夫人達との昼食
麗子達は、車でハリーファの家に戻ることになった。
車の中で、アイーシャはジャファルがなぜ第四夫人のことを知っているかを話してくれた。
どうやら、ジャファルは軍でファルハーナの兄と知り合いになったようだ。
ハルファーナとハリーファのデートの時に兄が付き添っていて、その話をジャファルは伝え聞いていたらしい。
家に着くと、タグリードが車を車庫に入れてくる間に三人は家に入っていた。
家の中の廊下を歩いていると、別の侍女と出会った。
『アイーシャ様。昼食の準備ができております。お客様もご一緒されますか?』
『では、全員で食べれるかしら?』
『皆様いらっしゃいますので、お呼びいたします』
侍女は頭を下げると、下がっていく。
アイーシャは麗子達に振り返り言った。
「それでは食事にしましょう。長旅でお疲れのところあちこち出掛けてお疲れでしょうから、美味しいものでも食べて元気をつけてください」
橋口が横でガッツポーズをするので、麗子はその手を下げさせた。
「あの、食事のマナーが分かりませんが、ご一緒でよろしいのでしょうか」
「お二人は外国の方なのですから、全てを完璧など無理ですから気にしなくとも結構ですよ。右手を使うことと、周りのマネをしてください。そうだ。私たちはあまり急いで食事はしないので、それは覚えていてください」
「はい」
麗子達が食事をするという部屋で待っていると、夫人達が集まってきた。
『こちらがお客様ですね。私はリーンです。よろしく』
「こちらは第二夫人のリーンです」
リーンは褐色の肌で、目が大きくキラキラした感じがする。髪は少し縮毛で、髪色は黒かった。ウエストもヒップもあまり変わらない、幼児体型をしていた。
『はじめまして』
麗子と橋口は立ち上がり頭を下げる。
『お上手ですね』
「?」
「言葉が上手です、と言っています」
麗子は『ありがとうございます』と言って笑った。
『ハーイ、私はマリア』
ブロンドヘアーで肌の白い女性だった。鼻が高く、整った顔立ちだ。
アイーシャが慌てて説明を入れる。
「第三夫人のマリアです。マリアは、イギリスに住んでいましたが、ハリーファが大学にいるときに見初められて妻になりました」
『?』
マリアは首を傾げた。アイーシャは麗子に何を話したかまでは言わなかった。
『簡単にマリアのことを説明しました』
『はじめまして』
麗子は同じようにマリアに言って、頭を下げた。
マリアはニッコリ笑っただけだった。
続けて女性が入ってくる。
四人の夫人の中で一番背が低い。肌は白い方で、髪は黒かった。体型は橋口に似て、胸が大きい。
『こちらが霊能者の方? はじめまして。私はファルハーナ』
アイーシャの言葉のトーンが少し変わった。
「こちらはファルハーナ。第四夫人です」
「……」
順番からわかっていが、麗子は『この人だ』と言う感じを態度に出してしまった。
『はじめまして』
『……』
アイーシャが麗子達の横に立って改めて説明した。
『ハリーファの件を解決してくださる霊能者の方です。こちらがサエジマ・レイコ。そしてこちらが、ハシグチ・カンナ』
二人は頭を下げた。
ハリーファの四人の夫人を見ていると、自国の芸能系ニュースで『世界の美しい顔ベスト100』とかやっているのがいかに嘘くさいかがわかる。ここにいるこの四人は上位の女性と比較してもさらに上を行く。モデルや俳優、歌手や有名セレブが美しいのは分かるが、そうやって顔が知られていない人の中にもこんなに美人がいるのだ。旦那は流石に王族だ、世界の美女のトップオブトップを集めることが可能なのだ。
「どうしました?」
「いえ、みなさん、息を呑むほどお美しいので」
アイーシャが笑い始める。他の三人がアイーシャに通訳を求めると、他の三人も爆笑する。
「さあ、食事ですから、座ってください」
麗子達も絨毯の上に座った。
食事を運んできた侍女に、アイーシャが何か言った。
夫人達も何かそれに合わせて言った。
侍女は恥ずかしそうに顔を覆っているものを取った。
奥からも、顔を出した侍女が照れたように出てきた。
「ほら、この侍女達は、どうですか?」
「……」
アイーシャは『侍女の顔』を見てどう思う、という意図だった。
全員が美しい。それこそ、芸能ニュースの『顔』などのレベルではない。この国の女性の美しさは、基準が高すぎるのだろうか。それともここが王族の家で、侍女達も選抜されているのか。
「みんな『美人』でしょう?」
「ちょっと、ショックです。皆さん、素敵すぎます」
アイーシャが侍女達に麗子がなんと言ったかを説明すると、全員が笑うようなリアクションをした。
「本当です。こんなに美女が集まっているのは、初めてです」
アイーシャが通訳するとさらに笑っていた。
マリアが言ったことを、アイーシャが翻訳する。
「マリアは、王国は昔から人の行き来が盛んだった土地だから、美女が自然と集まってきたんだと言っています。私自身のことは美女だとは思いませんが、こうやって周りの美女を見ると本当にそう思います」
「な、なるほど……」
麗子は本当に言葉も出なかった。
そのまま麗子達は食事を始めた。
初め麗子達は、食事の取り方に気を取られてしまい、味わえなかった。食べているうちに、やり方に慣れてくると食事も美味しく、楽しくなってきた。
ゆっくりと食事は続いていたが、麗子は橋口に小声で言った。
「(何か第四夫人から感じる?)」
「(まだ何も感じないんだケド)」
「(証とか言ってたよね)」
すると、部屋の奥で侍女達が騒ぐ声がした。
アイーシャが言った。
『どうしたの? 何盛り上がってるの?』
『レイコの服を替えてあげる約束だったので』
アイーシャが立ち上がると奥へ行ってしまった。
『これなんかいいんじゃない?』
『こっちの方が』
アイーシャも交えて、盛り上がってきたため、残りの夫人達も立ち上がって奥に行ってしまう。
「なんだろう」
「スマフォの翻訳はみんなバラバラに話しているところだと中々うまく出来ないんだケド」
二人がそんなことを話していると、夫人達は戻ってきた。
「侍女が集まっているところに行って見て」
二人が立ちあがろうとすると、アイーシャは付け加えた。
「カンナは座って見てて」
「見てて?」
「レイコは早く奥に」
麗子はわからないまま奥に行く。
しばらくすると、夫人達が注目する中、麗子が出てくる。
『おお…… いいじゃない。けど、こういうの、着る機会ないのよね』
『似合うわよ。セクシー』
『いいじゃない。着てきた服よりは布は少ないけど』
夫人達は喜んでいた。
麗子は困った表情で、体を隠すように身を捩っている。
「麗子、それほぼ水着なんだケド」
宝石などの装飾が加えられていているが、形は水着だ。
『後ろ向いて、腰振ってよ』
アイーシャが言う。
「レイコ後ろも見せて」
「えっ、恥ずかしい……」
アイーシャは立ち上がって麗子のところに行き、無理やり後ろを向ける。
『うわっ、それはエロいわね』
『レイコ、胸はあれだけど、お尻は格好いいわね』
『ちょっと興奮してきた』
麗子は震えながら、夫人達に向き直った。
「私の制服を返してください!」
『大丈夫よ、『制服』は今作らせてるから』
「ね、心配しないで、さ、次の衣装にチェンジよ」
昼食を兼ねた麗子のファッションショーはその後も、夫人たちが飽きるまで続いた。