T都、話のはじまり
時と場所は、T都に戻る。
二十年もかかった『時間跳躍事件』が無事に解決した直後だ。
自らの除霊事務所を持つ永江リサは、S谷警察署を出て、Tヒルズの事務所に帰るところだった。
二人の女子高校生バイトと共に、タクシーの奥のシートに座っている。
永江所長はシートに深く座っていたが、急に何かに気づき体を起こした。
そして窓の外をじっくり見て、辺りを確認する。
「運転手さん。ちょっと! 道違うわよ!」
「いいえ。こっちで良いんです」
「良い訳ないでしょ! 降りるわ。止めて!」
逆にスピードを上げたタクシーは、正面にある大きな門をくぐると、真っ白な建物の地下に滑り込んでいく。
「残念ですが、ここでは治外法権が適用されます」
地下の駐車場で車が停止すると、二重のシャッターが同時に降り始める。
女子高校生バイトの一人、橋口かんなは、スマフォで現在位置を確認して叫ぶ。
「あっ! ここ『ガスト王国大使館』なんだケド!?」
「ガスト王国って?」
「えっ、麗子がガスト王国知らないんだケド」
もう一人の女子高校生バイト、冴島麗子は頭の中の引き出しをあっちこっち引っ張り出して、中身をぶちまけながら探すが『ガスト王国』という言葉は探せない。
「ガストって、スペイン語?」
「スペイン語かどうかなんて知らないんだケド」
「なんだ、かんなも知らないんじゃん」
永江が言った。
「ガスト王国は石油マネーで潤っている中東の王国よ」
タクシーのドアが外から開けられる。
そこには髭を蓄え、真っ黒なスーツをきた背の高い男が立っていた。
「車を出ろ」
「流暢に話すね」
「大使館に勤める人間なんて、その国の『超優秀な人物』しかなれないんだから、外国語も完璧に決まってるんだケド」
降りかけていた橋口は、車の外にいた男につまみ出された。
「余計な口をきくな」
それを見て麗子は黙って車を下りる。
男に向けて手のひらをみせ、左から右に動かした。
「残念だが、俺に『命令』は効かんぞ」
麗子は後ろから下りてきた永江に肩を叩かれ、小さい声で囁かれる。
「確固たる信仰に支えられている人には、効きにくいことがあるわ」
永江は会釈をして、麗子の背中を押して進んだ。
「反対に信仰が強すぎて、簡単に効く場合もあるんだけど。多分、この人をどうにかしただけではここから出られない。まずは話を聞きましょう」