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第三夫人の故郷

 麗子と橋口、そしてアーヤは与えられた部屋に戻っていた。

 監視カメラや盗聴器から一番遠い場所に集まると、言った。

「麗子はあのシュルークとか言う侍女を疑ってるふうに見えるんだケド」

「ああ、そうね。ちょっと疑っているよ」

「シュルークが敵だとしたら、シュルークが()ろうと思えば私たちすぐ殺されちゃうんだケド」

 確かにそうかもしれない。この国なら麗子達の国とは違い、銃とかボウガンとか殺傷力のある武器がすぐ手に入るだろう。私たちを殺そうという人間がいる一方で、助けようとする人間もいるはずだ。その力が拮抗しているから、何も起こっていない、あるいは起こっていないように見えるだけなのかも。

「それと、スパイだと思っているのはハイファーという侍女だと思ってたんだケド」

「ああ、ハイファーという侍女だとしたらちょっとおかしいでしょ?」

「なんでなんだケド」

 橋口は顎に指を当てて、頭をかしげる。

「シュルークはこっちがハイファーを疑っていることを知っていて、あの時名前を出したと思うんだよね。そこにいたのは自分です、という代わりに、すれ違うのを見たと言っておいた方がよかった」

「確かに、開けた時に扉の外にいたのはハイファーではなくてシュルークだったケド」

「それともう一つ、香木の話を聞きにいったお店で銃撃を受けたことよ。この建物で打ち合わせている内容からはずれている。第四夫人についているハイファーがどうやってシュルークの母が連絡した店の情報をつかめるの?」

「確かに、そう言われると反論できないんだケド」

 橋口が少し震えているように見えた。

「あの時のこと、一つ不自然なことがあるよね。あの時、麗子は銃撃を予想した。あれ、どんな理由で銃撃を予想したのか聞きたいんだケド」

 麗子は思い出す。

 あの時のツバメの群れ。

 ツバメを通して、何か大きな霊体の存在を感じた。

 ツバメはその意志を伝えるために寄越された使者に違いない。

 なぜ私を助けようとしているのか。

「ちょっと、麗子、私の言葉、聞こえたんだケド」

「ああ、あの時ね。あの時、ツバメがいっぱい鳴いていたでしょ……」

「!」

 橋口がまた扉の方で気配を感じたらしい。そのことを指で示した。

 そっと近づくと、途中でインターフォンが鳴った。

 充電中のアーヤが、ケーブルを引きずりながら応対する。

『シュルークが来ました』

「警戒して損したんだケド」

 シュルークが部屋に入ってくると、言った。

『レイコ、カンナ、すぐにイングリテラーに向かってください』

 アーヤが通訳する。

「えっ、なんで? イングリテラー」

『初めに第三夫人から身体検査を行なってください』

「それはいいけど、なんでイングリテラーなのかってこと? この建物にいる人からやればいいし、もしイングリテラーに第三夫人が行ったのなら、こっちに戻ってきてからでもいいじゃない」

『皇太子から身体検査を急げと指示が出たからのようです。レイコ達がイングリテラーに行く際、同行する警備の者も、もうこの建物に来ています』

 麗子は手を額に当てた。

 これが本当に皇太子の指示なのか? 皇太子の指示だとしたら理解に苦しむ。敵の策略だとして、なぜ国外にいかせたいのか。例えば国外で人が死ねば、その国の法で裁かれることになるだろう。殺すなら国外でやる必要はない、今、ここでやれば秘密裏に処理できるだろう。とすると、何か別の狙いがあるのだろうか。

 麗子の考えを遮るかのように、シュルークは言葉を続ける。

『第三夫人は先ほどイングリテラーに()たれました。急いでください。悪いですが勅令なのでレイコ達に選択肢はないんです』

「アーヤは連れて行ける?」

『ダメです。通訳は警備の者がします』

 麗子は戻ってきた時の捜査のために、アーヤに入った情報や、アーヤの機能が必要だと思っていた。本当は連れていければいいが、ダメだとすれば一番安全なところに置くしかない。

「シュルーク、少し準備するから出て行ってくれない?」

『時間がありません。三十分後には建物をでますから、十分とか、二十分までなら』

「分かった」

 シュルークが出ていくと、アーヤに言う。

「この建物の警備室にいて。私達といた時に見聞きしたことは絶対に言わないこと。いいわね」

『承知いたしました』

「このロボットには式神が憑いてるんだケド」

「そうだけど」

「私たちから離れていると、式神の力が抜けて行ってしまうんだケド」

 式神の知識は橋口から教わったものだ。橋口がそう言うなら、そうなのだろうけれど、じゃあどうしたらいいかは麗子には分からなかった。

「どうしよう? どうしたらいいの?」

「十分霊力を蓄えておけば問題ないんだケド」

「えっ、そんなこと、私にはできないよ。かんななら出来るでしょ? お願い!」

「分かった時間ないけど、可能な限りやって見るんだケド」

 アーヤの手を引っ張って、橋口は自らの胸に当てた。

 麗子の式神に、橋口の霊力を与えても、大抵の場合、問題は起こらないだろう。

 麗子は部屋の中を走り回り、橋口の分も合わせてイングリテラーに出かける支度をした。

「イングリテラーは寒いのかな?」

「寒いと思うんだケド」

「ここにはコートとか用意してないよ」

「連中に用意させればいいんだケド」

 ここで与えられた着替えは肌着類と国気候に合わせた服だけだった。

 持って行っても気候が違いすぎて、あまり役に立たないかもしれない。

「もとが機械だからあまり霊力が入らないんだケド」

「かんな、ありがとう」

 そう言うと橋口に抱きついた。

「抱きつかれても何も出ないんだケド」

 麗子はアーヤに向かって指示をした。

「さっきも言ったけど、私達と見聞きしたことは、シュルークや他の侍女には話をしないこと。侍女に見つからないように地下の警備室に入って、警備の人の邪魔にならないように、かつ守ってもらえるように目立つ位置にいるのよ。お願いね」

『承知いたしました』


 シュルークが再び部屋にくると麗子達はスーツケースを運んでもらった。

 車回しに着くと、軍用の大きな装甲車が止まっていた。

 シュルークはスーツケースを装甲車に載せた。

 警備の男がやってきて、麗子と橋口に言った。

「これから軍の空港に行き、そこからイングリテラーに向かう。イングリテラーでの行動中は私が着く」

 そう言うと、男は侍女の方に向き直った。

『シュルーク、君はもう下がっていい』

『分かりました…… レイコ、カンナ、さようなら』

 シュルークが建物の中に消えていくのと見て、麗子達は手を振った。

「全くこんな時期にイングリテラーに渡るとは、お前達は何を考えているのか」

「えっ、私たちが言ったわけじゃないですよ。急ぎたいとは言いましたが」

 警備の男は装甲車の扉を開けて麗子達に乗るよう促す。

「皇太子からはイングリテラーで第三夫人の身体検査をしろとの指示だ。そもそもこの第三夫人の身体検査をするというのは、お前達の要望の通りなのではないのか?」

「……まあ、身体検査をしたいと意味ではそうですけど」

 車の運転席と助手席には軍の制服をきた男が一人ずつ乗っている。

「今、第三夫人はロンドンのエステを受けている。そこでなら時間が空くようだ」

「なぜロンドンまで行ってエステを? お金があるんだから、この国に呼び寄せれば良いだけでは?」

「第三夫人はそもそもイングリテラー出身だからな、里帰りして気分転換したいのだろう」

 皇太子はもしかして、暗に第三夫人が一番怪しいということを伝えたいのではないだろうか。麗子は考える。

「第三夫人の行動は把握していますか? 皇太子が呪われてから、ロンドンに行く機会が増えたとかはありませんか?」

 警備の男はスマフォを操作して何かを確認していた。

「別に行動が変わった感じはないな。以前から一定の間隔で行き来している」

 装甲車が空港の警備を通過して、空港内を走っていく。

 飛行機の下に車が止まると、車を降りた。

 麗子と橋口は、一緒に降りた警備の者に追われるようにして飛行機に乗り込んだ。




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