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彼女と刑事の除霊事件簿 ガスト王国編  作者: ゆずさくら


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夜明け

『起きろ』

 夢の中で麗子は、某球団のマスコットのような、大きなツバメに顔を叩かれた。

『眠いのよ』

『いいから起きろ』

 ベッドの中からその大きなツバメを見て、麗子は考えた。

『あなた、アバビル?』

『そうだ。問題が発生した。早く起きろ』

 ベッドで体を起こした。

 まだ暗い。夜は明けてない時間だった。

 麗子はアバビルに通訳を頼むと、警備室に電話した。

『あの、ハリーファに何かあったんですか?』

 アバビルの問題が発生したと言っていたのは、皇太子(ハリーファ)のことに違いなかった。

『深夜、車で事故をされまして…… 救急搬送されています』

『えっ、事故? 車で?』

『ご夫人方は、すでに病院へ行かれています』

 麗子は電話を切って、シュルークに連絡をとる。

『ごめんね、シュルーク。寝てたでしょ』

『ハリーファ様のことで、侍女達はみんな起きたから、私も体は横にしていましたが、起きてました』

『病院へ行きたいんだけど……』

 麗子は時計を見た。

『……そうね、十分ほどしたら車回しに行くから』

『十分後ですね。はい。承知いたしました』

 麗子はすぐに橋口と有栖を起こした。

 文句を言いながらも、着替え、車回しに出た。

 ジープがゆっくりと車回しに入ってくると、三人は乗り込んだ。

 麗子はシュルークに訊く。

『ハリーファの容態は?』

 ハンドルを持っている手が、ぶるっと震えた。

『重体だって。間に合わないかも』

 麗子は重い口調で、橋口と有栖に伝える。

 病院に着くと、シュルークが言った。

『レイコたちはここで先に降りて。侍女がいるはずだから案内してもらって』

 麗子達が降りると、シュルークは駐車場に車を回しに行ってしまった。

 病院にいる侍女に話をすると、病室までの通路を教えられた。

 ハリーファのいる病室は異様なほど静かだった。

 看護師が心電図波形などを表示する、モニターや計測器類を静かに片付けているところだった。

「まさか……」

 間に合わなかった。

 ハリーファが死んだ。

 依頼を受けていた呪いのことを、なにも説明出来ないまま、本人が亡くなってしまった。

 第二夫人と第三夫人は、ハリーファに覆いかぶさり、声を押し殺し泣いていた。

 窓から、朝日が差し込んできた。

 夜明け。

 看護士はカーテンを整えて、光を遮った。

 外し終わった機器を看護士たちが押して出ていくと、そこにジャファルの姿が見えた。

「!」

 なぜ、看護士たちがいなくなるまで気がつかなかったのだろう。

 麗子は考えた。今のジャファルには、姿が見えなくてもわかるような、あの威圧的で強いオーラがなかった。ジャファル自身、自分に王位が回ってくることを望んでいたとはいえ、流石に兄の死を目にし、心が弱っているのだろうか。

 ジャファルは、麗子と目が会うと、静かに病室を出てきた。

 そして麗子達に向かって指で示した。

 ジャファルの後をついていくと、振り返った。

『お前達はもういい。帰れ』

『せめて夫人達に説明を』

『兄が死んだ今、あの二人に話す意味はない』

 麗子は目の前の男の企みを、誰かに伝えなければならないと思っていた。

『結局、あなたが望んでいた通りになったわけですね』

 麗子が言うと、一瞬で、ジャファルの強く威圧的なオーラが戻ってきた。

『何を言ってる』

『ファルハーナに香を渡して、ハリーファに呪いをかけるように促したのはあなたですよね』

 ジャファルのオーラに気圧(けお)される。何がある訳ではないのに、麗子には空気が波打ったように思えた。

『……今すぐ国外に退去するなら非礼を許してやる』

『香に毒まで混ぜて、ナーディアの口も封じるなんて』

 麗子は、自分の声が震えていることに気づき、頭で考えているより強く怯えていることを知った。

『警備員。こいつらをここからつまみだせ。このまま自国に帰るそうだ』

 クフィーヤをイガールで抑えた髭男が七、八人現れると、麗子の腕をとって、背中側に捻じ上げた。

「くっ」

 麗子の顔が苦痛に歪む。

「痛い!」

「強く絞り上げないんで欲しいんだケド」

 有栖も、橋口も同じように腕を捻じ上げられて、廊下を歩かされていた。

 病院を出ると、真っ黒なワンボックスが停車していて、スライドドアが開いた。

『こいつらを空港へ運べ』

 車が走り出すと、一番後ろの席にいる橋口が言った。

「麗子、このまま何もしないで帰るのは悔しいんだケド」

「かんなちゃん、無理言わないで。私たちは霊力ならジャファルに勝てるかもしれないけど、王国の権力を使われたら何も抵抗できないわ」

 有栖の言うとおりだが、橋口の言いたいこともわかる。

 知り得たことを誰にも伝えずにこの王国を去っていいのか。

 この証拠の状況では、警察も王族であるジャファルを起訴しないだろう。

 麗子達がどれだけ調べた内容を伝えたとしてもだ。

「……」

 上っていく朝日。

 次第にビルの影が短くなっていく。

 窓の外を流れていく街の風景を見ながら、麗子は考える。

 何かジャファルに仕返しできないだろうか。

「?」

 車は高架になっている道路に向かう。

『この道、本当に空港に向かってるんですか?』

 運転している警備の者が言った。

『この道は観光用の道路だ。ハリーファ様のためにずっと仕事をしてくれた君たちに、最後は少し観光ぐらいしてもらおうと思ってる』

 麗子はそれを二人に伝える。

 すると二人は窓に顔をつけるようにして外を見た。

 この観光用道路は、高架になっているがロードサイドの壁は低く、クリアな材質になっている。早く走り抜けるためではなく、風景がよく見えるように工夫された道だった。

 街を上から見下ろすと、また違った趣を感じる。

 やがて前方にブルジュ・ジャファルが見えてくる。

「ブルジュ・ジャファル」

 見ると、ビルの真ん中をこの高架道路が抜けている。

『ああ、ビルの真ん中をこの道路が貫通してるんです。ビル側にはこの道路を眺めるためのデッキもあります』

 ジャファルの前では腕を強く捻り上げた警備の人が、観光案内めいたことを言ったりして、妙に優しい。

『あそこは面白いですからゆっくり見てください』

『ありがとう』

 麗子はそう言った。

『そうだ。部屋にある荷物は、侍女達が全部集めて空港に運んでくれているはずだ』

『本当にお別れですね』

『アバヤやヒジャブとかは、そのまま持って帰ってくれ。いらないなら置いて行ってもいい。もし気が変わって改宗する気があるなら、持っていた方がいい』

 麗子は笑った。

『急に、寂しくなってきました』

『ほら、ブルジュ・ジャファルだ』

 麗子は外に視線を移した。

 車はスピードを落とし、ゆっくりと進む。

 ビル側にデッキがあって、道路側を見下ろせるようになっている。

 朝で店は営業してない。だから、誰もいない、と思われた。

「あっ、あそこに一人いるんだケド」

「かんなちゃん、あれって、第一夫人の……」

 デッキにいたのは、第一夫人の姿をしたロボットだった。

 麗子の脳裏に、ハリーファの事故が過ぎった。

 まるで目の前で車の事故が起こったかのように光景が重ねられていく。

 ハリーファも同じように、デッキにいるアイーシャの姿を見てしまったのだ。

 そして運転を誤って…

 麗子は目を伏せ、祈った。

 そして目を開けると、デッキにいるアイーシャの姿をしたロボットに手のひらを向けていた。




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