表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女と刑事の除霊事件簿 ガスト王国編  作者: ゆずさくら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/44

翌日のアイーシャ

 第一夫人のアイーシャは、自身部屋でスマフォを取り電話をかけた。

 スマフォには相手の名前ではなく、愛称が表示されている。

『おかけになった電話は電波の届かない所にあるか、電源が入っていません』

『……』

 同じ相手に、朝からずっとかけ続けているが、出ない。

 アイーシャは部屋を出る決断をする。

 扉から外見て、誰もいないことを確認すると部屋を出た。

 侍女が待機している部屋に向かうと、車の鍵を取った。

『あの、お出かけでしたらモナかタグリードに言いつけて頂ければ……』

 アイーシャは言った。

『車の中に忘れ物をしただけよ』

『それなら尚更』

『うるさい! 敷地内を車で走ってみたいのよ』

 皇太子の家の敷地内であれば免許はいらない。車は皇太子と夫人の共同所有物だ。侍女にはそれ以上口出しはできない。

 アイーシャはそのまま車庫に向かい、車のエンジンをかける。

 アイーシャは免許を持っていない。

 だが車でしか行けない場所に行く必要があった。

 敷地内をぐるっと回ると、自信がついたのか、車を門に向かわせた。

『アイーシャ様、失礼ですが免許がないと公道は……』

 そう言って警備の者が引き止めようとすると、アイーシャは怒ったように強く言い返す。

『大丈夫よ。すぐ戻ってくるんだから。いいから、門を開けなさい』

 門が開いた。

 ゆっくりと、しかし、強引に、他車の間に割り込み、車は走り始める。

 道は分かっている。

 何度も行き来していたからだ。

 市街地を出ると、前後を走る車がなくなり、直線道路だけになる。

 土煙を上げながら、軍の施設に向かう。

 施設の駐車場に、デタラメな置き方で車を駐車すると、施設から軍関係者が出てくる。

 いかにも軍の任務が似合う感じの大きい、タフな男だった。

 二人の間が近づくと、軍関係者が気づき、言った。

『アイーシャ様!? 本日は皇太子に面会する日ではないですが』

『今日は、スワイリフに話があります』

『スワイリフ様は紛争地域の指揮を執るために……』

 と言っている途中に割り込み、

『今は、一時的に戻ってきているでしょ! いいから退きなさい!』

 アイーシャより遥かに大きい軍関係者が、体を引くほど大きな声だった。

『ハッ』

 夫人に敬礼すると、今度はその大きな体でアイーシャを先導して歩き始めた。

 施設の建物に入ると、最短ルートを通って、スワイリフの執務室に着く。

 ノックをすると言った。

『スワイリフ様。皇太子夫人がいらしています』

 中からの返事がない。

『スワイリフ様?』

 軍関係者が耳につけていた通信機に、指示が入ったらしく、耳を押さえる。

 そのままアイーシャを見ていたが、男は言った。

『ここで失礼させていただきます』

 軍関係者が去っていく。

 スワイリフの執務室の前に、アイーシャだけが立っている。

 周りを見てから、アイーシャは扉を開けようとして、閉まっていることに気づくと、次は扉を叩いた。

『スワイリフ、いるのでしょう? 開けなさい』

『……』

『スワイリフ!? ねぇ、お願い』

 扉から廊下に声が聞こえてくる。小さすぎて、何を言っているかわからない。

『何? ねぇ、スワイリフ! 開けて』

『(開けられない。僕は戦場にいく)』

『スワイリフ?』

 扉を開けようと取っ手にしがみつくようにして懸命に動かす。

『どういうこと?』

『(もう会えないんだ、アイーシャ。ファルハーナが死んだ今、僕はもう生きる望みが)』

『ねぇ、お願い。スワイリフ、貴方だけが私の生きる理由なの』

『(帰ってくれ。僕は戦場に行かなければならない)』

 スワイリフの声を聞くと、アイーシャの目に自然と涙が溢れてくる。

『待って、扉を開けて、私を』

 廊下の端から、さっきの大きな軍関係者がやってくる。

『失礼します』

 そう言うと、男はアイーシャを軽々と持ち上げ、そのまま施設の外に連れ出してしまう。

 車にのせ、男が運転すると、あっという間に車は皇太子の邸宅に着いた。

 運転席を降りて、男はアイーシャのドアを開けに回り込む。

 車の中で、アイーシャは運転席に移動する。

 男は運転席の方の扉を開けると、あっさり夫人を捕まえ、車の外に引き摺り出してしまう。

『これ以上邪魔すると、ここで騒ぐわよ』

『……』

 男はアイーシャを捕まえている手を離す。

 アイーシャは再び車に乗り込もうとするが、男がアバヤを片手で掴むと、それ以上先に動けなくなった。

『夫人、諦めてください』

『!』

 引き留めているだけだった男の腕が、力強く引っ張り、アイーシャは車から大きく遠ざかってしまう。

 勢いが強すぎて、アイーシャは転んでしまう。

 アイーシャを引き剥がすと、男はそのまま運転席に乗り込んだ。

『……』

 運転席の窓を下ろし、アイーシャを見つめる。

 すると、男は乗れとばかりに顎を動かした。

 アイーシャには、青い肌の影が、男に重なって見えた。

『まさか、あなた幽鬼(ジン)なの? そうなのね?』

 アイーシャは立ち上がると、何かを思い出したようにスマフォを操作する。

 車に乗り込んで待つと、皇太子の家の建物から一人出てきて、何も言わずに車に乗り込んだ。

 扉が閉まると、車は静かに走り出した。

 車線と交差するように、紛争地域へ向け軍用ヘリが飛び去った。

 スワイリフを乗せて。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ