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彼女と刑事の除霊事件簿 ガスト王国編  作者: ゆずさくら


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第四夫人の部屋で

 皇太子の家に着き、車を降りた。シュルークが車を戻してくる間に、麗子はアイーシャの姿をしたロボットに、部屋に戻って待機するよう指示した

 夫人が亡くなったなら、他の夫人も来ることが考えられる。つまり、本物の第一夫人と、それを模したロボットが対面することになってしまうのだ。麗子としては、それを避けたかったのだ。

 夫人達の部屋が四つ並んでいるフロアに向かう。

 同じ方向に向いている部屋が四つ並んでいる。均等に愛することの証に、全く同じ構成の部屋を与えているのだ。

 第四夫人の部屋は、ストッパーがしてあって扉が開きっぱなしだった。

 麗子達が第四夫人の部屋に入ると、リビングの中央に布を被せられた遺体があり、それを侍女達が泣きながら囲んで立っていた。

 麗子は言った。

「これが…… ファルハーナ様、ですか」

 侍女は誰も反応しなかった。

 当たり前だ。通訳するものがいなければ、誰も麗子の言葉を理解できないのだ。

 橋口が侍女の間に入っていき、遺体に掛かっている布に手をかけた。

「第四夫人なんだケド」

 麗子達も橋口の後ろから、覗き込んだ。

 服から出ている部分に外傷はなく、リビングの周囲にも血痕はなかった。

 言葉が通じない為に、死因を聞けなかった。

「背中を見せてもらえますか?」

 誰もわからないだろうと思ったが、必死に身振り手振りで伝えた。

 麗子は侍女達の反応を見て、橋口に頷いた。

「じゃあ、見てみるんだケド」

 夫人の遺体の服を捲り上げ、褐色の肌の背中を見る。

「あったんだケド」

 読めない言語だったが、橋口にも、麗子にも、その意味はわかった。

 夫人の背中に浮かび上がっている文字の意味、それは

『契約完了』

 ということだった。

 呪いとその代償の支払いが終わった、ということだろう。代償は魂なのか、寿命なのか、呪い主が死んでしまっては、もはや知る術もなかった。

 橋口が丁寧に服を戻して、布を掛け直した。

 どこからか声が聞こえると、侍女達が次々に部屋を出ていった。

 麗子達をこの国に連れてきた警備の男が入ってきた。

「確認の結果はどうだった?」

「なんのことですか?」

 続けて、皇太子の弟、ジャファルが女性を連れて入ってきた。確かこの女性はジャファルの妻で、ナーディアという名だ。

『何かわかったか?』

 ジャファルが言うと、警備の男はもう一度聞いた。

「調べたんだろう? 何かわかったか」

 麗子は一歩前に出た。

「ハルファーナ様が、呪い主であることが分かりました。しかし、呪いの内容が皇太子を施設に閉じ込めるためのものか、と言うところまではわかっていません」

 警備の男が通訳をしていると、部屋の外から声がする。

 部屋の外からの声に、ジャファルは返す。

『構わないぞ』

 すると部屋に第二夫人と第三夫人が入ってきた。

 第四夫人の遺体にかかる布を取ると、二人とも目を伏せた。

 第三夫人が先に目を開け、振り返ると言う。

『どうして死んだのですか?』

 ジャファルが言った。

『侍女達の話や、警察の情報からすると、どうやら毒を飲んだようだ』

 ジャファル夫人のナーディアも言う。

『遺書のような走り書きもあったみたいね』

 第二夫人は第四夫人の姿を見て泣くばかりだった。

 第三夫人はさらに聞き返す。

『遺書? 毒薬? 自殺したってことですか?』

『そういうことになる』

 麗子は、警備の男の服を引っ張って通訳してもらった。

「毒って、なんか引っかかるんだケド」

「香木の売人も毒殺だったからよね。分かるわ」

 有栖はそう言った。

 麗子は警備の男に言った。

「もし第四夫人が呪いをかけたのなら、香木があるはずなんですが」

 警備の男は言った。

「侍女達に聞いてみる」

 警備の男は、部屋を出ていき、部屋の外で待機している侍女達に話をしている。

『私たち、夫人同士、しょっちゅう話してたのよ。自殺するとは思えない』

 第三夫人が言うと、ジャファルの妻が反応する。

『そんなに声を大きくしないで。信じられないのは分かるけど』

『走り書きって何』

 ジャファルは親指を立て、その指で背後を指すようにして言った。

『走り書きは、調べるために警察が持って行ったみたい。毒の入ったグラスも、毒の入っていた瓶も』

 麗子はそんなことより、夫人達の会話が気になって仕方がなかった。

 だが、警備の男には侍女達に話を聞いてもらってしまっている。同時に通訳することはできない。

 歯痒い気持ちで皇太子、ハリーファの夫人達を見ていると、有栖と視線があった。

 有栖はリビング側にいて、ジャファル達の近くで立っていた。

 麗子が見ていると、有栖は軽く頷いた。

「?」

「レイコ、侍女達の話だと警察が調べるために持って言ったのではないかということだ」

 麗子は気になることがあり、警備の男に近づくように部屋の外に出た。

「第一発見者とか、いつ亡くなったとかは話してなかったですか?」

 侍女達はバラバラに話し出し、警備の男がまとめるのに苦労していた。

「第一夫人が、第四夫人からの連絡がないと言ってハイファーと一緒に部屋に入ったら、バスルームで血を吐いて倒れていたそうだ」

「バスルームで?」

 服毒自殺をするなら、バスルームではなく、ベッドで飲み、すぐ横になって死ぬのではないか。

 王国の人間の考え方は分からないが、流石にバスルームで死のうとは思わないだろう。

「で、ハイファーと第一夫人は?」

「ハイファーは事情聴取で連れて行かれました。第一夫人はわかりません」

 部屋を振り返る。

 第四夫人の死を悼んで第二夫人、第三夫人が来ている中で、第一夫人だけいない。麗子は反対端の部屋を見つめた。それが第一夫人の部屋だった。

 侍女達に言った。

「部屋にいるなら、第一夫人を呼び出してもらえませんか?」

 侍女と一緒に第一夫人の部屋の前に行き、呼び鈴を鳴らすが、応答はない。

「開けられる?」

『ダメです』

 中にいるなら、何か分かるはずだ。

 麗子は霊視のようなことが出来ないか、部屋の外でもがいた。

 しばらく第一夫人の部屋の扉を見ていると、内なる声を聞いた。

『俺が見てこようか』

 麗子の中に憑いているキツネの声だった。

「お願い」

 白い、小さなオーラが麗子の体から溢れるように落ちると、キツネの形になった。

 侍女達にはもちろん、見えない。

 扉がないかのように飛びつくと、白いオーラは部屋の中に消えていった。

『いない。この部屋の中じゃないな』

 麗子が手を伸ばすと、その指から吸い込まれるようにオーラが戻ってくる。

「もういいか?」

 警備の男がそう言うと、麗子は頷いた。




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