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緊急連絡

 第三夫人が受けるエステサロンがあるビルに近づくと、警備の男のスマフォが何度も鳴った。

 通訳してくれない為に何を話しているのかはわからない。ただ、男の顔は緊張感に溢れていた。

 車は地下の車回しに滑り込み、止まった。

「第三夫人がいる建物についたぞ。時間がないから急いで準備しろ」

 警備の男は素早く車を降りて、オートドアの前に立った。

 麗子達も素早く車を降りた。

「有栖刑事もくるの?」

「待ってるのも変でしょ」

 車の扉を閉めると、黒のSUVは駐車スペースに向かって走り去った。

 警備の男が言うまま、ビルの中を進むと、エレベーターで八階へ向かった。

「ここだ早くしろ」

「何で急に急がせるの?」

「とにかく急げ」

 麗子は納得いかなかったが、エステサロンに入っていく。

 話はついているようで、そのまますんなりと第三夫人のいる部屋に案内された。

 部屋の中で第三夫人は、中央にある台の上で、大きなタオルを掛けられた状態でうつ伏せに寝ている。

 麗子は思った。

「あれ? 通訳が誰もいない」

「イングリテラーなら私が話せるんだケド」

「まじ?」

「嘘言う理由ないんだケド」

 橋口が、第三夫人に話しかける。

『夫人、お体を調べさせていただきます』

「通じてるよね」

「あったりまえなんだケド」

 橋口は、夫人の手をとって、胸に近づける。

『これは霊力を夫人に入れる儀式です。霊力が溢れた時の反応を調べる為です』

『わかったわ。続けて』

 橋口が夫人の手を自らの胸の上に置くと、瞼を閉じた。

「これで霊力が漏れ出てきたところを確かめるんだケド」

「分かったわ」

 麗子が夫人のタオルに手を掛けると、橋口が説明する。

『タオルを外させていただきます』

『どうぞ』

 橋口が合図すると、麗子はタオルを外した。

 美しい、白い肌。

 長い髪はまとめて簡単にピンで止めてあった。

 麗子には橋口の胸から、夫人の手を伝わり霊力(オーラ)が流れ込んでいくのが見えた。

 だが、その霊力(オーラ)は体の端々から漏れ出て行ってしまう。背中には何も浮かび上がらなかった。

 橋口が目を開けると、麗子は首を横に振る。

「違う、わね」

 橋口は納得したような顔をして、夫人の手を離す。

『ご協力ありがとうございました』

『何かわかったの?』

『ええ、わざわざお時間いただき、本当に感謝いたします』

 橋口がそう言いながら、タオルをかけ直す。

『それでは失礼します』

 橋口が言うと、三人は部屋をでた。

「どうだ、身体検査は終わったか」

「終わりました」

 麗子が言うと、警備のものはエステサロンの者に告げる。

『夫人は後三十分で王国に出発せねばならん。早く支度を整えてくれ』

 えっ、今ノーメイクで裸なのに。空港までの時間を考えると、三十分じゃ何もできないだろう。

「お前達も同じ飛行機で戻るぞ」

「夫人と同じ飛行機で?」

「早くしろ」

 麗子は警備の男に訊いた。

「王国で何かあったんですか?」

「国境での紛争が激化してきた」

「えっ、どういうことですか?」

 紛争、つまり戦争だ。戦争と今すぐ帰らなければならない事がどう結びつくのか。まさか、イングリテラーと戦争をする訳ではないだろう。

「ここからの飛行機は、紛争地域を飛ばないといけない。つまり、これ以上紛争が激化すれば、帰りの飛行機が危険にさらされる」

「……」

 無理に帰ろうとしたら撃ち落とされてしまうのではないだろうか。麗子はさらに質問を続ける。

「危険なら、待てばいいんじゃないですか? あるいは紛争地域を回避して飛ぶとか?」

「ここで舞ったら、いつまでも帰れない。地域を回避するには、別の紛争地域に踏み込むことになる。つまり現実的には不可避だ」

 つまり、急いで空港に行き、かつ、紛争地域の上空を通って帰らなければならないのだ。

「飛行機のパイロットは軍のエリートだ。そんなに心配するな」

 その事実が、どれだけの慰めになるか。麗子は考えた。それは同時に、軍のエリートが操縦しなければ回避できないような、最悪の状況だということの裏返しでもあるのだ。

「有栖刑事、いきなり大ピンチなんだケド」

「洒落にならないわね」

「早くエレベータで地下に降りるんだ。第三夫人もすぐいく」

 麗子達は黒のSUVの荷物を乗せるような簡易シートに乗せられた。

 しばらくすると第三夫人と侍女が乗り込んだ。

 後、二十分ほどしかないが、それで空港に着くのだろうか。

『出発します』

 警備の男は夫人にだけそう告げ、車が走り出す。

 勢いよく地下の駐車場から飛び出ると、メインストリートにでた。

 曲がる度タイヤが鳴るほど、スピードが出ている。

 歴史あるイングリテラーの街中を、異常な速度で走るSUV。

 ほとんどクッションの入っていないシートに座る麗子達は、ジグザグに走行する車に、あちこち体をぶつけていた。

 通常の空港施設のゲートではなく、要人用の特別なルートを通って直接、車のまま空港に入ると、スタンバイしていた飛行機の下に車が止まった。

『さあ、着きました』

 横に座っている侍女が第三夫人のシートベルトを外すと、二人は静かに車を降りて飛行機に入って行く。

 麗子達は、シートの倒し方が分からず、中央のシートの背もたれの隙間を乗り越えるようにして外に出た。

「急げ。撃ち落とされる前に王国に戻らねばならん」

 有栖が一番先にタラップを上がって行き、次に橋口、麗子と続いた。

 最後に警備の男が乗ると、飛行機のハッチを閉めた。

「王国に着くまでシートベルトは外すな。対空砲の回避運動で激しく揺れる可能性があるからな」

 夫人を乗せた小さなジェット飛行機が、航空会社の大きな旅客機と併走して加速し、飛び立つ。

 ここでジタバタしても始まらない。もう運を天に任せるしかない。

 麗子はそう思って目を閉じた。




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