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王国への到着

 麗子達の国はガスト王国と国交はあるものの、その情報はあまり知られていなかった。

 ガスト王国の宗教は世界的に広く信仰されているものだった。しかしその宗教は、一部の者が過激派組織を形成し、その行動は世界を震撼させていた。同じ宗教を信仰する人間の印象が、非常に悪かったことでガスト王国も同じとみなされていた。実際はそのようなことはないのだが……

 タクシーで無理やりガスト王国の大使館に連れてこられた麗子達は、大使館の応接室のソファーに並んで座っていた。

 応接室のドアが開くと、屈強な警備の男二人に挟まれ、高齢の男が入ってきた。

 男は髭も白くなっていて、目元の皺が多く、どこに目があるのか一瞬戸惑うほどだった。

「君たちには、我が王国の皇太子を救って欲しい」

 わかりやすい言葉だった。

 永江所長は、少し笑みを浮かべてこう言った。

「除霊案件ですか? でしたら事務所に来ていただければ」

「君たちに断る権利はない」

 静かな物言いだが、断固たる決意が感じられる。

「……」

「皇太子に呪いをかけられた。世界中の霊能者を連れてきているが、いまだに解決していない。だから君たちを連れて行くことになった」

「すみませんが、私はいけません」

 永江は年齢と、基礎疾患の話をして、断った。

「では、君たち二人だけでいい。調査は済んでいる」

「じゃ、お願いね。麗子ちゃん、かんなちゃん」

 永江は立ち上がると手を振って応接室を出て行こうとする。

「えっ、どうしてそうなるんですか、私たち学生なんです。明日も学校が……」

 麗子も立ち上がるが、正面の老人が大きな声を出した。

「繰り返すぞ。君たちに断る権利はない」

 怒ったように顔に皺を寄せるせいで、輪を掛けて目の位置がわからなくなった。

「……」

 永江は小さく手を振りながら出ていってしまう。

「ブラックバイトなんだケド」

「ちょっと、何するんですか」

 屈強な警備員が麗子と橋口に手錠をかけようと、体に触れてくる。

 二人が抵抗すると、正面に座っている老人が言う。

「抵抗すると、永江所長がどうなるかわからんぞ」

「えっ?」

 永江所長は無事に帰れたのではなく、この扉の外で人質にされたのだ。永江は分かっていたのだろうか。

「わかりました」

 麗子と橋口は抵抗をやめた。手錠をかけられ、目隠しされてしまった。

 そのまま車に乗せられるとやたらジェットエンジンの音が聞こえる場所に着いた。ということは、おそらく空港だろう。そして階段を少し上がって椅子に座らされた。

 警備員の言葉によると、

「ハブ空港に向かう」

 ということだった。そこから、今度は大型のプライベートジェットに乗り換えるらしい。

 小さな飛行機が着陸し、大きな飛行機に乗り換えたと思われた。

 目隠しをしたままの二人は、どこにいるか分からない相手に向かって言った。

「いい加減、手錠と目隠し外して欲しいんだケド」

「そうね。目隠しされたまま飛行機乗ってると吐きそう」

 麗子がそう言うと、手錠はそのままだったが、目隠しは外された。

 目隠しを外した後、警備員は麗子達の目の前に、対峙するように座った。

「次に着陸する時はガスト王国だ」

 大使館に連れ込まれた時から、何時間も経っているが、窓の外は夜だった。

 麗子達の国からガスト王国へは、太陽から逃げるような方向に飛ばなければならないからだ。

 警備員がずっと黙っている。

 麗子が話しかける。

「退屈だから、仕事の内容を教えてくれない?」

「我々は連れて来いとだけ言われている。それ以上のことは喋れない」

「じゃあ、ガスト王国のことを話してよ」

 警備員は何か考え込むように黙ってしまう。

「君たちの国のように男女が好きなように歩き回ることはない。基本的に男性と女性は別々の場所で生活している」

「家族は?」

「家族は一緒にいることもあるが、家族でも基本的には男女は別々だ」

 麗子はなんとなく理解した。

「一日五回の礼拝、断食月があることかな」

「断食するの? 辛くないの」

「日中だけだ」

 警備員は麗子の様子を見て聞き返す。

「君たちの国を見ていて不思議なのだが、皆、信じるものはあるのか?」

「宗教のこと?」

 麗子は考えた。生活の中で、暗黙の規則やしきたりはあって、そのことを『何かを信じている』といえば信じている気はする。ただ、結婚式を教会式にして、年の始まりに神社に行き、死ぬと寺に入るのは、誰が見ても宗教ではないだろう。

「そうね。一部は政治利用されている宗教もあるけど。何も信じていないのかもね」

「無宗教はダメだ。それなら我々の神を信じる気にはならないか」

 そこから警備員は自国の宗教の話、信仰の尊さを話し始めた。

 断食は辛くなく、一日五回の礼拝も現代の生活で出来ない時もあるからそれは仕方ないとか、男女を分けるのは意味があるのだとか、話し続けられているうちに、眠気が襲ってきた。

 橋口はとうの昔に寝てしまっていた。

「ごめんなさい。寝させて」


 飛行機が着陸する前に、二人は起こされた。警備員がやってきて、手錠を外される。

 着陸すると、停止している機内で、二人には『ニカブ』と『ヒジャブ』そして『アバヤ』が渡された。機内で二人は制服の上からそれを羽織る。

「制服のスカートに穴が開いてたから、ちょうどよかった」

 タラップを降りると、東の空から太陽が昇ってくる。

 軍服をきた男達が数十人、麗子達の飛行機を囲んでいた。

 軍服の一人は頭にターバンを巻いていて、麗子達に歩み寄ってきて言った。

『ようこそガスト王国へ』

 鋭い眼光。

 体の奥底まで見通せるのではないかと錯覚するほどだ。

 普段接することがある人から感じたことのない、強いオーラがある。威圧的というべきか、支配的というべきか……

 言葉がわからないので麗子は、横に立っていた警備員に尋ねる。というか、言われる前に訳すべきだろう、と思ったがそれは言わなかった。

「今、この人なんておっしゃったのですか?」

「ようこそガスト王国へ、とおっしゃった。王族の方だ」

「分かりました」

 麗子が握手しようと、手を伸ばすとその警備員が止めた。

「家族でない男女が触れ合うことはない」

「……」

「国内ではずっとそうだ。注意するように」

 なら、出迎えは女性にして欲しかったな。と麗子は思った。




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