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第13話:聖女談義その2

「パルフェが貴族に呼ばれて断る理由は?」


 いかに野生の聖女と言えど、パルフェは聡い。

 野生だからこそ危機意識が働くのかもしれぬ。

 貴族の依頼を無碍にすれば自分の立場を悪くするということくらいわかっているはずだ。


「施しはお給料の内だけど、出張は違うからだと。施しを受けたければ教会までおいでとのことです」

「感心した。至極もっともではないか」

「小気味良いですな」

「まったくだ。聖教会の権威を見せ付けることにもなる。そのままでいい」


 ヴィンセントが眉にしわを寄せながら言う。


「しかし……修道士や修道女の中には貴族階級出身の者も多いでしょう?」

「それに問題があるのか?」

「実家から聖女来訪を催促されている者がいます。直接交渉してもパルフェ様は動かないものですから、険悪な雰囲気になりつつあるのです」

「……」


 めんどくさっ!

 何故王都に来てたった数日でこんな事態になるのだ。

 パルフェはとんだトラブルメーカーではないか。


 いや、それだけ聖女としての注目度が高いと考えれば、悪いとばかりは言えないな。

 貴族の圧力に屈しないとなれば、平民からの支持はそれだけ厚くなるかもしれない。


「先代の聖女ヘレンが癒しのために貴族邸へ赴いたことはあったのだろうか?」

「ないと思いますね。ただヘレン様は貴族の出でありましたから、時々お呼ばれすることはございましたよ」

「パルフェだってタダ飯食わせてやると言えば断らないだろう?」

「ハハハ、おそらくは」

「では、癒しを施すという名目で聖女が行幸することはない。癒し以外の名目ならその限りではない、との見解を出しておいてくれ」

「聖教会のメンツを考えてものを言え、ということですな?」

「そうだ。ああ、先にパルフェの意思を確認してな」

「わかりました」


 あちらを立てればこちらが立たず。

 まったく厄介なことだ。

 それはそれとして、マイルズ聖騎士団長にも確認しておかなければ。


「マイルズ。パルフェはもう数回『魔の森』に入っていると聞いたが」

「はい。『魔の森』全体の地形と魔物分布を知りたいと仰せられましたので、既に三回『魔の森』の魔物退治に赴いております」

「三回もか。肝心の魔物退治の方はどうだ?」


 『魔の森』の魔物退治は聖女の義務ではないので、断片的な報告しか入ってこないのだ。

 パルフェは辺境区で冒険者を生業としていたようだが、勝手の違う『魔の森』では通用しているのか?

 武器も置いてきてしまったようだしな。


「まっこと驚きました。パルフェ様は魔物退治の天才です」

「普通に『魔の森』での魔物退治に有効な攻撃を持っているということだな? パルフェは真っ当な魔法を使っているのか?」


 派手な攻撃魔法は面倒、ぶん殴る方が得意みたいなことを言ってたので少々心配だったのだ。

 武器がないから魔法を使っているのだとは思うが?


「真っ当、なんでしょうな。正直見たこともないような魔法の使い方です」

「ふむ? 貴殿は小回りが利かず、出の遅い魔法は戦闘に向かないという考え方ではなかったか?」

「はい、確かに。しかし技術というものは使い方次第だということが、パルフェ様の戦い方を見てよくわかりました。魔法は限定した場面でしか役に立たぬと考えていたことを猛省しております」


 発動が遅いというのは魔法の大きな欠点の一つだ。

 マイルズも付与魔法や回復魔法まで否定してはいなかったが、どうした風の吹き回しだろう?


「パルフェ様には隙がないのです。一人で魔物を倒しておられます。お供の我々はひたすら運搬係でして」

「一人で魔物を倒している? どういうことだ? 聖騎士が前衛を務めているのではないのか?」


 前衛が敵を食い止めるか牽制するかして、攻撃魔法発動までの時間を稼ぐのが、魔道士がいる場合の戦闘のセオリーだろう?

 パルフェが一人で魔物を倒しているなんて想像できないのだが?


「我々もそのつもりでした。しかしパルフェ様は聖騎士の誰よりも早く魔物の接近を察知し、ナイフを飛ばして魔物を屠ってしまわれるのです」

「ナイフを飛ばす?」

「護身用のナイフをお持ちです。土魔法で重力を操ることによって、空中を自在に動かせるのです」

「そんなことが可能なのか?」


 ヴィンセントが肩を竦めて言う。


「理論上は可能ですが、魔物の首を刎ねるほどの力など、普通ではとても不可能です」

「そうであろうな」

「ところがパルフェ様は風魔法で刃の切れ味を極限まで上げているのですな。それであの神技を可能にしている」


 思わずヴィンセントと顔を見合わせる。


「土魔法と風魔法を同時に発動しているのか?」

「そしておそらく感知魔法もです。真っ先に魔物に気付かれますから」

「パルフェ様の真に驚くべきところは、その魔法を扱う技能ですよ。莫大な魔力量に目が向きがちですけれども」

「完全にヴィンセント殿に同意ですな。パルフェ様は我々にも、自分の持ち属性の魔法くらいは使えた方がいいと仰るのです」


 それはそうだ。

 聖騎士ならば戦い方の幅が広がるだろう。


 マイルズが遠い目で語り出す。


「いや、実は我は風属性の魔力持ちなのです。学生時代、単位のためだけに風魔法を覚えました。そよ風を起こせたところで何の役に立つのだと教授に文句をぶつけたものですが……」


 私にも経験があるからよくわかる。

 学院で魔法を覚えても、それを役立てている者はどれほどいるだろう?

 専門の魔法職以外の人間にとって、魔法は上流階級の嗜みくらいに思われているんじゃないだろうか?


「パルフェ様のナイフの切れ味を見てしまいますと欲が出るのですな。我は今、パルフェ様に魔法の教えを乞うているのです」

「あっ、マイルズ殿ズルいではないか!」

「ハハッ、パルフェ様は教えを渋ったりはしませんぞ。切れ味付与の魔法はそう魔力を必要としないそうなので、身に付けようと思いましてな。実体を持たないゴーストなどに有効ということもありますが」

「うむ、聖騎士としてよい心がけではないか。して、成果はあったか?」


 マイルズとて魔道の基礎は学んでいるのだ。

 練度はともかくとして、簡単な魔法を発動させるに至るまでにそう時間はかかるまい。

 

「食事の準備の度、包丁の切れ味を良くしてくれと女房に頼まれるようになりました」


 アハハと笑い合う。


「パルフェ様のナイフの切れ味が強烈なイメージとして目蓋の裏に焼きついております。それがために習得が早かったのだと思います」

「イメージは大事ですな」

「もっともパルフェ様の域に達するまでは大変だと思いますが」

「パルフェ様の域に達すると、まな板まで切れてしまいますぞ」

「おや、それは一大事。女房に叱られてしまう」


 再びの笑い。

 幹部同士で談笑するというのも楽しいものだ。


「『魔の森』では問題はないんだな?」

「ありませんな。ああ、草食魔獣は大変美味いものだと知りました」

「ほう、マイルズは食べてみたのか?」


 そう言えばパルフェは魔物を狩って食うと言っていたな。

 私はそんな野蛮な食生活に付き合うつもりはサラサラないが。


「パルフェ様が血抜きから解体までやって下さるのです。そして美味しい部位もよく知っていらっしゃる。孤児も大喜びでしたぞ」

「孤児?」

「残った肉を気前よく孤児院に下げ渡すのですな」


 孤児に慈悲をかけるのは実に聖女らしいエピソードとも言える。

 が、聖女であるパルフェ自身が狩って解体した肉だということにモヤっとする。


 いい顔で笑うマイルズ。


「次の魔物退治が楽しみですよ」

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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!
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