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第四夫人の話

 タグリードが入り口の警備の者に麗子達について説明すると、門が開いた。

 車はゆっくりと奥の家の、車回しまで進む。

 車を止めると、タグリードがドアを開けて、順番に降りていく。

 最後にアイーシャが降りると、家から女性が一人出てきた。

『ナーディア!』

『怪我はない!? 慌ててこなくてもジャファルの都合はなんとかしたのに』

 しばらく説明もなしに話し続けているので、二人の間で何が話されているか分からなかった。

 その間に、タグリードは車を駐車場の方に車を薦めていた。

『どうぞ、お入りください』

「タグリードはどうしたんですか?」

「タグリードはこちらにはきません。車を置いた後、侍女達の待機部屋に行きますから、ご心配なさらず」

 ナーディアの案内で、麗子達三人はジャファルの家に入っていく。

 家の中は空調が効いていて、かつ明るく、心地よい空間になっていた。

 通路を歩いてからある部屋に入る。

 入り口で靴とアバヤを脱ぐと、毛の深い絨毯の上を歩いていく。

『ようこそ』

 奥から男が現れた。強いオーラを感じる人物だった。

『こちらが夫のジャファルですわ。皆さんとは一度、空港でお会いしたことがあるとか』

 とナーディアが言った。

「こちらがジャファルです。お二人とは空港であったと思います」

 アイーシャがそう訳すと、麗子は会釈をして挨拶を返した。

「早速なんですが」

 麗子はポケットから耳栓を取り出した。

「ナーディアには聴かれたくないので、耳栓をしていただくことはできますか?」

 アイーシャが説明すると、ナーディアが麗子の手から耳栓を受け取ってつけた。

 麗子は耳につけるその様子をしっかり確認してから、ジャファルに向き直った。

「いくつか質問をさせていただきたいのです」

『質問? なるほど。私が一番最初に疑われると思っていたよ』

 麗子は手のひらをジャファルに向け左から右へ動かす。

 ジャファルは少し瞬きすると、俯いた。

「……」

 麗子はジャファルの状況が掴めなかった。

 だが、さっきまでの強いオーラが感じられない。麗子は命令(コマンド)が入ったと感じた。

「訊いてください。あなたは皇太子を妬んでいますか? と」

 アイーシャが翻訳して話と、ジャファルは首を振る。

『ことわざにある。妬みは一番不幸な気持ちだと。私は信仰に忠実に生きている。だから、皇太子である兄を妬んだことはない』

「我々の言葉に『妬みは一番不幸』という言葉があります。ジャファルは信仰者として、兄を恨んだことはないと言っています」

「ちょっと嘘くさいんだケド」

 橋口はそう言ったが、麗子は橋口に首を振った。

 麗子は飛行機の中で、警備員が話の流れの中で、『信仰について』話してきた事を思い出した。

 この国人々は、日々の生活の中で、信仰というものを意識する機会が頻繁にあるのだ。どれだけ信仰し、忠実に教えを守っているかは、その人の誇りであるのだ。だから、この答えが『嘘くさい』とは思えなかった。

「この国の人には信仰は重要な要素なのよ。本当のことを言っていると思うわ」

「……」

 麗子は次の質問を考えた。

「皇太子を妬む、恨む者に心あたりはありませんか?」

 アイーシャがジャファルに伝えると、ジャファルは首を振りながら、言った。

『信仰上、妬んだり恨んだりすることは…… いや、兄の第四夫人は…… 自由恋愛を望んでいて……』

 アイーシャはどこで翻訳していいか分からず、ジャファルの言葉を待っていたが、その後の言葉がないと判断して、麗子達に話し始めた。

「第四夫人のファルハーナは、別に好きな人がいたのにハリーファと結婚することになったから、その恨んでいるのではないか、と言っています」

「えっ? なんでジャファルがハリーファの第四夫人のファルハーナのことを知っているんですか?」 

「えっと、それは後で説明します」

 麗子は首を傾げるが、さらに次の質問を考えた。

「その他にこの件で何か気になることはありませんか?」

 アイーシャの通訳が終わると、ジャファルは言う。

『第四夫人が恨んでいるのと同じ意味で、スワイリフも皇太子を恨んでいる可能性があると思う』

 アイーシャの手がギュッと握り込まれる。

「特に他はないようです。とにかく早く調べて呪いを解き、兄を救ってほしい、と言っています」

「……」

 麗子は橋口の顔を見て頷くと、右手を開いて右から左に動かし、何かを掴むように手を閉じた。

 ジャファルの体が、震えるように動くと顔を上げた。

 すると、強いオーラが戻ってきた。

 威圧するような、強い意志を感じる。

「耳栓ももう結構です」

 ナーディアは麗子の仕草で判断して、耳栓を取った。

『どんなことがわかったんです?』

 アイーシャが答える。

『ファルハーナを調べてみろと』

 驚いたようにジャファルが声を荒げる。

『ファルハーナを調べるだって? まさかファルハーナが幽鬼(ジン)と契約したと言うのか?』

 アイーシャは聞き返す。

『これは幽鬼(ジン)の仕業なのですか?』

『それくらいしか考えようがないから、そう考えていたよ』

 ナーディアは言う。

『ファルハーナはファルハーナ・ビン・サルマーン・アル・ハッダート。ハッダートというとやはり、幽鬼の伝説は多いですから、ファルハーナがそういう秘儀を知っていてもおかしくはないです』

『ハッダート……』

 麗子は割って入った。

「すみませんが、今、何を話しているのですか?」

 アイーシャが言う。

「さっきのファルハーナの話です。ハリーファをお風呂から出さないように、ジン、そちらの言葉でなんというか、幽霊でしょうか。そのジンと契約したのではないかと」

「ファルハーナが犯人みたいになっていますが、なぜ?」

 アイーシャはジャファルとナーディアに向かって何か言ってから、麗子に向き直った。

「私もファルハーナがしたとは信じたくないのですが、ファルハーナの出身地ではジンの伝説があって」

「……」

 麗子は『ジン』を調べてみる。精霊などと訳されているが、『アラジンと魔法のランプ』で言うところの『ランプの精』や『魔人』と呼ばれるもののことだ。

 もし本当にそんなものを呼び出したり、操ったりしたら、ハリーファに呪いをかけたことに対し、何か代償を払うことになるだろう。

「第四夫人にあって話をしたいのですが」

 橋口も頷く。

「ええ。おそらく家にいますから、すぐに会えますよ」

 アイーシャにナーディアが問う。

『何を話しているの?』

『ファルハーナに話を聞きたいから、この辺で私たちは帰るわね』

 ジャファルが言う。

『本当に幽鬼(ジン)と契約したのなら何か証があるはずだ』

『……それはどんな?』

『そっちの専門家の方が分かるだろう』

 アイーシャは麗子達に視線を移し、じっと見つめる。

「ジンと契約した場合は、何か『証』があるそうです。わかりますか?」

「『証』が何を意味するかは不明ですが、霊の痕跡があれば分かります」

 アイーシャは頷いた。

『ほう、今回の霊能者は頼りになりそうだな』

 ジャファルはそう言うと、部屋の奥に下がっていく。

『では、帰ります。ごきげんよう』

 アイーシャはそう言うと、奥からジャファルが挨拶を返してきた。

 ナーディアはアバヤを羽織ると、靴を履いた。

『私は玄関まで送るわ』




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