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合流

 イングリテラーの空港に着くと、出入国審査を完全にスルーしてそのまま空港の外に出た。

 外交特権の濫用としか思えないが、こんなことで揉めて石油を止められたら、イングリテラー側も困るのだろう。空港の外で待っていた車は、黒塗りの高級SUVだった。

 運転手もクフィーヤをしていて、髭を蓄えた男だった。つまり、王国の人間だ。

 運転手が言う。

『第三夫人の予定が少し遅れています。今行っても身体検査は出来ません』

 麗子達には、運転手が何を言っているのかわからない。

『それなら、先に例の者と接触しよう』

『場所は?』

『とりあえずタワーブリッジに向かってくれ』

 麗子達には一切何も告げぬまま、車は走り出す。

 街中を走り、高い塔が見えてくる。

 橋に入る手前で曲がると、路肩に停車した。

「降りろ」

「ここに第三夫人が?」

「違う。ある人物と合流する」

「?」

 警備のものが指示する通りに川の方へ向かう。

 歩いていると、橋の上に水色のワンピースをきたブロンドの女性を見つけた。

「かんな、ほら、あそこ」

「アリスの格好してるんだケド」

「さすがイングリテラーね。やっぱり、ああいうマニアがいるのかしら」

 橋の上の女性は、白いエプロンと頭にはリボンをしている。○ィズニーのアニメに描かれた『不思議の国のアリス』の姿だった。顔までは遠くて良く分からなかった。

 その時、川側から風が吹いてきた。

 二人はその風の冷たさにブルっと震える。

 麗子達は王国の女性と同様、ニカブをつけ、全身もアバヤを着て隠していた。

「やっぱりこの格好じゃ寒いんだケド」

「そうだよね」

 麗子は振り返り、後ろを歩いている警備の男に言う。

「ねぇ、もうその人物は来てるの? まだなら、外寒いから、何か上着とタイツ的なものが欲しい」

「ダメだ」

「けど、中はこんな薄着なのよ?」

 麗子は言いながらアバヤをめくって、中が薄着なのを見せようとした。

 すると警備の男は慌てて言う。

「女が公共の場で肌を晒すな!」

「じゃあ、着るもの買ってよ」

 警備の男は頭に手を当てて、目を閉じる

「分かった」

 車に戻って近くのデパートに入る。

 流石にデパート内は暖かい。

 麗子と橋口は、つい観光気分になってしまう。

「あ、これかわいい」

「こっちの方がかわいいんだケド」

「いいね。かんなはそれ似合うよ絶対」

 必要なものを探して買えばいいものを、そうやって無駄に歩き回る為に、警備の男はイライラしてくる。

「いい加減に決めろ。決めないならこちらで用意させる」

「ごめんなさい。今決めるから」

 麗子は薄くて暖かい羽毛のダウンを選ぶ。橋口は厚手のコートを手にした。

 そのまま着る為に、会計後に試着室を借りて着替えてしまう。

「これならあったかい」

「それはよかったな」

 警備の男は呆れ顔だった。

「合流するものと連絡をとるから、ここで待っていろ」

 そう言って男は姿を消す。

 麗子と橋口は呆然とその場で立っていると、目の前を○ィズニーの『不思議の国のアリス』の格好をした女性が通り過ぎていく。

「えっ?」

「ここイングリテラーだから本家本元のアリスなんだケド」

「いや、違うよ、私たちの知ってる人、あの人だったよ」

「そんな訳ないでしょ? 有栖刑事がなんでイングリテラーに来てんだケド」

「わからないけど、休暇をとって旅行してるんじゃない?」

「……」

「有栖刑事を追いかけてみようか?」

「追いかけたらガスト王国には戻れなくなっちゃうんだケド」

「あれ、有栖刑事の方が私たちに気づいたみたい」

 二人の方に『不思議の国のアリス』が歩いてくる。

 アリスは、イングリテラーの小さい子供に手を振っていた。

 近づくと、有栖が言った。

「なんであなた達が? イングリテラーに来てるの? 学校は?」

「いや、有栖刑事こそなんでイングリテラーに」

「何だ、その格好は?」

 麗子の背後から、警備の男の声がした。

 麗子は振り返る。

「その格好って、さっきと同じでしょ?」

 警備の男の視線は、有栖に向けられていた。

「その人、麗子ちゃん達の知り合い?」

 麗子は有栖の方を振り返った。

「合流する人物ってまさか」

「待て、お前達は知り合いか?」

 全員が男を振り返って頷いた。

「驚いたな……」

 警備の男は静かにそう言ったが、女子の耳にはまるで届いていない。

「何を頼まれたんですか?」

 麗子が聞くと、有栖が答える。

「ガスト王国に招かれた客人のボディーガードって聞いてる」

「王国に招かれた客人って、もしかして私たちのボディーガードをするのが有栖刑事なんだケド」

「けど、私たちにボディガードがつくなんて聞いてないけど」

 有栖は首を捻ってから言う。

「けど客人は二人だって聞いたから、数的には合ってるね」

 三人は殺気を感じた。

「おい、お前達。騒ぐのは車の中にしてもらおうか」

 三人は警備の男に、顔だけ振り返って返事をする。

『はい』


 車に乗り込むと、麗子と橋口、有栖の三人はまた話し始めた。

「私、客人の二人が殺されないように守れと言われたんだけど、誰から狙われているの?」

「狙われている感じはあるのよね。けど誰かは分からない」

「狙われている感じじゃなくて、具体的に乗っている車がパンクしたり、スナイパーに狙われたりしたんだケド」

 麗子は付け加える。

「パンクの原因も、噂では銃で撃ち抜かれたらしいから、同じ人物かもしれない」

「もしそうだとすると、私は何のために呼ばれたのかしら」

「警察なんだから、スナイパーの対策くらい知ってるはずなんだケド」

 有栖は首を横に振る。

「ガスト王国には軍隊がある訳でしょ? 軍隊の人には敵わないわよ」

「確かに、王国の軍にも女性はいますから、有栖刑事の優位性はないですよね」

「ますます何しに来たのかわからないんだケド」

 有栖はムッとした顔になった。

「何でそこまで言われなきゃならないの。多分、単純なスナイパーじゃないのよ。私は対魔用銃のスペシャリストなんだから」

「そんなの初めて聞いたんだケド」

「確かに可能性はありますね。私たちは幽鬼を呼び出して皇太子を呪った人間を探しているんです。幽鬼を呼び出すぐらいだから、敵も何かしら霊的な能力を持っているかも」

 有栖は麗子と橋口の格好を見てため息をつく。

「王国に行ったらそんな格好しなきゃならないのね」

「当たり前なんだケド。男女七歳にして席を同じゅうせず何だケド」

「宗教上の理由なんだからちょっと違うけどね。ああ、けど、アバヤの下はその格好でもいいんですよ」

 麗子は自分のアバヤを摘んでそう言った。

「話は変わるけど皇太子の呪いを誰が掛けたか見当はついたの?」

「まだ全然だめなんだケド」

「それを調べる一環でイングリテラーまで来たんだから」

 そう言うと、麗子は下を指差した。

「イングリテラーは第三夫人の故郷なんだケド」

「奥さんいっぱい居て幸せね」

「それはどうかはわかりませんけどね」

 麗子は含みのある言い方でそう言った。

「夫人達と同じ回数エッチなことしなきゃいけないから皇太子はヘトヘトなんだケド」

「誰がそんな意味で言うか!」

「まあまあ、王国に着て大人になったのね、二人とも」

 助手席から警備の男が振り返る。

「声が大きい! 静かにしろ!」

「すみません……」

 そう言って麗子は頭を下げた。




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