修羅場
第四夫人であるファルハーナは、近づいてくる人影を認識して立ち止まった。
第一夫人と皇太子の呪いを解く為に連れてこられた霊能者。
こんなところまで来て、一体何がしたいのか。
『こんなところでなんのようですか』
対して第一夫人が答える。
『あのジープ。あなたがくる前から停めてあったと思うけど、私、ずっと見てたのよ。どんな時間がたったのかも』
『!』
二人の会話を聞いて、麗子が言う。
「夫人達の面会時間は同じだと聞いていますが」
アイーシャの形をしたロボットは通訳する。
『なぜあなたの面会時間が長いのかって聞いているわ。夫人達は同じ時間を与えられているはずなのに』
ファルハーナは少し動揺したように見えた。
『いいえ、皇太子との時間は決められた時間を守っています』
「侍女達が出てきた時間で、おしまいのはずです。なのに、あなたは出てこなかった」
アイーシャが訳すと、第四夫人は手を振る。
『施設にいただけで、皇太子と会っていたわけではないです』
「会っていないと言う証拠は?」
『あなた達がここで見ていたんでしょう?』
「中は見えないので」
ファルハーナは施設を振り返った。
それを見て麗子が施設を見ると、施設の扉が開いた。
『スワイリフ』
ゆっくりと近づいてきてから、小さい声で三人に言う。
『ここだと侍女に聞かれる。いや、聞かれないにせよ、勘繰られる。話をするなら一度施設に戻ろう』
麗子達は言われるまま、施設に戻っていくスワイリフを追って施設に入った。
スワイリフの執務室に入ると、スワイリフが立っている方にファルハーナが座り、反対側に麗子とアイーシャが座った。
麗子の指が強く握られる。するとアイーシャが言った。
『スワイリフ、あなたって人は』
『な、なんのことを言ってる』
『わかるでしょ』
アイーシャが怒ったようにそう言うと、ファルハーナも睨むように立っているスワイリフを見る。
視線が落ち着かないスワイリフは、ファルハーナとアイーシャを交互に見ながら、言う。
「夫人が、皇太子と会っていたのでなければ、スワイリフと会っていたわけですよね」
アイーシャが、麗子の言葉をストレートに訳すと、スワイリフは怒り、ファルハーナも紅潮させて言った。
『なんで私が夫人と会っていたことになるんだ!』
『この国では家族でない男性と女性が一緒にいることはないんです』
「好きあった男女はどうするんですか?」
スワイリフが言う。
『同じだよ。結婚するまでは二人きりになれない』
「では、以前見せていただいたように監視カメラの映像を見せてもらっていいですか?」
『出来ない。申請してから見れるようになるまで時間がかかる』
スワイリフは即座にそう言った。
「以前の監視カメラ映像には疑問が残る点があった。あの時にも言ったと思うのですが、スワイリフが執務室に入るところは残っているのに、出ていくところがない。要人がきたから一部削除したと言うことでしたが、その日は第一夫人がくる訳で男の要人がくるとは思えない」
長い内容を訳していると、ファルハーナはまたスワイリフの方を見つめている。
「その時も、今日も、スワイリフ、あなたは夫人と会っていたのではないですか?」
『なんで君がそういうことを言うんだ』
ファルハーナが言った。
『スワイリフ、あなた、もしかしてアイーシャとも……』
麗子は指を強く握り込んだ。するとアイーシャが割り込む。
『ファルハーナ、それはどういう意味ですか? まさか、あなた、スワイリフと……』
ファルハーナは立ち上がって、スワイリフとアイーシャの顔を交互に見た。
『まさか、私、なんてことを……』
スワイリフは声を荒げた。
『アイーシャ、訳すのをやめろ! いいか』
そして、ファルハーナの肩に手を乗せると言う。
『俺は君が好きなんだ、第一夫人とは、仕方なかったんだ』
麗子が握った指を見つめる。アイーシャが言う。
『仕方ないというのはどう言う意味です』
『この女から誘ってきたんだ。昔から好きだったと、俺のまえで肌を見せてきた』
ファルハーナは拳を振り下ろす。
『だからって抱いたの? 私だけだって言いながら、他の女、しかも第一夫人だなんて』
『誤解だ、俺が一番好きなのはファルハーナ、君一人だ』
『信じられない!』
ファルハーナは泣いていた。
振り下ろした拳を震わせていると、部屋を飛び出していった。
『待って、ファルハーナ!』
対話を拒絶するように扉を強く閉めるハルファーナ。
スワイリフも、扉を開けて追いかけようとはしない。
『出てってくれ!』
スワイリフの声が、部屋中に響いた。
『出てけ!』
アイーシャが立ち上がって部屋を出ようとするので、麗子もそれを追いかけて出ていく。
一人残されたスワイリフは、その場で膝を突き、頭を抱えた。
ロボットと麗子が施設を出ると、土煙が上がって第四夫人の車が帰っていった。
ジープにゆっくりと戻ると、橋口が言った。
「話せる内容なら話してほしいんだケド」
「ごめん、まだ、話せない」
「……まあ、いいんだケド」
麗子はロボットに通訳させ、シュルークに言った。
「第二夫人の地元に出発しましょう」
『夫人の地元は遠いから、ちょっと時間がかかるの覚悟してて』
施設を出る為、ジープがゆっくりと走り出した。




