージなんぞに腹を突かれやがって……」

「私は聖属性持ちではないので、ヒールを連発しても血止めするのが精一杯だ。パルフェが帰ってきたらもう一度診てもらってくれ」


 ケガした若者の呼吸が落ち着いてきている。

 意識は戻らないが問題ないだろう。


「な、なあアナさん。回復魔法って聖属性持ちじゃねえと使えないんじゃねえのか?」

「一般にそう思われているが、実はそんなことはないのだ。先ほどの私程度の回復魔法ならば、誰でも使えるようになる」


 しかしもちろん聖教会の癒し手は、聖属性持ちで比較的魔力の多い者を厳選してスカウトしている。

 効率が違うからな。


「たっだいまー。本日も大漁! ギガトード祭りだ!」


 パルフェ達のパーティーが御機嫌で帰って来た。


「もうおまえらはカエル狩るなって言われちゃったぜ」

「ギガトードの売値が下がっちゃうんだって。カエルで生計立ててる人もいるから遠慮しないといけないねえ」

「そんなことより嬢ちゃん。こいつ診てやってくれ」

「んーケガ人? ヒール!」


 さすがはパルフェ。

 一発で全部傷が塞がった。

 聖女の実績は伊達じゃない。


「もう平気だぞー。でも失った血は回復魔法じゃ戻んないから、しばらくお休みしてもらってね」

「ああ、助かったよ」

「えらい大ケガじゃん。どうしたの?」

「ウサギに突進されたんだ」

「アルミラージか。案外動きが素早いし、目が合うと向かってくるから危ないよね。油断してちゃいけない魔物ナンバーワン初級編だわ」


 何だそれ?

 パルフェの言うことは時々わからない。


「こいつ嬢ちゃんが一瞬の内にアルミラージの首刎ねたの見ててよ。大したことない魔物だと舐めてたんだぜ」

「そりゃごめん。ズタボロになると買い取り価格安くなっちゃうから、つい一太刀で仕留めたくなるんだよ」

「若いやつにはなるべく経験させてやってくれ」

「オーケー。今後はそうするよ」


 魔物退治を行っている者の中でパルフェが最も若いのだが。

 雰囲気は大ベテランだ。


「アナさんが応急でヒールかけてくれなきゃ危なかったんだ」

「おっちゃんヒール使えたのか。てかヒールってハンターギルドでは誰が使えるんだっけ?」

「D級以下のやつらは誰も使えねえ」

「マジか。えっ、ちょっと待って。このギルドにC級以上なんていたっけ?」

「誰も回復魔法使えないのか。パルフェ、問題があると思わんか?」

「思う。ケガ侮ってると死ぬぞ? ヒールくらいは全員覚えといた方がいいんじゃないかな」


 ソワソワと挙動不審になるハンター達。

 何だか面白い。


「い、いやもちろん回復魔法を覚えといた方がいいのはわかるけどよ」

「ああ。習得にいくら金かかるかわからねえ。先生もいねえ」

「あたしやおっちゃんでよければタダで教えるよ。いいよねえ?」

「構わない。喜んで力になろう」

「本当かよ、ありがてえ!」


 どっと歓声が上がる。

 周囲に魔物が多いこのイルートの町で、ハンターのスキルが上がることは重要だ。

 ハンターの地位も上がるのではないか?


「魔法はその人の素質によって効果が違うし、馴染みがないと覚えるの大変だよ。でもヒールくらいの基本的な魔法は必ず使えるようになるからね。気合い入れろっ!」

「「「「「「おう!」」」」」」

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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!
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