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彼女と刑事の除霊事件簿 ガスト王国編  作者: ゆずさくら


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最後の身体検査へ

 麗子は物音で目が覚めた。

 橋口はまだ寝ている。

 リビングを見ると、充電しているはずのロボットのアーヤがいない。

「……」

 他には誰もいなかったので、有栖が寝ている部屋に確認にいく。

 有栖は大きなリボンを頭につけたまま寝返りをうっている状態で、そこにもアーヤはいなかった。

 バスルームも探すが、いない。

 時間を見ると、もう朝というよりは昼の方と表現する時間だった。

 部屋の呼び鈴が鳴ると、麗子は言った。

「アーヤ?」

 扉を開けると、シュルークが立っていた。

『レイコたちは全員いるの?』

 翻訳する者が誰もいないせいで、シュルークが話している意味が分からない。

 ただ首を傾げるだけの麗子にシュルークは痺れを切らしてスマフォに言葉を入力して、変換してみせる。

『警備から連絡があって、第一夫人の姿をしたロボットが出て行ったらしいわ』

「えっ?」

 言葉で聞こうとして、ハッとして麗子もスマフォを取り出す。

「橋口も有栖もいるわ。私たちは何も命じてないけど」

 シュルークも両方の親指を使って素早く入力して、翻訳する。

『映像からするとアイーシャが乗った車に、同乗して行ったみたい』

「アイーシャが!?」

 アーヤがいないのもそうだが、アイーシャの方が重要だ。

「車の行き先はわかりますか?」

『警備室に行けばある程度は』

「私たちも追いかけます!」

『私は警備室に行って車の行き先を探査するようお願いして、ジープを準備します。出かける準備をしてください』

 麗子は急いで部屋に戻って橋口と有栖を起こし、急いで着替えて準備をした。

 橋口は眠い目を擦りながら、着替え始めると、言った。

「麗子、私、お腹が空いたんだケド」

「ちょっと、一食ぐらい我慢してよ、一大事なんだから」

 二人が着替え終わって有栖の部屋に行くと、まだ有栖は着替えの途中だった。

 必死にペチコートをつけている。

「ねぇ、アバヤで見えないんだから、意味ないでしょ?」

「ダメ。これはポリシーなんだから」

「もう! 先に行ってるわよ!」

 麗子は橋口を連れて先に入口に出て行った。


 麗子と橋口が外に出たものの、ジープはまだ来ていなかった。

「シュルークも何やってんのかしら。本当に皆んな、緊張感を持ってくれないと!」

「ジープ来てないんだったら何か食べれたんだケド」

「かんなも、私を怒らせたいの!?」

 その時、ツバメの大群が、鳴きながら周囲を旋回した。

「……」

 麗子の頭の中に、クフィーヤをイガールで抑えた、髭を蓄えた褐色の肌の男が現れた。

「誰!」

「麗子、何が見えてんだケド」

 このツバメの大群と同時に現れたこの男は霊鳥『アバビル』が姿を変えた者だと思われた。アバビルが麗子の体を使って小型ジェット機を操り、窮地を脱出したのだ。

 男のイメージが、麗子に語りかけた。

『急げ。そして戦え』

 言葉はわからなかったが、意味は通じた。

「戦えって? 誰と」

「だから何と話してんだケド」

 麗子は橋口に向かって、口を指で押さえて見せた。

「……」

『俺は従うべき者を待っていた。お前の信仰は違うが、お前に仕えると誓う』

 麗子が見ている風景に、あの(・・)曼荼羅がオーバーレイされて見えた。

 無量寿如来、他の言い方で阿弥陀如来、の位置だけ輝いて見える。

 そこに入る、というのだろう。

「これから戦うというなら、その戦いの結果を見て決めてもいい?」

『もちろんだ』

 男が無数のツバメに分解されると、ツバメの群れは曼荼羅の無量寿如来に入っていった。

『言葉は任せろ』

「麗子? 麗子? 目が光ったよ? 麗子? 何か、変なんだケド」

 麗子は呆然と立ち尽くしたままで、答えない。

 建物から、有栖が出てくる。

「有栖、麗子がおかしいんだケド」

 有栖が立ち止まって、瞼を伏せる。

 眉間に皺が寄っていく。

「霊が憑いたわ。悪いものじゃないけど…… 多分、この感じはあの時と同じ」

「あの時ってなんなんだケド」

「イングリテラーから帰ってくる時、めっちゃ飛行機操縦したでしょ?」

 橋口は頷いた。

 車回しに、爆音を上げてジープが入ってくる。

「危ない」

 シュルークが中から叫ぶ。

『急げっていうから急いだんだよ!』

「とにかく乗りましょう」

「麗子! 早く乗るんだケド」

 その声で、ようやく意識が戻る。

「ごめん、ぼーっとしてた」

 乗り込むと麗子は言った。それは、飛行機を操縦した時と同じで、異国の言葉だった。

『アイーシャの位置は掴めた?』

『ある程度は…… って、なんで話せるの?』

 麗子はシュルークに笑いかけた。

『ちょっとした魔法を使ったのよ』

『と、とにかく出発するわよ』

 ヒジャブやニカブで見えなかったが、シュルークの頬は赤くなった。


 ジープが通りを進んでいくと、突然、シュルークの電話(スマフォ)が鳴った。

『取って!』

 麗子が取って通話する。

『ん? この声はシュルークなのか?』

『私はレイコです。シュルークに伝えるから言って』

『アイーシャ様の車の信号が、ブルジュ・ジャファルの駐車場で検出された』

 そのまま、言い伝えると、シュルークが言い返した。

『そこ、ジャファル様のビルじゃない。なんでアイーシャ様が!?』

 ジャファル? 麗子は考えた。

 アイーシャの不倫相手はスワイリフで間違いないはずだ。だったらなぜジャファルのところに行くのだ。

『警備の方、すみません、アイーシャ様のロボットの位置は検索できませんか?』

『ああ、ちょっと待て…… 同じだ、同じブルジュ・ジャファルにいる』

 ロボットには麗子の式神が憑いている。

 麗子は指をぎゅっと握って集中した…… が、何も得られない。式神の力が弱っているのだろうか、場所が離れ過ぎたのだろうか。

『シュルーク、ブルジュ・ジャファルって何?』

『ジャファルの塔という意味よ。その名の通りジャファル様の所有のビルで、中は全て、ジャファル様所有の私企業・団体が入ってるのよ』

 ジャファル…… そうだ。そもそも一番最初に皇太子に『恨みを買うとしたら』と質問し答えたのは、弟のジャファルのことだった。ジャファルとハリーファは歳が近く、ハリーファが退位した後では、王位を継ぐことが難しいと嘆いていたのだ。

 ジャファルが幽鬼(ジン)を呼び出して命令するなら、湯に閉じ込めるのではなく、殺すだろうという先入観で呪いを掛けたのが夫人達だと決めつけていた。第四夫人からも呪いの契約が見つかり、ある意味それは正しかったが…… 本当に仕掛けたのはジャファルだったのではないか。

 ただ、それは麗子の予感や推測に過ぎない。

 事実は、アイーシャとロボットが今いる場所が、ジャファルのビルだということだけだ。

『とにかく急ごう』

 シュルークは必死にハンドルを操作している。

『頑張ってるから、急かさないで』




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