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彼女と刑事の除霊事件簿 ガスト王国編  作者: ゆずさくら


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第二夫人の地元

 麗子は、王国の道は綺麗に舗装されていると思っていた。

 そう言う印象になるのは、都心だけを移動していたからだった。

 第二夫人の地元であるザフラに入るなり、いきなり道路の凹凸が目立ち始めた。

 大きな水たまりを越えるときに、タイヤがスタックしそうになる。

 初めて車が『ジープ』であることが役にたった。

 通りの周囲の家も、簡単な作りの家だったり、修繕が行き届いていなかったりする。はっきり言って、ぼろ家ばかりだった。

「王国はどこも豊かなんだと思っていた」

 麗子が言うと、シュルークは答えた。

『王族や、政治家の意向でこうなる地域もあるのよ』

 通訳された言葉を聞いて、有栖が言う。

「どこの国も同じね」

『……』

 シュルークは運転に集中しているのか、答えない。

 麗子が見た限り、路肩にいる人々の顔も浮かない表情の人が多い感じがする。それ以外は、ガラの悪い感じだ。すぐにでも喧嘩しそうな、目つきの悪い連中。貧困が町の治安にも影響しているようだ。

「全員が同じように仕事につけたり、国からの支給を受けたりしてるんじゃないんですか」

『王国でも例外はあるのよ』

 豊かな都心に住む者と、富の行き渡らない地方。

 もしこんな地域から出た皇太子夫人が、戻ってくるとしたら。麗子は想像した。

 周囲とは比較にならないような豪邸。門には警備の者が立っていて、町の人から羨望の眼差しを向けられている。都心から高級車で帰ってくるのは、王族の第二夫人。

『さあ、そろそろよ』

 道のガタガタが大きくなってきた時、シュルークはそう言った。

 麗子が想像したような家は見えてこない。

『ついた。ちょっと車をしまってくるから、ここで降りて待ってて』

 降りた所に立っていたのは、年季の入った三階建てのコンクリート製の集合住宅だった。

「第二夫人のご家族が住んでいるのだから、豪邸かと思っていた」

「私もそう思ってたんだケド」

「あなた達が言ってたじゃない。王国の人たちは、宗教上、妬まれないようにするって」

 そうか。麗子は思い出した。周囲に妬まれると言うのが、最も避けなければならないことなのだ。

 だとすると、ご家族の方がこういう所に住み続けるのは分かる気がする。

 車をどこかに停めて、シュルークがやって来た。

『お待たせ。さあいきましょうか』

「この建物? 車はどこに置いてきたの」

『車はいたずらされないように小屋にしまって来たわ。夫人の乗ってきたSUVもそこにあったから、もういると思うわよ』

 シュルークの後をついて、集合住宅に入っていく。

 階段を登って、三階についた。

 階段の壁や、途中の家の扉に、スプレー塗料で塗ったいたずら書きが残っていた。

 扉の前で、シュルークが呼び鈴を鳴らす。

『シュルークです。お約束の件で参りました』

 錆びた鉄が擦れ合うような音がして、鍵が解けた。そして扉が静かに開く。

『わざわざこんな遠くまで足を運んでもらって……』

 第二夫人は、小柄な人だった。髪は黒く、少し縮れていた。

 夫人は笑顔を見せた。

『どうぞ、みなさん入ってください』

 シュルークが扉を支えて、ロボットのアーヤから順に入っていく。

 第二夫人は言う。

『ここは私の家族の家なんだけど、ちょっと合わせている時間はないの。身体検査をするなら手短にお願い』

 麗子は橋口をチラッと見てから、夫人に言った。

「じゃあ、すぐにでも始めたいんですが……」

 そう言うと麗子は、アーヤに言って『裸になって欲しい』旨を伝える。

『裸? じゃあ、シャワールーム(あっち)でやりましょうか』

 麗子はシュルークに言う。

「シュルークは玄関で待ってて」

『行きましょうか』

 そう言うと夫人はシャワールームに案内した。

 シャワールームに着くと、夫人は全く何の抵抗もないように、着ている服をスルスルと脱いでいく。

 麗子達のオロドキに気付いたのか、夫人は言う。

『私、以前、モデルをしていたことがあって、裸とか抵抗がないのよ』

 なるほど、と思った。

 この町に住んでいる女性が、いきなり王族の夫人になるのは無理がある。モデルとなって町を離れ、そこからさまざまなツテがあって皇太子とくっつくことになったのだろう。

 第二夫人の褐色の肌は、非の打ち所がないほど美しかった。

 麗子は言う。

「お願いがあります。こちらのカンナの胸に手を当てていて欲しいんです」

『いいわよ』

 麗子は橋口にシャワールームへ入ってもらった。

「かんな、お願い」

「じゃあ、始めるんだケド」

「始めます」

 アーヤが夫人に伝えると、橋口の胸から霊力(オーラ)が注がれる。

 人には霊力の保有力があって、それを越えると、体から溢れ出てくる。

 体に霊的な施しがあれば、そこから顕著に放出されるので、もし皇太子を呪っている幽鬼(ジン)と契約したのなら、契約の証が体に浮かび上がるはずなのだ。

 第二夫人の細かい産毛や、黒い髪の先、指の端、そういったところから、霊力(オーラ)が溢れ始めた。

 麗子は、背中や顔、胸、太ももなど、さまざまな部分を確認する。

 しかし、何も契約の証は浮かび上がらない。

 第二夫人も『シロ』だ。

「ありがとうございます。これで検査は終わりです」

『これ何か、体が暖かくなるのね。あ、もう服を着てもいいのかしら?』

「すみませんでした。もう服を着ていただいて結構です」

 第二夫人は言う。

『鍵は私が後でかけますから、そのままお帰りください』

「ありがとうございました」

 そう言って麗子達はそのまま部屋を出た。

 大変な思いをしてここまで来たが手がかりはなし。だが、第二夫人、第三夫人が幽鬼に関与していな猪は決定したのだ。後は二人だけ…

 階段を降りながら、シュルークが言った。

『ここら辺はザフラの中心的な町なんだけど、この前のシャイタンが見つかったのがここの隣町なのよね。せっかくだから行ってみる?』

 麗子はロボットがダークネットを検索して見つけた伝票の画像を思い出した。

「あの伝票の住所に行ってみるってわけ?」

『どうせ今から帰っても半端な時間だから、いっそもう少しこっちで調べてから帰らないってこと』

「分かった。行ってみましょう。良い?」

 麗子は、橋口と有栖に同意を求めた。

「良いんだケド」

「私も、賛成。そもそも意見出来るような立場じゃないし」

「じゃあ、決まりね」

 ロボットを含めた四人は、シュルークについて行き、小屋に入ってジープに乗り込んだ。




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