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第23話:テロ

事件です。

 ――――――――――さらに数日後、王都聖教会本部礼拝堂にて。ゲラシウス筆頭枢機卿視点。


 リザレクションによる治療もクインシー殿下を含めて八人目になるであるか。

 いつものように倒れ伏して意識をなくしている小娘をベッドに寝かせる。

 まったく御苦労なことである。


「お? おおお?」

「身体のお加減はいかがですかな? ベンジャミン殿」

「う、動きますぞ! 手も足も! 奇跡だ!」

「よろしゅうございましたな」


 今日の患者は海外との積極的な貿易で巨万の富を築き上げた、豪商のベンジャミン殿だ。

 その保有財産以上に豪奢な私生活で知られている、酒と食と美女をこよなく愛する御仁である。

 数年前の頭の血管の病で、命だけは取り留めたものの半身に麻痺が残ったと言っていた。


「魔法医にも見捨てられていたのですよ」

「聖女パルフェの魔法は技量が違いますからな」

「身をもって実感しましたよ。これは素晴らしい!」


 ベンジャミン殿の手足の麻痺もまた、魔法医が見放した症例だ。

 クインシー殿下の件は手打ちのために謝礼の一部を魔法医連に回したが、それ以降は吾輩が独占している。

 小娘の元に連れてくる患者はいずれ劣らぬ資産家貴族や大富豪だ。

 ぼろ儲けも極まる。

 笑いが止まらんである。


「注意点は覚えておられるであるか?」

「暴飲暴食はするな。野菜を食べろ。歩いて筋力を付けろ、でしたな」

「聖女パルフェによると、血管が弱って破れやすくなっているようなのですな。生活習慣が変わらぬと再発する可能性が高いと」

「いやあ、同じことをやらかしたら二度と治さんと言われてしまいますと、従わざるを得ませんよ」


 心からの笑いを見せるベンジャミン殿。

 実はリザレクションによって、弱い血管も元のようにある程度強くなっているとのことであるが、そこまで説明することはあるまい。

 

「礼金と布施に関しては近日中に間違いなく届けさせます」

「それからこの件に関しましては……」

「おっと、秘密にするのでしたな」

「さよう。魔法医が見放したほどの患者の治療には、聖女パルフェの膨大な魔力を使い切ってしまうくらいの魔法が必要である。聖女パルフェは自分の魔力を国のために使うべきと考えておるため、そうした大魔法を個人に用いることを潔しとせぬのです」

「わかります。しかし聖女様でなくては治せぬ患者は多いでしょうなあ」

「残念ながら聖女パルフェの身体も一つしかないのです。人の価値は平等ではない。聖女パルフェの魔力を使って治すべき価値のある人間は吾輩が選ぶである」


 大きく頷くベンジャミン殿。

 人の価値に優劣をつけるのは傲慢であろうか?

 吾輩はそうは思わぬ。

 吾輩が間違っているならば、生まれた時に既に身分や能力に差を付けてしまっている神が悪いことになってしまうではないか。

 それは神に対する不敬である。


 ベンジャミン殿が残念そうに言う。


「聖女でなければ我が商会にスカウトするところなんですがなあ。これほどの人材をみすみす逃さなければならないのは口惜しいです」

「ハハッ、聖女パルフェにはそう伝えておくである。ベンジャミン殿にそれほど評価されたことを知れば喜ぶと思いますぞ」

「おっと、目立ってはいけないのでしたな。では早々に退散させていただきます」

「ベンジャミン殿の人生に祝福あれかし」


 従者とともに裏口から去っていくベンジャミン殿。

 筋力の問題か、やや歩き方が頼りないであるが、それでも杖すら必要としない。

 さすがは小娘のリザレクションである。

 性格と魔法の効果は反比例するのか、それとも無礼さに比例するものなのか?

 いずれにせよよきことだ。


 小娘がこんこんと寝ている。

 寝顔は可愛いである。

 いつも寝てればいいである。


 さて、吾輩もたまにはホールの様子くらい見てくるか。

 む? 少々騒がしいな。

 助祭服を着ている男を捕まえて事情を聞く。


「どうした。何があった?」

「あっ、ゲラシウス様。大変です! おそらくテロです!」

「テロだと? 詳しく話せ!」

「申し訳ありません。私もそれ以上のことは……」


 ちっ、使えぬやつめ。

 情報を持っていそうな教会幹部はどこだ?

 やはり人の集まっているホール中央へ。


「ゲラシウス殿!」

「遅れてすまぬ。どうした? 現在の状況は?」

「自然派教団の破壊工作です。『魔の森』の魔物除けの札が剥がされ、大柵が壊されました。魔物が街中に多数放たれています。聖騎士団は既に出動しております!」


 自然派教団か。

 魔物は友人とぬかすキチガイ連中どもが。


「落ち着け。国防結界が壊されたわけではない。『魔の森』の魔物の強さはたかが知れておる」

「しかし、既にケガ人が多数出ております」

「ふむ、大司教猊下はどうされた?」

「エインズワース公爵領へ出張です。事情を知らせる急使を派遣しましたが、お帰りは二、三日後になるかと」


 つまり現状では吾輩がこの変事に指揮を取るべき、聖教会最高位の聖職者ということか。

 面白いではないか。

 吾輩はやればできる男なのだ。

 手腕を見せ付けてくれる。


「ゲラシウス筆頭枢機卿の指示を仰ぎたく」

「そうだな。カーティス聖堂主管!」

「はっ!」

「情報収集が貴殿の役目だ。魔物の活動域、ケガ人の数、自然派教団どもの逮捕状況など、必要な情報は教会幹部で共有するゆえ、わかりやすく整理せよ。それと王宮からの連絡があればすぐさま吾輩に知らせよ」

「了解であります!」

「ヴィンセント聖堂魔道士長!」

「はい、ここに」

「魔法医連と連絡を取れ。どうせケガ人は聖教会に運ばれてくるに決まっておる。協力を要請し魔法医を派遣してもらえ」

「わかりました!」

「ナイジェル神職長!」

「これに!」

「過去の癒し手の名簿をチェックし、王都住みで教会まで安全に来られそうな者を集めよ。それから癒し手以外の人員を各部署に振り分けよ」

「はっ!」

「シスター・ジョセフィン!」

「はい!」

「癒し手を統率し、治療に当たれ。緊急時のマニュアルは覚えておるな? 魔力のムダ使いは厳禁だ。軽症者は放置して構わぬ。重傷者の命を繋ぐことだけを最優先とせよ」

「あの、パルフェ様がいないのです。今日は休暇を取っていますので、どこかへ出かけたものだと思いますが……」


 さあっと青ざめる。

 そうだった、今眠りこけているあの小娘の魔力は空だ。

 何と間の悪い。

 起こしても役に立たぬし、吾輩の錬金術が露見してしまうではないか。


「どうすればよろしいでしょうか?」

「シスター・ジョセフィンよ。動揺してはならぬ」


 動揺しているのは吾輩である。

 心臓バクバクである。

 落ち着け、正しい指示は……。


「よいか? この際、聖女パルフェを当てにしてはならぬ。何故ならば聖女パルフェは希代の癒し手であると同時に凄腕の魔物ハンターである。外に出ているのなら、聖騎士団と協力して魔物の鎮圧に力を注ぐであろう。またそうしてくれた方が事態の鎮静化が早くなるのでありがたいくらいである。一方で自然派教団の妨害工作や魔物の大群に出くわしているなど、最悪身動きが取れなくなっていることもあり得るである。いずれにせよ、今いる人員で対処することを考えよ」

「わかりました!」

「諸君の奮闘を期待する!」


 ふう、吾輩一世一代の名回答だったである。


          ◇


 結局小娘が起きてきたのは夕方になってからであった。

 大慌てでリカバーをかけまくっていた。


 結果として聖教会の大きな失点にはならなかったであるが、小娘が寝過ごしていたことはどう捉えられるであろう?

 吾輩の責任なのである。

 ああ、まことに胃の痛いことである。

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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!
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