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第24話:断罪

 ――――――――――自然派教団のテロから三日後、王都聖教会本部礼拝堂聖務室にて。ゲラシウス筆頭枢機卿視点。


「あたしが悪かったです。マジでごめんなさい」


 アナスタシウス大司教猊下が出張先のエインズワース公爵領から帰還すると、すぐに王都聖教会幹部全員と聖女パルフェが招集された。

 教会幹部の前で小娘が殊勝にも頭を下げている。

 自然派教団のテロがあったにも拘らず眠りこけていて、一番人員が必要だった時間帯に魔物退治にもケガ人の癒しにも参加できなかった件についての査問である。

 有り体に言えば吾輩がリザレクションの必要な患者を押し付け、小娘が魔力を使い果たしたせいである。

 ああああ、胃が痛むである。


 カーティス聖堂主管とナイジェル神職長がカンカンに怒っている。

 聖堂主管は信者の動向に最も敏感であるし、神職長は貴族の反平民聖女派の突き上げを食う立場であるから、当然といえば当然である。


「ごめんなさいですむことじゃない!」

「あり得べからざる失態です! 帝都の危機に聖女が寝坊して職務を怠ったなど聞いたことがない!」

「ゲラシウス殿の水際立った指揮があったからこそ危機は防がれた。しかし聖女たる者の怠慢が世に漏洩したら、聖教会の権威が地に落ちますぞ!」

「ああ、この事態を信者達にいかに釈明すべきか!」


 ああああ、吾輩のせいなのである。

 持ち上げられる立場にないのである。


 しかし小娘は全然言い訳せぬな?

 これだけ白い目を向けられ糾弾されているのに、あれだけ堂々としていられるとは、どれほどの心臓の強さであろうか?

 羨ましいである。

 ちょっと尊敬してしまうである。


 アナスタシウス大司教猊下が小娘の意見を聞く。


「パルフェ、君の見解を聞かせてくれ。三日前何があった?」


 ああ、小娘が正直に白状したら、吾輩身の破滅である。

 どうしてこんなことになったであるか?

 吾輩が何か悪いことでもしたであるか?


 ああああ、資金を作って大司教猊下を追い落とし、後釜に座ろうなどと不埒なことを企んだのは事実である。

 もう心から謝るである!

 神様聖女様、どうか吾輩を救ってください!


「一日お休みをもらったから寝てたんだ。ごめんよ、事件が起きたことには全然気付かなかったの」

「自室じゃない場所で寝てたそうじゃないか。それは何故だ?」

「あの部屋のベッドは寝心地がいいんだよ。休みの日はいつもあそこで寝てた」

「ふうむ? 休みの日は街へ繰り出していたのではないのか?」

「いや、街へ出るのは癒しの奉仕が終わってからだけだよ。それこそいつもお姉ちゃんとか他の癒し手の修道女さんと行ってた」

「シスター・ジョセフィン。間違いないか?」

「はい、奉仕の後に街に遊びに行くことはありました。パルフェ様が休みの日にずっと寝ていたということは知らなかったですけど」

「大分王都の道や物価がわかってきたから、そろそろ一人で出歩こうかとは思ってたんだ。だってお姉ちゃんは腕のいい鍛冶屋とか武器屋とか知らんのだもん」


 そりゃ公爵令嬢で修道女のシスター・ジョセフィンは鍛冶屋や武器屋などに用はないであろうが。

 えっ、これはひょっとして聖女ジョークであるか?

 誰もしかつめらしい顔を崩さないであるが。

 この期に及んでジョークを挟めるメンタルが恐ろしいである。

 あやかりたいである。


 なおも議論が続く。

 

「世論の矛先が聖女パルフェに向かうと手遅れになります。その前に断固たる措置を取るべきです」

「私もカーティス聖堂主管に賛成です」

「いや、国防結界の維持にパルフェ様の魔力は必要ですよ」

「シスター・ジョセフィンがいる! 結界の維持には問題がない!」

「問題がないという意見には、聖堂魔道士長として賛成いたしかねますな」

「ならば言い換えよう。聖女パルフェ招聘前にも結界維持は十分可能だったと。それは間違いではなかろう?」


 カーティス聖堂主管とナイジェル神職長の反対意見が強硬である。

 わかるである。

 わかるであるが、その舌鋒は吾輩に刺さるのである。

 勘弁して欲しいのである。


「そもそも自然派教団のテロで大した被害が出なかったのですから、責任問題にはならないのではないですの?」

「逆です。大きな被害が出たのなら、今後聖女の癒しの術に期待される向きはあった。しかし今回の事件で何もしていなかったことが知られてしまったら、何のための聖女なのだと非難が集中してしまう」

「あれほど庶民人気の高い聖女ですぞ?」

「パルフェ様はとても愛らしいですの。アイドル的な人気がありますの」

「だからこそ大失態で掌を返されてしまうと言いたいのです」

「パルフェ様が魔物を間引いていたからこそ、被害が少なかったという側面があるでしょう。それは軽視できませんぞ?」

「証明ができぬ。それに失策が帳消しになるわけでもない」

「貴族からの風当たりが強い現状で、庶民の支持を失うわけにいかないでしょう?」

「その貴族からの風当たりが問題なのです。このままでは聖教会が貴族派と庶民派に分裂しかねない!」


 ヴィンセント聖堂魔道士長、マイルズ聖騎士団長、シスター・ジョセフィンは聖女擁護派であるようだが、あくまで受け身である。

 カーティス聖堂主管とナイジェル神職長の攻勢が鋭い。

 ああ、情勢はどうなのであろう?

 小娘を切り捨ててでも吾輩生き残りたいである。


 苦虫を噛み潰したような顔の大司教猊下が言う。


「パルフェはこれ以上弁解することはあるか?」

「ないでーす」

「ならばパルフェを残留させるか否かで決を採る」

 

 残留かそうでないのかの選択であるか?

 大司教猊下は自分で連れて来た聖女パルフェを追放してもよいと考えているようだ。

 意外である。


「パルフェを聖女と認め、聖教会に残留させることに賛成の者は挙手せよ」


 手を挙げたのがヴィンセント聖堂魔道士長、マイルズ聖騎士団長、シスター・ジョセフィンの三人。

 え? 三人?

 大司教猊下は賛成せぬのか?


「聖女パルフェを罷免し、ウートレイド王国から追放処分とする」

「追放ですか? それは重い……」

「いえ、それくらい重い処分を科したという事実が必要です。猊下の判断を支持いたします」


 決定か、致し方なし。

 吾輩の責任はどうなるのだろう?

 小娘が騒ぎ出したら吾輩も追放されそうである。

 おしっこちびりそうである。


「クビかー。居心地もお給料も良かったから残念だけど、まーしょうがないな。皆さんお世話になりました」

「パルフェの手綱を取れなかったのは私の責任だ。私も聖教会を去る」

「え? 猊下までいなくなられては……」

「誰かが責任を取らねばならない。でないと今度は聖女に責任を押し付けたと、聖教会自体が批判に晒される余地を生んでしまう。そうなると矛先を躱せぬ」


 なるほどの道理である。

 さすがに大司教猊下は冷静に判断を下すである。


 大司教猊下が自嘲気味に言う。


「私は陛下と角突き合わせる関係であるしな。この辺が潮時であろう」


 しかしどうなっているであるか?

 切れ者で邪魔者の猊下までいなくなるであるぞ?

 いやいや、そんないい目ばかり出ることはないである。


「幸いゲラシウス殿が十分大司教職を務めることができることが証明された。後任の大司教に推薦するが、反対者は?」


 いない。

 吾輩が大司教に就任?

 本当に?


「ゲラシウス殿には難しい舵取りを任せてしまうが、よろしいか?」

「こ、この命に代えましても」

「私とパルフェは、明日には出立する。解散」


 思わぬ形で大司教の座が転がり込んできたである。

 騙されているのではないか?

 夢なら覚めないでくれ!

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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!
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