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彼女と刑事の除霊事件簿 ガスト王国編  作者: ゆずさくら


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不可解な二つの死

 第一夫人の部屋の前で、麗子と橋口は話を続けていた。

「自分で言っておいて、覆す理由はなんなんだケド」

「香木を売った売人が死んだのはいつなんだろう。初めから自殺するつもりなら、自分が香木を買ったとわかっても何も問題ない。死んだ後なら、どうでもいいことだと思うわよね」

 橋口は激しく頷く。

 そして指を一本立て、思い出したように言った。

「そうだ。香木を売ったところで出てきた青い肌の幽鬼が、なんか言ってたんだケド」

「“もう遅い“って言ってたわね。あれ、どういう意味だったんだろう」

「あいつが第四夫人の呪いを実行していた幽鬼(ジン)だったら、あそこにいる理由がないんだケド」

 麗子に、一瞬何かが答えのようなものが見えた。

 幽鬼(ジン)が言ったことが、例えば香木の売人のことだったら。売人を殺させないように幽鬼が来たが、売人が殺されてしまったということになる。すると、今度は売人を殺して得になるのは、第四夫人のはずなのに、と言う疑問が残る。

 “もう遅い“と言う意味が“呪い主“である第四夫人の死のことだったとしたら。邪魔をさせないと言うのは、呪いの代償を受け取ることを邪魔させない、と言うことになる。幽鬼としてその主張は当然だ。その意味なら、すんなり理解できる。

 では、なぜ香木売りの所に幽鬼(ジン)が居たのか。

 それがわからない。どちらの意味で言ったにせよ、なぜあそこにいるのか。

 第四夫人が幽鬼を使って香木の売人を殺しにきたのか?

 いや、それなら、わざわざ毒殺するだろうか。発見が早ければ、解毒して死なない可能性もあるのに。幽鬼であれば、棚を切り裂いた技で男を切り刻み、即死させれば済む話だ。

 結論を出すには、もう少し情報を集めるべきだ。と麗子は思った。

 皇太子の呪いも解けていないし、まだ何か見えていないものがあるに違いなかった。

「かんな、アーヤ。部屋に戻ろう」


 部屋に戻ると、アーヤには充電させた。

 麗子は部屋のカメラの死角に入ると、アーヤに言った。

「アーヤは、王国の警察資料にアクセスできる?」

『やったことがありません』

「じゃ、やってみて」

 橋口がやってきて麗子の肩に手を乗せた。

「麗子、ロボットに何させてんだケド」

「出来るだけ正確な情報が欲しいのよ。香木の売人の死と第四夫人の死の時間差がなさすぎる気がする。第四夫人が自殺したなら売人を殺す動機が薄くなるし、第四夫人が殺したのでなければ、第四夫人の自殺も怪しくなる」

「第四夫人と香木の売人の死が完全に無関係な場合もあるわけ何だケド」

 麗子は橋口の言ったことを考えた。

 売人は別の理由で、例えば借金などのトラブルで殺された。同じ頃、第四夫人は自殺した。可能性としてはなくはない。たまたま同じ毒を使ったと考えればいい。じゃあ、勇気はなぜ売人の所にいたのか。売人の死と第四夫人の死につながりがあるとしか思えない。

「確かにそうね。事実を積み重ねないと。警察が掴んだ事実を何とか手に入れないと」

「有栖が王国の警察と協力して情報を共有してくれると助かるんだケド」

「警察データのハッキングと並行して、それも頼もう」

 橋口は手を広げて、ため息をついた。

「……ハッキングって、はっきり言っちゃたんだケド」

「データが正しければ、ハッキングで手に入れたって問題ないのよ。私たちは犯罪を立証するんじゃなくて、皇太子を呪った人を見つけ出し、呪いを解く。呪いをかけた理由を知ることが重要なんだから」

 おそらく、王国の警察も同じ瓶から出た毒かの判定をする。クロマトグラフィーなのかスペクトル解析なのか、分析方法はどうでもいい。そしてそれぞれの建物の防犯カメラの解析も知りたい。自殺なのか他殺なのか、他殺ならば誰が殺したのか、誰が殺したまで分からずとも、誰が怪しいのか、容疑者の候補だけでも知りたい。

 部屋の扉が開き、麗子と橋口が、ハッとして振り返る。

「脅かさないで欲しいんだケド」

「警察に掛けあってきたわよ。情報が分かり次第、私に情報を流してくれるって。王国の人は結構のんびりしているみたいだけど、皇太子関連だから優先だし、急いでやるって言ってた」

 麗子達の方に近づいていくと、有栖が言った。

「現状、警察は毒の入った瓶は押収していたわ。香木の話をしたけどそれは警察にはなかった。部屋を探してまだ何かあれば調査すると言ってくれた」

「じゃ、香木が押収されていないと言うことは、やっぱり第一夫人が香木を持って行った可能性もあるわね」

 有栖は橋口と麗子の顔を交互に見た。

「それ。麗子ちゃんの頬についていた血の鑑定なんだけど」

「もう何か結果が出たの?」

 有栖は頷いた。

「確かにシャイタンという香木に特有の成分が混じっているって…… ただ、微量すぎてどこで触れたかはわからないらしい。つまり、第四夫人の部屋で焚いていたらそれだけでも出るでしょうね」

 有栖はアバヤやヒジャブを取り、部屋に投げ捨てるように放りながら、そう言った。

「私たちも第四夫人の部屋に入っちゃったんだケド」

「そうね。だから夫人の指に付着していたのか、麗子ちゃんの肌の方に残っていたせいかはわからない」

 麗子は別に気にしないという感じだった。

「まあ、あまり証拠としては役に立たないってことね」

「とにかく身体検査して契約の証拠がはっきりすれば一発何だケド」

 有栖は首を横に振って諦めの口調で言う。

「絶対調べさせてくれないだろうね」

「……」

 麗子は腕を組んで考え込んだ。

 直接、幽鬼(ジン)を呼び出して奴から聞き出すことは出来ないのだろうか。

 有栖は刑事だが、私と橋口は違う。探偵や刑事のやり方ではなく、除霊士には除霊士のやり方があるはずだ。

「私たちのやり方……」

「何ブツブツ言ってるんだケド」

 いつもの不思議の国のアリスの衣装から、寝衣の『不思議の国のアリス』に着替えながら、有栖が言う。

「今日はもう遅いわ。もう寝て、考えるのは明日にしましょう」




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